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転生とプロローグ

新連載。終わり方は決めているけれど、そこまで無事に描けるかどうか。だがエタらないようにチマチマ書いていきたいと思います。



それではどうぞ

 俺は稲賀いなが りょう。一般的な高校生だった。……あの日、トラックに撥ねられるまでは。



(あれ? ここはどこだ?)


 俺は気が付くと真っ暗な空間にいた。なんというか、触れたものすべてを吸い込みそうなほどの漆黒という感じの空間だ。光源になりそうなものも見当たらない。当然だがこんなところに心当たりなどない。というか、俺はさっきまで、ごく普通に高校からのんびり帰っていたはずなんだが……と、ここまで考えて思い出した。


(ああ、そうか俺は死んだのか)


 そう、平凡な帰り道にあった普段と違うこと、片手に某有名アプリが起動している状態のスマホを持ち、居眠りしながらトラックを運転していたやつが突っ込んできたのだ。当然、暴走運転だった。


(よそ見運転・居眠り運転・暴走運転でスリーアウトじゃねえか。くそっ、あのトラック運転手、公正に裁かれろ……)


 そんなことを考えている時点で思考が空転しているということがわかるが、仕方ないことだと思う。なんせ、急に死んでしまったのだから。むしろ、死んだことを受け入れているだけ俺はまだ冷静な方だと思う。


(まあ、いい。とりあえずここは死後の世界ってことか? こういう時、普通なら神様とかが出てくるのだろうか? まあ、死んだ経験のある人なんて居ないだろうから、普通とかわからないが。)


 俺はとりあえず自分がいまどういう状態なのかを把握することにした。真っ暗でも自分の姿くらいは見えると思ったのだが……


(くそっ。体が全く動かない)


 まったく体が動かなかったのだ。首が動かないので、体を見下ろすことが出来ない。腕が上がらないから顔のところに手を持ってくることもできない……というか、腕や足の感覚すらないのだ。


(これは、やっぱり死んだからなのか? それにしては胴体部分は確かに存在しているようだが……)


 視覚は真っ暗で当てにならず、触覚は存在すら怪しい……となると、ほかの五感も確かめてみる必要があるだろう。その結果、以下のことが分かった。


 視覚・真っ暗で何も見えない。


 嗅覚・あまりにおいなどは分からない。そもそも鼻が無事かも不明だ。


 触覚・あてにならない。


 聴覚・現状で何かこするような音がかすかに、断続的に聞こえてくる。


 味覚・どうやって検証しろというのか? そもそも、何か食べられるような状態なのか?


 ……以上だ。味覚について考える必要はなかったと思う。だが、現状で耳は多少働いているみたいだ。


(死後の世界は、耳で生きていく場所なのか……って、そんなわけないか)


 さすがにここまで考えると、ここが死後の世界ではないということは俺にもなんとなく理解できる。ではここはどこなのだろうか? 俺は確かに死んだはずだ。となると、当然のように転生というものをしているのだろうと思うが……。




 そう考えていると、唐突に荒々しい音が響いた。


 そして、なにかを蹴飛ばしたような鈍い音とともに金切り声が響いた。


「いい加減にしなよ! アンタ!!」


 ドスドスという音が続き、その音をバックに金切声は響く。


「アンタがっ、ちゃんとっ、描かないからっ、入ってくる金が減ったじゃないかっ!」


 どうやら、何者かが、ここの空間? に入ってきて暴行を加えているらしい。


 制裁にしては明らかに長すぎるその暴力に俺は苛立った。声をあげて誰でもいいから呼ぼうとしたが、なぜか声が出なかった。やはり死んだためだろうか? 俺は結局、現状何もできない。


 頭の冷静な部分では現状を分析していた。断続的に聞こえていたこするような音は、ここにもともといた誰かが何かを書いている音で、その音の主は小さな声で「ごめんなさい、ごめんなさい」と謝っているようだ。


 しばらくして暴行が終わったのか、鈍い音は聞こえなくなった。暴行をしていたであろう声の主は一言、


「面倒を見てやってるんだ。さっさと金になる絵を描きな!」


 と、乱暴に言い捨てて立ち去って行ったようだ。荒々しい足音が遠ざかっていく。


(何だったんだよ……胸糞悪いな)


 そんなことを思っていた時だった。


「ケホッ、ケホッ! あれ? なんでこんなところに『カバー』が?」


 さっきまで殴られていたであろう人物の弱弱しい声とともに俺の視界いっぱいに光が差し込んできた。


 光に目が慣れたとき、俺の目の前には顔をあざだらけにした少女がいた。



  ~~~~  ~~~~



 灰色のショートヘア―の少女は首をかしげていた。翡翠色の目はしっかりと俺を見つめている。大きな丸い目で柔らかそうな印象のある少女だ。あざだらけで、ボロボロだったが、ちゃんとした格好をすれば十人に一人は振り向くであろう美少女だ。


 で、俺は、そんな十二歳くらいの女の子の部屋? に忍び込んでいた不審者になるのか?


 え、冤罪だ! というか、顔が近い、近い! なんでこの子こんなに無防備なんだ!?


 とか、現実逃避していると、


「ドラゴンの絵? ということは……」


 と、その少女がつぶやいた。


 いやいや、なんで俺がドラゴンだよ。それに俺は人間だ。平面なわけないだろう。そう言いたいがやはり声は出ない。


 そう思っていたら少女が近づいてきて俺の顔に触れた。すると、少女の手と俺自身が光りだした。


「父さんと母さんの遺品……名前は?」


 光ったり、近かったりと同時にいろいろなことが起こり、俺はかなり混乱していた。だから、少女のつぶやきとも取れるその言葉にとっさに返事をした。


「……稲賀 亮だ」


「えっ? しゃ、しゃべった!?」


 反射的にその少女は飛びのいた。


「そんなに驚くことはないだろ」


 いつの間にか普通に話せるようになっているが、とりあえず目の前の少女を落ち着かせようと思い、そう告げた。すると少女は驚きが飽和したのか、キョトンとした顔になって、


「普通壁に書かれた絵がしゃべったら驚くと思います……」


 と、言った。今度は俺が驚く番になった。



  ~~~~  ~~~~



 お互いに落ち着いて状況を整理したところ、俺の置かれた不可思議な状況が見えてきた。まず、目の前の少女はキュピリアというらしい。そしてこの部屋はキュピリアの家の地下室であり、アトリエでもあるらしい。もともとキュピリアの両親が使っていた場所だそうだ。事実、部屋の隅には様々な画材道具らしきものが置かれている。絵の具のようなものはあるが水道がないのは気になるが……。


 そして俺はその部屋の壁に描かれたドラゴンのようだ。だから俺はその両親の遺した作品ではないかと思ったらしい。


 自分のことをドラゴン(の絵)だと確認した方法はキュピリアの魔法が理由だ……こら、そこ、俺は別に頭がおかしくなったわけじゃないぞ。目の前で鏡の代わりをするような魔法を使われたから受け入れるしかなかっただけだ。どうやらこの世界にはいろいろな魔法があるらしい。


 ちなみに自分の見た目? は、西洋風の見た目のドラゴンだ。要はトカゲの進化版の方。蛇っぽくないドラゴンである。ドラゴンだが柔らかそうな雰囲気を持った黒の塗料で描かれた壁画である。頭の部分が何かに視線を合わせるように下げられており、なぜかその目の部分だけ塗り残されたかのように白目のようになっている、といった絵である。


「これでガリョウさんがドラゴンの絵で私の両親の遺品ということは分かりましたか」

「ああ、だけどまだ多少混乱している」


 ちなみに、キュピリアが俺のことをガリョウと呼ぶのは、最初に言った、『稲賀いなが りょうだ』を『いな、ガリョウだ』と勘違いしてそのままだからだ。


 訂正するのも面倒だし、そもそも転生? みたいなことをしているわけなので、なじみやすいような名前の方がいいだろうと思いそのままだ。


「それは、ガリョウさんは目覚めていたら急にこんなことになってた、ということですか?」

「ああ、そうなるな」


 俺の方は状況がわかったため、今度はキュピリアが質問をする番のようだ。と、いっても俺からキュピリアに教えられることは少なそうである、というより、キュピリアの疑問も今までのやり取りでほとんど解決しているみたいだが。いや、解決しないことが分かったというべきか。


「じゃあ、ガリョウさんは自分自身が私の両親の遺作かどうかは分からないんですね……」

「そうだな……まあ、状況的に俺がキュピリアの両親の遺作に間違いはないと思うが」


 結局、俺(というより俺が転生したドラゴンの絵)がキュピリアの両親が描いたという証拠がないのだ。なぜかそのことに対してがっかりしているようだったので、


「というか、キュピリアの両親が描いたということが何で重要なんだ?」


 と、聞いてみた。すると、キュピリアはポツリポツリと事情を話し始めようとした。


 だが、それを遮って、先ほども聞いたあの乱暴な足音が近づいてきた。


 乱暴な足音の主は、さっきこの部屋に来て暴力をふるっていたやつだろう。そんな奴に俺の存在はばれるとまずい、と言って慌てたように説明した後、キュピリアは、


 「すみません。詳しい説明はまたあとで……『カバー』!」


 とだけ言って、俺に触れると、俺の視界は暗転した。先ほどと違うのは何もわからないほどの暗黒ではなく多少は空間が把握できるくらいの暗さであるという事だ。だから、キュピリアと誰かが話していることがわかる。


「さっき誰かと話していたようだけど? 外と連絡を取ろうとしたわけじゃあないよねぇ?」

「はい、ひとりごとです……」


 やってきたのは、一人の女性だった。いかにも贅沢しています! という感じの指輪と髪飾りを付けた、きついメイクの女性だった。少し釣り目がちであるが、キュピリアと同じ翡翠色の目のため、どことなく彼女に似ている。だが、まとう雰囲気はかなりの差があるが。


「まあ、いいさ。とりあえず逃げようだなんて考えなければいい。さっさと金になる絵を描くことだね。ああ、食い物だけは用意したよ。養って(・・・)いるわけだし、金のなる木が枯れないようにするのは重要だ。いつものとこまで来ることだね」

「はい……」


 そうして、どことなくキュピリアに似ている女性は去って行った。養っているということは今の女性はキュピリアの母親か? いや、キュピリアは俺のことを両親の遺作(・・・・・)だと言っていた。ということはキュピリアの母親はもういないはずだ。


 そう考えていると近づいて俺に触れてきたキュピリアから小声で声をかけられた。


「ガリョウさん、聞こえますか? 返事はなくていいので、とりあえず聞いててください。私はこれからご飯をとりに行くのでここを離れます。その間、さっきの人にあなたのことがばれないようにしてください」


そしてキュピリアはこの部屋から出ていった。どこか怯えが見えるその小さな背中を、俺は何もできない自分に腹を立てながら見ていた。



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