第九話 銭湯と真実
銭湯が閉まる?
昨日まで休みなく毎日通っていた銭湯がなくなってしまうだと。
これから俺はどうやって風呂に入れば・・・
ガラガラ
「へ~、ここが銭湯か~」
「入る場所が二か所あるのはなんでなんでしょう」
「あ~それはだな、男と女で入る場所が違うから・・・ってなんで空いてんだよこの銭湯。閉めるって書いてあったのに。」
普通、閉店した時って入口のカギを閉めとくものじゃないのか?
不思議に思い中の様子を見てみる。
「聡くんいらっしゃい」
いつも受付にいる、ばあさんがいた。
「ばあさん、入口に貼ってある張り紙どうしたんだ?」
「ああ、あれのことかい。わしも見ての通り年老いてしまったから、銭湯を閉めようと思ったんじゃがどうしても閉めるのがもったいなくてここにきてしまったんじゃよ。」
[はあ、だれかこの銭湯を継いでくれる人がおればいいんじゃが・・・]
なるほどそういうことだったのか。
俺が継いであげたい気もあるが、学校に行けなくなってしまう。
「そんなことよりも早くお風呂入りたいんだけど」
「私もです~」
「お風呂ならさっき湯を張ったばかりだから入っていきんしゃい」
「やったー!」
「俺も入っていいですか?」
「どうぞ入ってくださいな」
「ありがとうございます」
ぽちゃん
誰もいない風呂場に水の滴る音と俺の呼吸音だけが反射していた。
いい湯だ。
こんないいところにこれから通えないだなんて残念だ。
しかし、俺のような学生には解決できない問題なのだろう。
「ちょっと聡!このお風呂めちゃくちゃ広いわよ!」
「ヒカリちゃん走ったら危ないですよ」
「大丈夫こんなところでドジなんか踏まないわよ!」
まるで子供のようにはしゃぐヒカリを見て俺は思った。
なぜ男湯にいるのだ。
なぜ女湯にいない。
確かに男湯と女湯の天井の壁はないから声が聞こえるだけならわかるが・・・
などと思考を巡らせているうちに事はおきた。
「あっ」
盛大にヒカリがずっこけたのだ。
「だから危ないって言ったじゃないですか・・・」
「あはは、転んじゃった」
「ケガするなよー」
「えっ!?聡なんで聡がこんなとこにいるの!?ここ女湯よねガイア?」
「さて、何のことでしょう?」
ガイアはにやにやしながらそう言った。
なるほどヒカリは、ガイアに騙されて男湯に入ってきたのか。
それならさっきの疑問も解決だ。
しかし男湯にヒカリを連れて入ってくるとは、ガイアはやっぱりあれなのだろうか。
痴女というやつなのか?
そもそも最初は俺の事を変態呼ばわりするようなピュアな天使だと思ってたのに。
ヒカリと一緒で最初だけは猫かぶってたのか?
「もう出る!」
「あ、ヒカリちゃんまってください」
俺が考え事をしていると、二人はバタバタしながら出て行ってしまった。
あの二人なんで一緒にいるのだろうか。
あんな事されたらヒカリならすぐに縁を切りそうなもんだが・・・
まあ考えても仕方ないな。
俺もそろそろ出よう。
「あんた男湯から出てきても顔色一つ変えないとは素質があるねぇ」
「そんなことないですよ」
風呂から出たら、ばあさんとガイアが話していた。
ヒカリは隅っこで顔を赤くしている。
「おお、聡くん。この銭湯を継いでくれる人が見つかったんじゃよ」
「よかったですね。それでその人は誰なんですか?」
「ここにいるガイアちゃんじゃよ」
ああ、なんていうかすごく人気の出る銭湯になる気がしてきた。
というよりなんでガイアが後継者になってるんだ?
「ガイアちゃんはすごいんよ。なんせ男湯に入っても顔色一つ変えないんじゃ。」
「そんなことで後継者にしちゃっていいんですか?」
「いいんじゃよ、要領もよさそうじゃし。泊まり込みで教えるつもりなんじゃよ」
こちらとしては同居人が減るのでありがたいことなんだが、本人の意見も聞かないとなぁ。
とそんなことを考えている矢先
「ぜひお願いします」
と、満面の笑みでガイアは言い放った。
本人はノリノリのようだ。
「本人がやりたいならお願いします、ばあさん」
「任せといて聡くん、一週間で一人前にするよ!」
「私も頑張るよ~」
ばあさんとガイアは早くも一致団結している。
コミュニケーション能力の塊かよ。
「じゃあ俺はアパートに帰るけどヒカリはどうする?」
「わ、私も帰る。あんな痴女なんかと一緒にいられるもんですか」
ガイアは友達からも痴女認定されてしまったようだ。
「じゃあガイアさん頑張ってね」
「頑張るよ聡さん。あっ、でもヒカリちゃんと不祥事は起こさないようにしてくださいね」
「おこさねぇよ・・・」
俺はガイアの変な妄想にあきれながら銭湯を後にした。
その時のヒカリが少し不満げだったのはガイアと別れてしまったからだろう。
こういうとこだけは可愛いな。
帰り。
夕暮れの空の下、ヒカリと歩いている。
これが神からの荷物なんかではなく俺の好きな人なら最高のシチュエーションだろう。
「あのさぁ聡」
おもむろにヒカリが口を開いた。
何かの決意を決めたかのように。
「私の天界での話聞きたい?」
「どうしていきなりそんなこと聞くんだ?」
「昼にガイアが私の天界での話しようとしたでしょ。その話を私が区切ったら聡、残念そうな顔してたから」
「でもあれはお前にとって話したくない過去の話なんだろ?なら別に話さなくてもいいよ。」
天界の話か、聞きたくないと言ったらウソになる。
だが、話したくないことを無理やり話させても気分が悪い。
「まぁ、話したくなったらいつか話してくれよ」
「分かったじゃあ今話すね、」
俺が気を使った意味ないじゃねぇか。
「私、天界では結構優秀な天使だったの。」
こいつ優秀な天使だったのか。
こっちの世界の事と天界では勉強するんだと思ってたがそうではないみたいだ。
「でも私は兄弟もいなければ両親にすら会ったことがなくて祖父母に育てられたの」
「・・・」
「そんな風に育った私は両親にあいたい欲求がだんだん強くなっていったの」
ここまではなんてことないよく物語にある展開だな。
そんなに天界のことについて話されたくないようにも見えないが。
「でも両親のことを調べるにつれてとんでもない事実が分かったの」
「それって・・・」
ヒカリは何かを決心したような顔で口を開く。
「私、悪魔と天使から生まれた子供だったの」