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禁忌×戦闘ディストーション  作者: Riviy
第一章 戦闘支部第十五期候補生
9/85

Mission9.決別と試合と実力の差を

戦闘バトルはこれから増える…予定です



「体力以外は有能の劣等品」

「なんで上位にいるのがお前なの」

「邪魔」

「振る事しか脳がない腰抜け」

「劣等品は此処にいる価値なし」

「消えろ」

「居なくなれ、邪魔」


嗚呼、頭にあいつらに言われた悪口が掠める。これよりもっと酷い事も言われたけれど、僕は弱かったから言い返せなかった。でも、


「あいつの隣のやつは阿呆」

「臣下も臣下であいつを選ぶなんて腐ってる」


千聖ゆうじん灯茉しんかの事を悪く言う事は許さない。


君らはそんなに偉いの?ー権力があるだけで?ー

君らは強いの?ー権力で人を握り潰しているようにしか見えないー


僕は、弱かった。言い返すことが出来ないくらい弱かった。それでいじめられる事もあった。でも、変わろうとしなかった、弱かった自分。今日此処でさようなら。

突然ですが、僕は決別します。時間はかかるけれど、その一歩として、此処で、勝つ。


**


ーガキンッッ!!!!ー


耳をつんざくような交差の音が響く。刃物を伝って振動が手に伝わる。国彦が相手する騎士見習いの青年は振動に顔を歪ませるが国彦はへっちゃらだ。

こんなの、千聖との体力作りの訓練にも及ばない。


怯む騎士見習いの青年(以下騎士見習い)に向かって大太刀を振る。ブオンッと音がして騎士見習いを襲う。が騎士見習いはその一撃を体を逸らして避けると国彦が次の行動に移るより早く、その懐に接近した。


「間抜けだなっ!」


騎士見習いが勝利を確信して嗤う。それに一同(観戦している候補生含む)は呆れた。その2つの目は何処についているのだろう。


〈だぁーれが、間抜けじゃと?抜かせ〉


冷たい、灯茉の声が響いたと同時に騎士見習いの剣を持つ腕に痛みが走った。騎士見習いの腕には高く上げられた国彦の足が軽く添えられていた。カランッ…と大太刀が床に落ちて跳ねる。驚く騎士見習いの腹に回し蹴りをかまし、後方に吹っ飛ばす。後方に簡単に吹っ飛ばされた騎士見習いが体制を立て直す前に国彦は大太刀の柄を足で弾いて自分の手元に引き寄せると大太刀を持っているとは思えないほどの速さで騎士見習いに接近した。


「なっ?!」

「大太刀を持った僕がすぐにダウンすると思った?」


国彦は騎士見習いに大太刀を上段から振り下ろした。重い一撃を剣で防ぐが腕は重さで震え、押し付けられる力に体の動きが制限される。


「僕ね、これでも、体力増えたんです」

「っっ?!」


ニッコリと無邪気に笑った国彦の笑みに悪寒が走った。灯茉の時と同じような悪寒。騎士見習いはようやく悟った。喧嘩を売る相手を、間違えた。権力なんて無意味だと。


がッと膝立ちになっていた騎士見習いの足を刈り、仰向けに倒れさせるとその首筋に大太刀の切っ先を当てた。ひっと情けない悲鳴が下からもれる。


「終了だよ」

「……ま、参りましたっっ!!」


一名、敗北。

その後、騎士見習いが他の権力者達よりも早く国彦に土下座しに来たのは数分後。


一方、王太子と呼ばれていた青年はというと横目で騎士見習いの負けた姿を見て苛立ちを隠せずにいた。


「っ!あんの使えねぇ!!」


ブンッと千聖に長剣を振るが軽く流され、またイラつく。千聖が何気なく足を刈ると足元を疎かにしていた証拠ですぐに倒れた。千聖はざまぁないと思った。王太子といえば剣の稽古はするはずで大振りが目立つ大斧を持つ千聖は簡単なのでは?


「お前の負けだな?」


そう言って大斧を突きつけてやれば悔しそうに顔を歪ませた。

第二回戦、4番の勝利。

国彦と千聖が嬉しそうにハイタッチを交わしていると騎士見習いが2人の前に土下座した。


「申し訳ございませんでした!!!」

「え、えっと…」

「体力面以外は優秀な劣等品だと思っていたのは事実ですが、これほど強いとは思いませんでした。権力を使って人を陥れていた自分が恥ずかしい。本当に申し訳ございませんでした!!」


自分の過失に気づき、謝っている。なんだか土下座が申し訳なく思って来た国彦は「大丈夫だよ」と声をかけた。騎士見習いはバッと顔を上げ、「ありがとうございます」と言うと小乃刃教官の元に行き、一言二言交わすと闘技場を出て行った。


「えぇっと、あいつ、自分から辞退した」

『え』


行動早すぎワロタ


その後も国彦は光希や壱華と共に残りの武家とお嬢様を倒し、力を見せつけたが王太子は懲りない。自分が上じゃないといけないらしい、権力に酔い痴れているらしい。周りは気づき始めて変わろうとしているのに…

国彦達が3勝したにも関わらず、背後から国彦に向かって長剣を振り下ろした。悲鳴が響く。


「クソがぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

「?!」

「国彦!!」

「くー兄!」

〈国彦様!〉


国彦は突然の事に振り返りはしたが驚愕し、硬く目を瞑った。…が痛みは一向にこない。悲鳴が一段と大きくなって響いた。


「きゃぁあああああ!!」

「誰か!あいつ抑えろ!」

「医療支部!!医療支部を!!」

〈傷!傷を確認して!〉

〈なんたることだ……〉

〈ウソ……〉


様々な感情が混ざり合った声をBGMに国彦が目を開けると目の前には自らの右肩で王太子の長剣を防いでいる灯茉がいた。長剣が灯茉の右肩に深く刺さっている。王太子は臣下に刃を向けた事が恐怖なのか震えている。


〈………〉

「あ…あ…劣等品のあいつが悪いんだよ!俺に楯突きやがって!!」

〈……小僧、良い加減にせぬか〉


鋭い視線が王太子を貫いた。誰もが動けなくなった。彼は、神の怒りを買ったさえ分かっていなかった。


〈負けたにも関わらず、今度は国彦に刃を向けただと?妾が忿怒すれば、本来ならば貴様は此処におらんと云うのに……貴様はどれほど妾を怒らせれば気がすむのじゃ?〉


カランッ…と灯茉が右肩から長剣を外すとそこから血が滴り落ちる。長剣が床に落ちる。長剣が光に包まれ、人間の姿になる。武器に変化する臣下だったようだ。仰向けの体には無数の傷があった。試合だけでは負いそうにない傷だらけ。つまりは。

その事実にも灯茉は怒りを露わにした。傷ついた右腕を振り上げた。王太子が身を竦めた。


「灯茉!!」

〈!!〉


国彦の声と抑えられた右腕に灯茉は動きを止めた。


「大丈夫、落ち着いて」

〈……〉

「灯茉が怒ることじゃないよ」

〈そうじゃな、すまんのぉ国彦〉


元の笑みに戻った灯茉に国彦が笑いかける。さっきまでの殺気も怒りも吹き飛んだ。神の怒りを静めることは契約や縁を結んだ人間であっても容易ではない。だが国彦はいとも簡単に静めた。やはり、彼は凄い者なのだと誰もが改めて理解した。


いつの間にか小乃刃教官が2人の足元におり、傷ついた臣下の傷を見ていた。そして憤怒の表情で立ち上がると狼狽える王太子に向き直って言った。


「お前達には居なくなってもらうぞ。他の候補生への悪質な嫌がらせ、自身の臣下に行ったとされる暴行。そして権力の横暴」


王太子がハッと我に帰り、俺は悪くないと叫ぶが騎士見習い同様、武家とお嬢様は自分達が悪かったと自覚しており、王太子の言葉には反応しない。


「お前達、以下3名を追放する!親からのお仕置きを楽しみにしてるんだな?」


教官のその一言は最後まで喚いていた王太子を黙らせるには十分だった。

その後、彼らは追放され国に戻ったと云う。王太子は王位継承権を剥奪されたらしい。

傷を負った灯茉は治療を拒否。すぐに治ると言ったその三日後に完治していた。

元王太子の臣下は灯茉が彼との契約を緊急事態として切った。その後は医療支部の治療によって回復に向かっていると云う。

模擬試合はあの後、そのまま中止になってしまったが翌日からの訓練は通常通りだった。変わった事といえば、国彦に友人が増えたことだろうか。臣下に対する質問や武器の扱いなど、国彦は様々な事を教え、代わりに教えてもらっていった。


充実した日々が戻っていた。

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