Mission8.反撃に、参りましょうよ?
突然の展開 (デデドン)
考えたらこうなった。本当に突然の展開
千聖は気付いた。対戦相手が言った意味が。
5番の奴らは見るからに俺達を見下している。戦ってて気付いた。あの笑みは自分が強いと確信し、弱い者を見下す目。嗚呼、イラつく…勝手に自分で決めて思い込んで…
時間が経ってない、まだ初対面、ただの友人、ただのチームメイト……そうやって恐れて踏みこもうとせずに、後で後悔すんのは…もうやめた!!
「お前の原因は5番か?」
「…え…あ…」
「どうなんだ?!」
〈千聖、やめぬか。それ以上、国彦を怖がらせる気ならこちらも容赦せずに行かねばならなくなる〉
鋭い視線が千聖に突き刺さるが気にしない。何か言いたそうに口を閉じては開ける国彦。そして決心したように小さく、千聖の問いかけに頷いた。それに一同に驚きが走った。
〈………〉
「黙ってて、ごめん…あの人達に一週間前くらいから嫌がらせされてて…」
「どんな」
「えぇっと…悪口を近くで言われたり…酷いものはそんなないけど…」
俯き加減で告白する国彦。灯茉の心中は痛くて仕方がなかった。自分の知らないところで国彦が嫌がらせを受けていたなんて…気づけなかった自分が憎らしい。
〈国ちゃんが体力面以外ではいっつも上位になってるのが気に食わなかったんでしょうね。ああいうタイプは努力せずに根源に突っかかるのよ〉
〈亜矢都様の言う通りでございます〉
「それにどっかの国の王太子だがなんだが権力の塊の人達でしょ?此処はあんたらの国じゃないっての!」
亜矢都、シルク、壱華、光希が怒りを露わに言う。国彦は自分の事を言われると思っいたので少々面食らった。
〈すまん〉
「灯茉?」
〈気づかなくて、すまん〉
自分を責めている灯茉に国彦は首を振った。
「灯茉のせいじゃないよ。君が臣下だったから僕は君のように胸を張って耐えてこれた。灯茉のおかげ、ありがとう」
〈っ…馬鹿者がっ〉
にっこりと言うと灯茉も歪だが笑ってくれた。さて、千聖は今だ怒っていた。その意味がわからず、国彦は困惑していた。
「千聖?」
「悔しくないのか?あいつらに嫌がらせされたんだぞ?」
「……悔しいけど……」
「だったら」
灯茉が国彦に大太刀を渡す。えっと国彦が声を上げ、千聖を見る。彼は光希から大斧を受け取ってにッと笑った。
「見返してやろうぜ?お前は、強いって事を教えてやろう」
「あたし達が心配した分、やっつけちゃってよ!約束ね、くー兄!」
〈我が主が申しております…あんな奴ら、ぶっ潰して、貴方の本当の力を見せてやれ…と〉
〈国ちゃん、行きましょう?〉
〈国彦、妾が認めた人間。妾にお主の成長した姿を見せておくれ〉
全員の笑顔が眩しくて国彦は目を細めた。
自分は何を怖がっていたんだろう。幻滅される事?友人でなくなる事?どれも違う、怖がっていたのは、自分だ。
国彦は大太刀の柄を握り締め、バッと顔を上げた。その顔には不安など宿っていない。ただ、信頼のみ。
「うん!君達に心配かけた分、取り戻して、決別するよ!」
**
決まったか。
小乃刃教官は千聖と共にやってくる国彦を見て確信した。国彦の顔に迷いはない。決別、弱い自分と決別する意志が感じ取れた。
ところで、
小乃刃教官は対戦相手、5番の者達を見た。第十五期候補生の中でも大きな権力を持つ者達。彼らはその権力に酔い痴れて自分がやったことに気付いていない。国彦以外にも彼らに嫌がらせを受けた者は数知れず。既に証拠も揃っているし、本部に報告も済ませてある。此処では誰もが平等。権力なんて関係ない。
彼らの仕返しが怖いからと何も出来なかった候補生達の目には希望が宿る。なんせ、相手は私が認めたチームの2人なのだから。
さあ、神居 国彦、斬原 千聖
私にお前達の実力と決意を見せてくれ
**
「あ、腰抜けだ」
「あんな奴、すぐに倒せますよね王太子様」
クスクスと対戦相手が嗤っている。隣の千聖と空中を漂う灯茉からは怒りと殺気が漏れ出しているが彼らは気付いているのか否や。気付いていながら煽っているならば相当だろうし、気付いていないのなら相当の馬鹿だ。彼らは、此処に味方がいない事にも気付いていない。
〈お主ら、黙らぬか〉
芯の通った、強く、殺気のこもった灯茉の一声にシン…と全員が、空間が静まり返った。そして少し間が空いたのち、王太子と呼ばれた青年の怒声が響き渡った。
「貴様!なんだのその言い草は?!俺を誰だと心得る?!」
〈妾に言うてるのか?残念だが、妾はお主らより位は何倍も高い。それにのぉ〉
スッと細められた灯茉の瞳はまっすぐに原因を貫いた。
〈権力片手に嫉妬紛いで喚き散らすお主らの方がよっぽど此処を何処だと心得ておるのじゃ?まして………国彦にした、言動の復讐もなぁ?〉
悪寒が走った。それは臣下である神の怒り。契約を結んだ人間を陥れようとした事による怒り。嗚呼、彼らは神の怒りを買ったと言っても過言ではないのだ。
〈灯茉、落ち着いて。こういうのはね、人間と人間がケリをつけるのが良いのよ。ねっ、ちーちゃん、国ちゃん〉
「国彦、準備はいいか」
亜矢都が自身の怒りを抑えつつ、灯茉に言う。灯茉は国彦の事は分かっている。亜矢都に言われなくても自分自身でケリをつける事くらいわかる。それでも、言わなければ気が済まなかった。自分のためにも、国彦のためにも。
千聖に問われた国彦はコクリと頷き、灯茉が持つ大太刀の柄に手を添えた。
「ありがとう、灯茉。スッキリした」
スラッと大太刀の鞘から抜き放たれる、美しい刃物。ブンッと一振りし、国彦は大太刀を構えた。天井のライトによって反射する大太刀の刃は鏡のように美しい。
灯茉は国彦からかけられた言葉にニィと悪戯っ子のように笑うとこうべを垂れ、下がった。
対戦相手も武器を持つ。まずいと思わないのは今だ権力に酔い痴れているからか。それとも、怒りで我を忘れたか。
「第二回戦、開始!」
小乃刃教官の高い声と共に両者が大きく跳躍した。




