憧れの暗黒騎士になる予定だったのになぜか農作業をすることになった俺のサクセスストーリー(早いものであれから8ヵ月がたちました編)
俺がこの世界に来てから早いものでもうすぐ八ヵ月がたとうとしている。
当初、栽培法方が難しかったこの地方特産の魔界大根もようやく育てるコツがわかり今はスクスクと成長している。
最初、この場所に来たのは暗黒騎士になるためだった。しかし、職業安定所のお姉さんいわく「馬に乗れないと暗黒騎士は無理」という衝撃の事実を知り、仕方なく今は他に紹介された暗黒歩兵の任に着いている。
ちなみに俺が所属している軍団の正式名称は『魔王軍第13特務機動旅団第7遊撃大隊重要施設守備小隊』なのだそうだ(長すぎて覚えてないので今、任命書を見ながら話してる。そして、未だになぜ遊撃という名称なのに守備隊なのかわからない)。
ちなみに我々が戦うべき勇者様御一行はカジノに夢中らしくてなかなか我々が守備しているこの「重要施設」にはこない(厳密に言えば重要施設というよりただの農場であるが)。
「おい!ユキオス起きな!朝ご飯だよ!」
今、優しいゴーレムさんがドアを蹴破りながら俺を起こしに来た。食堂料理長兼受付のお姉さんの任に着いている優しいゴーレムさんが作るオーガニックな料理の数々は正直とてもおいしい。あの守備隊隊長のゴルヌスさんが太鼓判を押すくらいだ。
「おい!ユキオス聞こえてるのかい!畑に行くんだろう?」
「あっはい行きます。この前は朝ごはん残してすいませんでした。その日は胃もたれしてて……」
「言い訳は聞きたくないよ!料理は心だ!心で感じな。ユキオス達が今、端正込めて栽培している地獄大根も心だよ。おいしい物を作って私達の作物を心から楽しみにしているお客様に提供する。それが私達、農業従事者だろ?お前将来の夢は農業勲章授賞なんだろ?気合い入れな!」
「いや…。俺の夢は暗黒騎士でして…」
「言い訳はやめな!自分の心に素直になりな!」
「はい!料理長。お言葉ありがとうございます!」
「わかったらいいんだ。ほら、早く食堂に来な。お前の笑顔を仲間達が待ってるよ!」
「はっはい!」
相変わらず優しいゴーレムさんは俺には厳しい。そして料理に対する熱い心を持っている。
そんなことを考えながら俺は第一種戦闘服(ちなみにただの作業服)をかっこよく着て朝飯を食べるために食堂へと向かった。
***
「おぅ!ユキオス遅いじゃねぇか。みんなが揃わねぇといただきます言えねぇよ」
食堂に入るなり同僚のロバートさんから怒られる。彼は元魔王軍親衛騎馬隊に所属していた俗にいうエリートだ。それなのになぜか今はこの農場で働いている。
「ロバート先輩すいません。目覚ましが壊れてて…」
「言い訳は朝ごはんを食べてからだ。ほら、いただきますしようぜ!」
「あっ!はい!いただきます!」
***
食堂を見るといつもの面々……。いや、俺が所属するチームのみんなが勢揃いしている。
といってもメンバーは俺とロバートさんと隊長のゴルヌスさんだけだが…。ちなみに本当はヘルムートアイアンヘルムカイザーまさるさんという人もいるのだが彼は今、魔界みかんの栽培法方を学ぶべく魔王軍西部中央農業センターに研修に行っている。なぜ彼の名前がこんなに長いのかは今のところ不明だ。本人に聞いても教えてくれない。
この農場での仕事はいろんなことが学べてとても楽しい。しかし、時々「暗黒歩兵って戦わなくてもいいの?」という気分になる。そもそも俺は暗黒騎士になりたいのだ。決して魔界大根を作りにこの異世界にやって来たのではない。実はこの後、隊長に他の勤務地への配置替えを提案しようと思っているのだ。
「たっ隊長!この後、お話があるのですが……」
楽しい食事中、俺は意を決してゴッサムさんに声をかけてみた。
「ん?この後?ごめん。すぐに西部方面隊長連絡会議があるんだ。またの機会じゃダメかな?」
「すいません!できれば……。今日お願いしたいのですが……」
「ん……?もしかして恋の悩み?」
「あっ!いえ……。恋の悩みではなく……」
「ユキオス君、はっきり言おう。自分の心の思いを直属の上司に伝えることってとても大切なことなんだよ」
「あっ!じゃあ恋の悩みでいいです」
「おぉ!そうか。さぞ辛かったろう。この後、隊長室に来なさい」
「はい!ありがとうございます」
こうして俺はなぜか隊長に恋の話をすることになった。
***
トントン!
「ゴルヌス隊長失礼します!」
「おぅユキオスか。入ってくれ」
隊長室は広くてとても立派だ。高そうな調度品がところ狭しと並べられている。
「恋の話……。私がしっかり聞こう。遠慮なく話してくれ」
「隊長!実は恋ばなではないのです!俺本当は暗黒騎士になりたくて。だから今いる農場ではなく兵士としての経験が積める前線に配置替えを希望したいのです!」
「えっ!?キミ本気?前線は危険だよ?弓矢とか飛んでくるよ?」
「えっ!?弓矢……。ですか?」
「あぁ、そうだ。それに勇者のレベル今ものすごく高いよ。だってずっとカジノがある町で経験値とお金貯めてるんだよ。その強さは魔王軍三大大将軍に匹敵するって噂だし」
「そ、それは……。正直怖いです」
「でしょ?だから一緒に農業しよ?魔界大根作ろうよ?」
「は、はい!前言を撤回させてください!しばらくこの農場で頑張ります!」
「良かった。その言葉を待ってたよ。よし!ユキオス君、キミを今日から私の主席参謀に任命しよう。この世界に来る前に培ったキミの農業従事経験を活かして魔界大根栽培計画を練ってくれ」
「えっ!?よろしいのですか?」
「もちろん。一緒に消費者に自慢できるようなおいしい魔界大根を作ろう!」
「はいっ!隊長!」
そして、二人は固い握手を交わした。
男の約束に二言はない。
それにしてもこの世界はなんだかんだいってある意味「平和」である。しかし、俺達の戦い(農作業)は当分終わることがないだろう。
そう、とりあえず魔界大根収穫の日までは。