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死の神と一輪の花 ―― それでも、君を呼ぶ  作者: 己己己己
第一章【春風】

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第4話『名前』

 それから、僕と花は放課後になると、あの路地で会うようになった。


 毎日、というわけではない。

 約束をした覚えもない。

 ただ、気づけば足が向かっていて、気づけば花がそこにいる。


 それがいつの間にか、当たり前になっていた。


 「ねぇ隼人」


 いつものように、花は突然話しかけてくる。


 「隼人ってさ、自分の事、好き?」


 あまりにも唐突で、言葉が出なかった。


 自分の事を好きか。

 そんな事、考えた事もなかった。


 好き嫌い以前に、

 自分という存在を、ちゃんと意識した事がなかった。

嫌いなわけではない

ただ好きと言うのも何か違う気もした。


 「……分からない」


 結局、それしか言えなかった。


 花は少しだけ眉を下げて、笑う。


 「そっか。隼人らしいね」


 らしい、と言われても、基準が分からない。

 けれど、不思議と嫌ではなかった。


 「花は?」


 聞き返すと、花は一瞬だけ言葉に詰まった。


 ほんの一瞬。

 けれど、その間がやけに長く感じた。


 「……嫌いじゃないよ」


 そう言ってから、また口を開く


 「でも、好きって言うのは、ちょっと怖いかな」


 怖い


 その言葉の意味を僕は理解できない


 「どうして?」


 花は答えなかった。

 代わりに、足元に咲く一輪の花を指差す。


 「この花さ、明日も咲いてると思う?」


 「……たぶん」


咲いていてくれないと困る

そんな感情が今は浮かんできた。


 「だよね。でも、絶対じゃない」


 風が吹いて、花の髪が揺れる。

 その影が、一瞬だけ、細く頼りなく見えた。


 「好きになるとね、失くした時が、すごく痛いんだよ」


 その言葉は、妙に現実的だった。


 まるで、何度も失ってきた人の言葉みたいに。


 「だから私は、花でいいの」


穏やかに吹いていた春風が一瞬止んだ


 「花乃......」


僕はぼーっとして知らない名前を口にした。

何でそんな名前を言ったのか自分の事なのに全く分からない。

静かに、そっと口から溢れ出た。


「花...乃...?」


花は少し目を見開いて、そこに咲いてる一輪の花から僕に振り向く。


「ごめん! 名前...花の名前間違えたわけじゃないんだ... なんか...勝手に口から出てきてしまって...」


「間違えてないよ! でも今は間違え」


 思わずそう言うと、花は小さく笑った。


 「花乃はね、お父さんとお母さんがくれた名前なの」


今はね--そういうと彼女は少し眩しそうに西日に目を細めて続ける


「今はね、私悪い子なの」


 意味が分からない


 聞き返そうとしたけれど、言葉が出てこない。


 「だから今は、花でいいの」


続けて花は言う


「いつかまた綺麗に咲けたら、その時は花乃ですって胸張って言うんだ」


 それ以上、花は何も言わなかった。


 夕日が沈みかけ、空の色がゆっくりと変わっていく。

 その変化を、僕はぼんやりと眺めていた。


 胸の奥が、また少しだけざわつく。


 これは、不安なのか。

 それとも、もっと別の感情なのか

人生初心者の僕にはその感情が分からない


 「ねぇ、隼人」


 花が、僕の方を見る。


 「明日も、来てくれる?」


 理由はなかった。

 深い意味も、考えられなかった。


 それでも僕は、自然に頷いていた。


 「……たぶん」


 花は、それで十分だと言うように、静かに微笑んだ。


 その笑顔が、少しだけ遠くて、

 それでも確かに、ここにあるものだと感じた。


 その意味を、僕はまだ知らない。


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― 新着の感想 ―
xから来ました。 人の名前を書くことで命を奪うという残酷な宿命を背負いながら、その代償として自らの名前を書き続け、少しずつ記憶を失っていく“死の神”のような存在として生きる少年・野咲隼人が、過去も理由…
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