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死の神と一輪の花 ―― それでも、君を呼ぶ  作者: 己己己己
第三章【それでも、名はここに在る】

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第31話『ちゃんと、生きてね』


 秋の終わりの空気は、少しだけ硬い。


 並んで歩く距離が、夏よりも近い。

 触れていないのに、袖がかすかに触れそうになる。


「ねえ」


 花が前を向いたまま言う。


「どんな終わりでもさ、後悔がまったく無い終わりなんて、ないんじゃないかなって思うんだよね」


 軽い調子だった。

 けれど、考えた末の声だった。


 隼人は答えない。


 花は続ける。


「だからさ。せめて、一生懸命何か好きなことをやって――きっぱり終わりたいなって」


 少し笑う。


「好きになれてよかったって思える終わりがいい」


 誰を、とは言わない。


 けれど、その一瞬だけ隼人を見る。


 視線が合う前に、隼人は空を見上げた。


「……そっか」


 短い返事。


 それ以上は、続かない。


「もし私が先に終わるならさ」


 何でもないことのように。


「隼人はちゃんと生きてね」


 優しい声音だった。


 隼人は視線を逸らしたまま、


「……うん」


 とだけ答える。


 その一音に、何も込められなかった。



 夜。


 花は部屋の明かりを落とし、ベッドに腰を下ろす。


 胸ポケットから、あの紙を取り出す。


 白い紙に、文字が並んでいる。


 読めるはずなのに、意味が輪郭を結ばない。


 それでも。


 なぜか、自分に関係している気がする。


 指で、そっとなぞる。


 胸の奥が、少しだけ温かくなる。


「後悔は、きっとするよね」


 小さく呟く。


 それでもいい。


 好きだったと胸を張れるなら。


 紙を胸に当て、目を閉じる。


 涙は落ちない。


 ただ、ほんの少しだけ強く握る。



 隼人の部屋。


 机の上の白い紙。


 気づけば、ペンを持っていた。


 震える指先で、文字を書く。


 篠宮 花


 それだけ。


 願いは込めていない。

 力も使っていない。


 それでも、名前を書くという行為は、彼にとって軽くない。


 見つめる。


 一滴、涙が落ちる。


 インクが滲み、「花」の線が歪む。


 喉が詰まる。


 声は出ない。


 まだ起きていない未来が、こんなにも怖い。


 ぐしゃり、と紙を握る。


 一度では破れない。


 もう一度、力を込める。


 裂ける音が、やけに大きく響いた。


 破片を机に残したまま、布団に潜る。


「ちゃんと生きてね」


 その声だけが、消えない。


 枕に涙が滲む。


 呼吸が浅い。


 隼人は震える指を握りしめたまま、

 暗闇の中で何度も繰り返す。


 ――まだ大丈夫。


 まだ、もう少し

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