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死の神と一輪の花 ―― それでも、君を呼ぶ  作者: 己己己己
第一章【春風】

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第3話『放課後と約束』

 翌日から、僕の【いつも】は少しずつ形を変え始めた。


 朝、あの角を曲がる前に、ほんの一瞬だけ足が速くなる


 理由は分かっている


分かっているけれど、認めるほどのものでもない。

 ただ、そこに花がいるかもしれない。それだけだ。


 角を曲がると、今日もあの一輪の花は咲いていた。

 そして、その隣に――


 「おはよ、隼人」


 昨日と同じ声、昨日と同じ笑顔。

 篠宮花――いや、花がそこに立っていた。


 「……おはよう」


 自然に挨拶が返せた事に、少しだけ驚いた。

 人と挨拶を交わすのは、こんなにも簡単な事だっただろうか。


少なくとも今までの自分の人生では経験がない


普通の人であれば正常な事なのだろうが、僕の人生においてはその普通の人の当たり前で普通な事

日常で正常な挨拶を返すと言う簡単な事が僕には異常だった。


 「今日も学校?」


 「そうだけど、花は?」


 「私も。たぶん同じ方向」


 “たぶん”という言葉が引っかかったが、深く考えるのはやめた。


と言うよりも考えが浮かばなかったと言った方が正しいのかもしれない。

僕の今まではそれ程に他人や社会と関わりがない

圧倒的に経験不足だった。


 花は僕の横に並び、何の躊躇もなく歩き出す。


 並んで歩く


 それだけの事なのに、胸の奥が少しだけ騒がしい。

うるさいとまではいかないものの、経験した事のないざわつき


これはなんという感情なのだろう


 「隼人ってさ、不思議だよね」


 「……何が?」


 「ぼーっとしてるのに、ちゃんと見てる感じ」


 それは褒められているのか、よく分からなかった。

 けれど悪い気はしない


時間が長く感じる


自分の言葉を整理するのに凄く長く時間が過ぎている感覚


実際にはそれ程はかかっていない


 学校の前で、花は足を止めた。


 「あ、私はこっちだから」


 「……そっか」


 一瞬だけ、言葉が詰まった。

 このまま別れてしまうのが、少し惜しいと思っている自分に気づいてしまったから


胸が少し静かになる


 「ねぇ、隼人」


 花が振り返る。


 「放課後、またあそこ来る?」


 また胸が騒がしくなる


今度はさっきよりも騒がしい

うるさい位に胸の奥がざわつく


だが心とは裏腹で僕の口からは冷静に、静かに、ゆっくり息を吐くよう


 「……たぶん」


それが精一杯だった


 「じゃ、約束ね」


 約束。

 今までの人生で、ほとんどした事のない言葉。

勿論聞いた事はある


聞いた事はあるが、初めての経験に戸惑うばかり。


こうゆう時は指切りはするべきなのだろうか


 花は満足そうに笑うと、校舎の方へ走っていった。


 ――放課後。


 僕は、いつもより早く校門を出ていた。

 特別な理由はない。ただ、足が勝手に動いただけだ。


別に、決して浮かれてなどいない


 あの路地、あの花。

 そこには、ちゃんと花がいた。


 「おかえり、隼人」


 「……ただいま」


 言ってから、少し可笑しくなった。

 家じゃないのに、帰ってきた気がした。


 二人で並んで、道端に腰を下ろす。

 この沈黙は嫌じゃなかった。


 「ね、隼人」


 「なに?」


 「生きてるって、どういう事だと思う?」


 不意打ちの質問だった。


 「……分からない」


 正直な答えだった。


 「そっか」


 花はそれ以上、何も言わない


 ただ、夕日に照らされた一輪の花を、静かに見つめていた。


 その横顔が、昨日より少しだけ遠くに見えた。


 「でも」


 僕は、気づけば口を開いていた。


 「今ここにいる事は、悪くないと思う」


意味分からない事を言ってしまった気はした。

本当は初めて生きてるって思えたから

生きてる意味は分からないまでも、今こうしている事それは嫌な気はしない。


きっと僕は楽しいのだろう


 花は、少し驚いた顔をしてから、柔らかく笑った。


 「うん。それでいい」


 夕日が沈み、影が長く伸びる。

 その影が、まるで二人分の寿命のように、地面に重なっていた。


 その意味を、僕はまだ知らない。


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