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死の神と一輪の花  作者: 黒沢 有貴
第一章【君が微笑むなら】
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第2話『いつもと違う』

 

 翌朝、僕はいつもと違う感覚で登校する事となる。


 いったいこの気持ちは何なのだろう。

 嬉しい事があった時の浮かれた気持ちの様な、はたまた心配事があった時の焦りにもよく似た感覚の様な、とりあえず言えるのはいつもとは違う感覚。そんなよく分からない感覚のまま、僕は今日も玄関の重たい扉を開けた。


 新しいとはお世辞でも言えないアパートの古びた扉。その重い扉からは金属が擦れる耳障りな、今日も同じ毎日を繰り返すんだと思ってしまう嫌になるいつもの音がする。

 

 『あの子は誰なんだろう』

 

 ふと、昨日出会った女の子の事を思う。


 『篠宮 花乃って言ったっけ』


 『独りぼっち・・・ 僕と同じ・・・』


 あの子は誰なのか。僕は何も知らないあの子の事をずっと気にしている。

 何故こんなにも気になるのだろうか。


 僕は初めて他人を気になった。もっとあの子を知りたい。この思いは恋なんかではなく、ただ単純にあの子の事を知りたいだけだった。

 もしかして、自分と同じ様な人を見つけて自分が独りじゃないと思いたかっただけなのかもしれない。


 うつむいたまま歩いていると角に差し掛かった。

 

 『この角を曲がったら・・・』


 『この角を曲がったら?』


 いったい僕は何を期待していたのか。

 角を曲がった先には一輪の花が咲いていただけだった。


 『行ってきます』


 心の中で道端に咲く小さな一輪の花に挨拶をして、いつもの様にうつむいたまま、ゆっくりと、静かに、学校へ向けて重たい足を一歩ずつ運んだ。


 学校に着いたらいつもと同じ、何事もなく、普段通り、ただただ時が過ぎ行くのを待つだけ。

 楽しい訳でもないが、別段憂鬱な訳でもない。

 そんなつまらない学生生活を送るのか。とも思うのかもしれないが、つまらないとすら思えない。

 そもそも、つまらないとは何なのか。退屈とはどの様な感情なのか。

 楽しさをよく分からない僕には、退屈もよく分からない。

 時間など、ただ過ぎていくもの。そのくらいにしか考えていない。

 おそらく、こんな事しか考えられない僕の心を世間ではつまらないと言うのだろう。


 予想通りというのか、普段通りといったものなのか、もしくは計画通りというべきなのか、兎にも角にもいつもの様に、僕は学校生活の一日を終了した。

 いつもと違う事と言ったら、今僕が軽やかな足取りで帰路についているという事くらいだろう。

 

 弾む様な、とまではいかないが、明らかにいつもとは違った軽やかな足の運びで僕は歩いている。

 

 『何にこんな風に僕は動かされているのだろうか?』

 

 そんな感じで僕が向かう場所というのは勿論、あの花の元であった。

 目的地に到着すると、あの花の前に昨日と全く同じ光景であの子がしゃがんでいる。

 

 『デジャヴ?』


 一瞬そんな事も考えたが、【デジャヴ】所謂いわゆる既視感きしかんなんかではなく、よく見るとその光景は新しい光景、おニュー(死言? もしくは死言予備軍)の光景。

 下ろし立ての、まぎれもなく今日の篠宮 花乃だった。


 「また来てたんだね」


 「隼人も来たんだね」


 ん? なんか昨日と様子が違う気がするのだが・・・


 「花乃さんはいつも此処に来るの?」


 「花」


 「花?」


 「うん!! 花で良いよ。私の事みんなそう()()()()から。これも何かの縁って事で隼人にも特別にそう呼ばせてあげる」


 いや、やっぱり違う。昨日とは全くの別人になっている。

 誰だ。こいつは誰なんだ。

 綺麗で、温かくて、儚い女の子は何処に行ったんだ。

 『触れれば壊れそう?』 そんな事はない。今のこの子は、触れたところで絶対に壊れない。壊れそうな箇所なんてどこにも無い。

 そっくりな別人? いや、もしかしたら昨日、僕が触った事で壊れた結果がこの子。新篠宮 花乃なのかもしれない。


 そんな事考えてもしょうがない。とりあえず訊いてみよう。

 動揺を隠して冷静に、真顔で。


 「誰だ?」


 「はぁー? 酷いじゃない!! 昨日会ったばっかじゃん!! 私よ私、花乃!! 花乃さんよ」


 ムスッとしながら腕を組む篠宮 花乃、改め【花】。

 

 花の長いポニーテールが風になびく。


 いったい花には何があったのだろうか。


 「昨日とは違って元気の良い女の子になっていたから驚いたよ。いったい何があったんだ? やっぱ僕のせい?」


 「何言ってるのよあんた? 私はいつもこんな感じよ!! 昨日はちょっと・・・特別だったの!!」


 特別? 特別を見れた僕は運が良かったのか、特別な花がいつもの花だと勘違いしまったからやっぱり運が悪かったのか。

 きっと運が良かったのだ。そう思う事にしよう。

 だが、騙された感はどうしても残る。


 組んでいた腕を解くと、花は話し出した。


 「えっと・・・なんだっけ? いつも此処に来るかだっけ?」


 「あ、あぁ」


 「昨日が初めてよ」


 初めて? なんたってこんな何もない所に来たのか。

 街から離れた田舎の中でも一段と田舎の場所に用事があるとも思えないのだが。

 用事ならば街に行った方が済みやすそうなものなのだが。


 「家がこの近くにあるの?」


 「ううん、家はあっち」


 と、花は白く透き通る様な綺麗で長い手で遠くの山の方を指した。

 

 大分遠いじゃないか。尚更何でこんな所に来たのか、疑問は膨らむばかりだ。

 たしかに、街にある団子屋よりもこの近くにある団子屋の方が断然美味いし、そんな些細な事しかこんな所には利点はない。

 

 「昨日今日と何でこんな所に来たんだ?」


 「昨日は色々とあってね・・・」


 苦笑いというか、作り笑いの様な、そんな不自然な笑顔ではぐらかされてしまった。

 あまり言いたくないのだろう。人付き合いが不得手な僕といえども、言いたくないのにこれ以上訊くほど空気が読めない訳ではない。

 この話題はもうやめよう。


 「君のせいだから・・・」


 ボソっと聞こえるか聞こえないかの声で花が言う。


 「えっ?!」


 「君のせいだからね!!」


 今度は大きな声ではっきりと言う。


 「僕のせいって、何の事だよ」


 「止めたの君のせいだから!!」


 「止めた? だから、いったい何の事なんだよ」


 「辞める事を止めたのっ!! いいから責任取りなさいよ!!」


 話が一方的過ぎて全く訳が分からないが、おそらく僕は何らかの責任をいられている様だ。

 【強いられている】ではなく、もしかしたらば【いられている】かもしれないが。


 そう言うと花は、「じゃっ、またねん」と、機嫌良く走っていった。


 辺りはもう夕日が照らしていた。


 『やっぱ変な人だ』


 「さっ、家に帰ろう」

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