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死の神と一輪の花  作者: 黒沢 有貴
第一章【君が微笑むなら】
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第1話『一輪の花』



 命とは何か、人間とは何なのか、心は何処に有るのか、じゃあその心とは何の為に有るのか。

 考えた事なんて無かった そう―――あの時まで。



 野咲のざき 隼人はやと僕の名前だ。来月で17歳になる。


 僕は普通の高校に通ういたって普通の高校生。学力も普通、運動だって並の高校生だった。

 特に趣味も無く、部活にも入っていない。

 なぜかというと、特に理由も無い。入る理由も無いからだ。

 そう、僕には何も無い。何の取柄も無く、人付き合いも得意ではない。こんな僕に話しかける生徒なんかもいない。

 学校が終わったら僕はいつもの様に家に帰る、ただそれだけだった。


 いつもと同じ帰り道、いつもと同じ空気、いつもと同じ独りぼっち、でも、今日は、今日だけは少しだけ違っていた。

 いつもは目に留まらない小さな一輪の花が、何故か今日だけは僕の目に留まった。


 車通りの少ない小さな路地、春のピンク色の風が僕の背中を優しく押す。

 まるで、僕をこの小さな一輪の花に引き合わせようとしているみたいに。


 「君は僕に似ているな。誰に見られる訳もなく、特に綺麗な訳でもなく、人知れずいつかは死んでいく」


 その一輪の花に思わずそう話しかけた。


 僕には家族というものはいない、幼い頃に施設に預けられ、両親も知らない。

 それどころか、幼い頃の記憶が全く無い。

 おそらく、ろくな過去ではないのだろう。覚えていないのだから。

 親が何処に居るのか、生きているのかさえ分からない。

 色々と調べてみた、いろんな人に聞いてみた、でも何も分からなかった。自分が誰なのかさえ。

 僕が僕自身の事で知っているとしたら、それは名前だけ。

 中学までは街の小さな施設に居て、高校に入る時に小さなアパートに住む様に施設長に言われた。家賃は払わなくてもいいとだけ言われ、学校に必要な物は施設から度々送られてくる。

 

 僕は、まるで誰かに飼われている様だ


 いつしか僕は知る事を止めてしまった。というよりは、知る事が怖くなってしまったのかもしれない。

 だから現実を逃避するかの様に、ただただいつもやってくる【いつも】を受け入れるだけになってしまったのだ。

 

 朝が来て学校に行き、家に帰って寝る。それが、それだけが僕なんだ。今日も・・・


  いつもと同じ帰り道、いつもと同じ空気、いつもと同じ独りぼっち。


 『帰り道に咲いていた小さな花はどうなっただろう』


 なぜ、今そんな事を考えたのだろうか。


 『あの花に会いに行かなくちゃ。会いに行きたい』


 春の空気は、僕をそんな気持ちにさせた。

 僕はいつもとは明らかに違った足取りで、あの小さな一輪の花の元へ向かった。

 

 『この角を曲がったら君がいる』


 『こんな気持ちを何て言ったかな・・・』


 初めての感情、初めての思い、僕が人生で、僕の記憶の中で初めて、興味をもったもの、ワクワクにどこか似た心弾む感情。

 なんでこんな思いになっているのか。


 『きっと、春のせいだ』


 そんな気持ちで角を曲がった僕は、はっとした。

 道端に咲いていたあの小さな一輪の花、その前に一人の女の子がしゃがんでいた。

 春のピンクがその女の子を優しく包む。


 『綺麗だ・・・』


 その女の子はとても綺麗で、とても温かくて、とても儚くて、『触れてはいけない』そう思った。


 まるで春に咲く花の様



 「君は独りなの? 友達は居ないの?」


 その言葉は僕に向けられたものではなく、あの小さな花に向けられたもの。

 女の子は更に話しかける。


 「私と同じ、独りぼっち」


 僕は、その花の様な女の子に触れたくて触れたくて、久しぶりに会った様な、懐かしい様な、そんな筈はないのに、そんな気持ちにさせられて、堪えてないと涙が溢れそうな不思議な気持ちになった。


 『触れてはいけない、触れたら壊れてしまう』


 すると、春のピンク色の風が、今日も僕の背中を優しく押した。


 「その花・・・好きなの?」


 触れてしまった。

 けど、その女の子は壊れる事もなく、消えてしまう事もなくそこにいた。


 「えっっ?!」

 

 女の子は凄く驚いた表情で僕の事を下から見上げてきた。

 その後、僕を見て安心したのか、笑窪えくぼを浮かべながら微笑み、口を開いた。


 「君は好き?」

 

 その笑顔は美しかった。本当に美しかった。春の花々の様で。


 女の子の質問に、僕はなぜか焦ってしまい言葉につまずいた様に話し出してしまう。


 「いっ色もぱっとしないし、あっあんまり綺麗じゃないけれど、べっ別に嫌いって程でもないけども、好きって程でもない感じです」


 女の子は小さく吹き出す様にプッと笑った後に話し出した。


 「私は好きだな、このお花。どこか私に似てるんだ」


 少し悲しげに言う女の子。


 「僕、隼人です!! 野咲のざき 隼人はやとです。


 「えっ!? 野咲 隼人・・・君?」


 女の子は僕の名前を聞いて、なぜか驚いた様子だった。


 「どうかした?」

 

 「いえ、何でもないです。人違の様です。すみません。 私、花乃です。篠宮しのみや 花乃はなのです!」


 春のピンクが僕等を優しく包んだ。そんな気がした。

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