act2
「ひぃいい! な、なによこれ!!」
世にも恐ろしい凄惨な光景。
人がバラバラにされていた。
血に塗れた腕や足、臓物が辺り一帯に散らばっている。
頭と思しき部分は眼窩部分で上下にぱっくり割れていて、舌がナマコのように口からでろんと垂れ、頭頂部からは脳組織が露出していた。
いったい何をすればこうなるんだ?
「き、キミがやったの?」
「と、とと、とんでもない!」
少年が全力で頭を横に振った。
「い、いくらイベントとはいえこんな……」
「イベント?」
少年の言葉が引っかかる。
「イベントってなに?」
「え?」
少年が呆気にとられている。
「このゲームイベントに決まってんじゃないですか!」
「ゲームって?」
「な、なにいってんのおねえさん……」
畏怖の目でこちらを見てくる。
わたしをシリアスキラーかなにかと勘違いしてるらしい。
「ちょ、ちょっと待ってよ。わたしは今ここにきたばっかだし、なんにも知らないわよ! ゲームってどういうことよ」
「え、どうっていわれても……」
困るみたいな顔された。
わたしはその顔をぐっと睨んでやった。
「ひぃ、いいますいいます!」
「うむ、いえばよろしい」
こういう子どもは睨みに弱い。
「この世界はVRMMOの『グリッグ』なんです。この試合は3回目のイベント企画で生き残れば9億手に入るんですよ」
「は?」
わたしは少年がいっている意味がわからなかった。
「……つまり、ここがゲームの世界っていいたいの?」
「そうですけど……おねえさんも選ばれたプレイヤーでしょ?」
「いや、わたしそんなゲーム知らないし」
「え、じゃ、じゃあなんでここに?」
「こっちがききたいわよ!」
「ひぃ、ご、ごめんなさい!」
なんのこちゃさっぱりわからん。
ここがゲームの世界?
そんなばかな。
少なくともそんなゲーム聞いたことないし、ゲームの世界に入り込めるってどんな妄想だよ。
この間PS4が発売されたばっかだぞ。
どうやらこの少年は目の前の光景を見てショックで頭がやられたらしい。
「しっかりしなさい、キミほんとに大丈夫?」
「う、うわぁ!」
「あ、ちょっと待って!」
少年は血の海とは逆の方向に走り去った。
にしてもここがヴァーチャル世界?
ありえん。
夢でもわたしは見てるのか?
ためしにほっぺをつねってみたが痛かった。
「痛い……」
やっぱり現実だ。
目の前の死体、鉄を思い出させる血腥い臭い、感触、痛み――。
どう考えても夢じゃない。
「あの子、大丈夫かな」
わたしは頭がおかしくなった少年が走り去った方角を見てそう思った。
だがのちのちにわたしのほうが頭がおかしいといわれる状況がやってくるとは考えてもいなかった。