act1
痛い。
頭が軋む。
頭の働きが鈍い。
いくら寝ぼけててもこんな感覚は初めてだ。
ズキ
ズキズキ
痛い。わたしは重いまぶたを懸命に開いた。
――見るとそこは薄暗い部屋だった。
「……ココどこ?」
そう呟いてもわたしの声が部屋に反響するだけだった。
壁は木製の板だろうか。
わかりにくいがに年輪みたいなものが見える。
「っ、とりあえず出口は……」
あった。右側に薄暗くてもよくわかるこの部屋の出入り口らしきものが。
ドアノブを引く。
……が、開かない。
「あれ?」
もしかして押すのか?
ためしに押してみたがそれでも開かない。
「もしかして、閉じ込められてる?」
普通に考えればそうだ。
目が覚めたら知らない所だなんてこんなことは初めてだ。
わたしの場合、酒もあまり飲まないし、ましてや夢遊病のケもない。
「まさか、誘拐?」
ありえなくもない。
年齢のわりに小柄で背も低い。おまけに顔も幼いってよく言われる。
変態的な目的でこんな辺鄙なところに連れ込んで犯したいってヤツがいてもおかしくない。
……と思う、うん。
とりあえず捕まる前に何をしていたか思い出す。
……あれ?思い出せない。
自分がどこの誰かはわかる。
でもここで覚醒する以前、何をやっていたかは何も思い出せない。
それだけじゃない。
日付すら覚えてない。
「殴られた衝撃で頭おかしくなった?」
後頭部を触ってみると大きなこぶっぽいものができている。
やはり殴られたのだ。
「……」
も、もしかして臓器売買とか?
そう思って急いでパーカーのチェックを下ろしてシャツを捲って見た。
でもそこには風呂で見るときとなんの変化もないへそ。
「臓器は、とられてないな」
ホッとしたがホッとできない。
わたしが誰かに誘拐されたのは事実なのだから。
しかし、となると――。
「……売春?」
まさかヤクザかなんかに売春目的のために拉致されたんじゃ――。
「おおおおおおおお――」
「ひっ! なっなに!?」
反射的に声をあげてしまう。
自分の動作以外なにも聞こえないような環境だったのだ。
それなのに外から突然わいたかのように悲鳴が聞こえた。
「人の叫び声?」
やはりただ事ではないらしい。
明らかに苦痛を伴う悲鳴だ。
たぶん男。確証はできない。
それほど恐ろしい叫び声だった。
「……ここから近い」
そう遠くない場所だ。
どうする、身を呈して向かうか?
いや、危なすぎるでしょ。
自分からわざわざ突っ込まなくても……。
「ええい!」
さっき押し引きしても開かなかったドアに体当たりした。
バキャッ
と音を立てて木製のドアはあっけなく壊れた。
小柄な女の子が体当たりしただけでこわれるドアって、どんだけもろいんだよ!
ひとりツッコミを抑えつつ、声が聞こえた方角へ向かった。
部屋から出た先は長い廊下になっており、薄暗くところどころについてる裸電球で辛うじて見える。
「ひぃ、だ、だれか!」
声が聞こえた。
方角は悲鳴の聞こえた方と一緒。
あと少しだ。
わたしは全速力で走った。
だんだんその場所に近づいてきたらしい。
あたり一面が明るくなってきた。
そんなことを考えているとちょうど曲がり角が見えたところに人が目につく。
中学生ぐらいの少年だ。
ちょっと長髪でどこにでもいそうなごく普通の。
その少年が体育座り、いやあれは……腰を抜かしてるのだろうか?
「だ、大丈夫?」
そばに駆け寄った。
「あ、あう、あう……」
少年はそれしか言わない。
「へ?」
「う、ううっ」
何かを必死で指差している。
「いったい何が――」
わたしは絶句する。
その先は真っ赤だった。
その正体もすぐにわかった。
血だ。
鮮血だ。
血の海の中で人が漂っている。
いや、人だったモノが。
手、腕、足、腰、胴体、全部バラバラだ。
それぞれから臓物が溢れ出している。
いったい何が起きたんだこれは――。