目先の不幸
高校2年生のある日、私は今までの人生で1番好きな人に振られた。
最初の2日はなにも考えられなかった。
頭は真っ白で生きてくので精一杯。
次の2日はショックでいっぱいだった。
今までのはなんだったんだろう、とか。
そのあとの3日は死にたかった。
今までで一番好きだったのに。相手だってそう言ってたのに、他の女を選ぶって、嘘つきじゃない。
そんな風に思って色々な死に方を考えた。
考えただけで怖くてできなかった。
その次の日は屋上のフェンスの外に出た。
正直なことを言うと怖かった。
だからそこでしゃがみこんで泣き出した。
そんなとき、誰かの声がした。
「あなたはなんで泣いているんだい?」
答えたくもなかった。
でも答えてしまった。
「そうか。でも、あなたはまだ17歳だろ?80歳まで生きるならまだ4分の1だ。」
「確かに彼は今までの人生で1番だったのかもしれない」
「でもこれからの人生、もっと素敵な人に出会えるかもしれないよ。」
「そんな人ととても幸せになって、彼を見返してやればいい。」
「私みたいないいオンナ、捨てて後悔してるでしょ?って。」
「それから例えば彼が言いよってきても、もう遅い、あんたは見る目がないわね、って笑い飛ばしてやればいい。」
「どう?ここでもっと素敵な人を捨てて死ぬよりも、見返してやる方がとても幸せじゃないか?」
「あなたなら大丈夫。自信を持って。」
それだけ言われると顔を上げた時には誰もいなかった。
だから今でも誰の言葉かは知らない。だけど救いになったのは確かで、この日から私は今までで、1番、彼のずっとそばにいれるように、と思っていた頃よりも美しくなって、友達も増えて、人生は充実して行った。
それから数年後、私は普通の顔で、普通のサラリーマンで、普通の家系の人と結婚した。
それだけで幸せだった。
お互い愛し合っているのだから。
もうあの言葉は忘れかけていた。
でも子供が産まれた時、私昔は死のうともしたな、とか色々考えて思い出した。
そうだ、彼を見返すためだった。
でもそんなことは忘れていたのだ。彼なんて、たった17年の人生の中で1番だっただけなんだ、って。
でも彼がどうしてるのか、少しだけ気になった。
子供も少し大きくなって、実家に挨拶に行った時、母親が噂で聞いたんだけど、と、彼の名前を出した。
噂によると、
彼はあのあと色んなオンナに手を出して、最終的に美人局だかに合っただとか。
借金を払いきれずに首をつったらしい。
それを聞いて哀れだな、と思った。
もしも、あのころ私を捨てなければ、こうは、ならなかったのに。とか。
でもあの人と別れて、あの声と出会って、今の旦那と出会って私は幸せになれた。
だから、
あの声に言われたように、
私は笑い飛ばしてやった。
目先の不幸で泣いてた私に対しても。
旦那に不思議がられたけど、
私のことを捨てた男のお話、と言うと旦那は「もったいないことをしたんだね。」とお互い苦笑したのだった。