師の教え【企画競作スレ】
「なぜ勉強するのか、ですか?」
「そうです、先生。どうして勉強しなくちゃいけないの?」
小学生も高学年になれば、そんな質問が来たりするとは聞いていました。
けれど、この時、わたしの前に居たなつみちゃんは、小学二年生なのです。
こんな時期から勉強をする事に疑問を抱くなんて……。
「そうね、学校というのは、そのためにあるから。それじゃダメですか?」
「ママは、勉強していい学校へ入るためよって言います。けど、いい学校へ入ったら、何がいいのって聞いたら、とにかくいいものだからとしか教えてくれないの。」
子供は大人の嘘や誤魔化しを敏感に感じ取ってしまいます。
母親の言葉に隠された矛盾に、なつみちゃんは勘付いてしまったようでした。
今の子供たちは、素直に親や教師、大人の言葉を信じてはくれません。信じられなくなりました。
矛盾、しているのです。
勉強をすればいい学校へ入れる。でも、いい学校へ入るのはなぜ?
親はいい学校へ入れば、とりあえず先が楽だと考えています。……教師も。
いい学校から、いい企業へ。
安定した収入を、生活を、手に入れて欲しいのです。
けれど、世間をみれば、それが儚い希望に過ぎないことが解ります。
夢が破れた時。
その時に、犠牲にした多くの時間は戻らないのです。
あれもやりたかった、これもやりたかった、全部我慢して勉強したのに、夢は破れた。
正直、多感な時代の多くの時間を費やして、受験勉強のみに集中する事が正しいのかどうか。
それは、親、教師にさえ解りません。
なぜ勉強をするのか。
子供から大人の入り口、青年期の貴重な時間です。それが無駄になるかも知れない。
受験勉強のための勉強など、社会に出て、何の役に立つでしょう。
我慢することが大きな収穫だと言う学者もいます。
十数年を犠牲にしてまで得る価値がありますか?
「……そうね、先生にも解からないの。一緒に考えてみましょうか。」
精一杯の配慮を込めて、当たり障りのない答えをあげるだけです。
一つだけ、言えることがあるのです。
勉強をしなければ、こぼれ落ちます。どこから落ちるのでしょうか。
たとえ話でいうところの、大通りだとかレールの上だとか。そんな場所から転げ落ちます。
落ちたら、這い上がるのは大変です。
イチローは、何千万というイチローになれなかった者の頂点に一人だけが立っているのです。
この世は椅子取りゲームです。
必ず、床に座らねばならない人が居るのです。
「勉強は必要なことです。いい学校に行ったら、いい事があるのも本当です。
たくさん勉強した人は、たくさんの色んな事を知っていますね?
色んな事を知っていれば、色んな事が出来るのです。
……色んな道が、開けるのです。」