猫の手を借りたら肉球で連打された
『猫の手も借りたい』——その諺を安易に口にしてはいけないと知ったのは、締め切り直前のあの夜でした。
時給制で働く派遣猫と、追い詰められた僕の不毛な攻防を描いたドタバタコメディです。クスッと笑っていただければ幸いです!
猫の手を借りたら肉球で連打された━━
「猫の手も借りたい」
締め切り直前、キーボードを叩く僕の口から漏れた切実なつぶやき。それが全ての始まりだった。
ドロンと煙が上がったかと思うと、目の前には二足歩行の三毛猫が立っていた。胸には『派遣キャット』の名札。猫は無言で肉球入りの契約書を差し出してきた。背に腹は代えられない。僕はサインした。
「よし、この書類のデータ入力を頼む!」
猫は椅子に飛び乗ると、キーボードに肉球を構えた。次の瞬間。
ダダダダダダダダダダダダダダダダッ!!
凄まじい打鍵音が部屋に響き渡った。まるで機関銃だ。猫は白目を剥きながら、両足を高速で交互に繰り出している。『ssssssssssssssssssss...』画面には謎の文字が無数に刻まれていく。
「ちょ、ちょっと待て!データ入力になってない!Enterキー連打すんな!」
僕が慌てて止めに入ると、猫はパッと動きを止め、前足を差し出してきた。腕に装着された液晶メーターには**『経過時間:1分/請求額:高級チュール1個(時給換算)』**の文字。
「連打のスピードじゃなくて、時給を稼ぐための『連打』かよ!?」
猫は「ニヤリ」と口角を上げると、再び超高速でSpaceキーを連打し始めた。画面の文書が爆速でスクロールされていく。
「やめろー!僕の原稿が消える!ていうかチュールの破産だー!」
結局、締め切りには間に合ったものの、謎の記号で埋め尽くされた原稿の修正と、猫への時給支払いで僕の1日は終わった。猫の手は、借りるより拝むくらいがちょうどいい。
【了】
ご覧いただきありがとうございました!
「猫の手も借りたい」という有名な慣用句を、もし真に受けて派遣サービスなんて頼んでしまったら……という妄想から生まれたショートショートです。
我が家の現実の猫も、キーボードの上にどっかと座り込んでは意図しない連打で原稿を荒らしていく天才なのですが、時給が発生しないだけまだマシなのかもしれません。
世の締め切りに追われるクリエイターの皆さま、くれぐれも契約書へのサインは慎重に!
感想や評価をいただけますと、チュールをもらった猫のように大喜びします。次回作もよろしくお願いいたします!




