野 菊 の 花
野に咲く花は
そこを通る人々を和ませ楽しませてくれます。
お仕事で長野県へ出張されたお父さんのお土産は
新鮮なフルーツ果汁と寒天でできた無着色ゼリーのお菓子です。
桃、葡萄、みかん、りんご、杏、梅、の天然果汁ゼリーで
みか子が初めて食べた時、こんなに美味しいゼリーがあったのと感激、
また食べたいとお父さんに言ったのです。
「みかちゃん、暑いのに一人でどこへ行かれるの?」
前から歩いてらしたご近所のおばさんが、小学一年の可愛いみか子とすれ違う所に来て立ち止まり、不思議そうな顔でたずねました。
「駅までお父さんをお迎えにいくの」
「まぁ、気をつけてね、知らない人の誘いにのらないようにしてね」
おとなしいみか子がうなづいて、
「気いつけるわ」とこたえると
おばさんはうなづきながら微笑み、家の方へ歩いていかれました。
人通りが少ない道を二つ曲がり、草生える線路沿いに歩いて三分ほど行けば駅に着きます。
私鉄なので二十分ごとに電車が来て止まります。
まだ小さいみか子には少し遠くまで来たと感じる駅に着きました。
六時過ぎの次の電車が来るまで、あたりの珍しい建物や景色をを見ていると、
改札口こちら、道端草むらに群れて咲いているうす紫のヨメナの花を見つけました。
「ァ、野菊の花、かわいい」
たたずんでながめました。
ポキッ、ポキッ、ポキッ、
「きれい」左手に摘んだ花束ながめて喜びました。
次の電車でお父さんが帰ってこられる予定です。
待ってる時間は数分でもみか子には長く感じます。
「あっ、電車が……」待ちかねた私鉄電車が来てスーと止まりました。
下車した人々の中からお父さんの姿が見えてきて、改札口を出られた横から
「お父さ~ん おかえりなさい」と笑顔で近づきました。
「オー、みかちゃん、迎えにきてくれたんだね」
思いがけない初めてのお迎えです。
驚いたお父さんの目と口がやわらかくほころび言いました。
「はい、これ、みかちゃんの好きなみすず飴ね」
「ありがとう~うれしい~」
手渡されたお土産の紙袋を大喜びで受け取りました。
帰り道大好きなお父さんと手を繋いで歩きたくなって、みか子は
左手の野菊の花を線路沿いの道端にポイと手放しました。
お土産を持ったみか子と手を繋ぎ線路沿いを歩きながらお父さんは、
みかちゃんも小学一年生、大きくなったんだな、三~四歳頃までは帰宅すると
『おとうちゃん』といって飛びついてきたものだったと小さいころの姿を思いました。
ヨメナの花は駅近くの道端で泣いていました。
「ああ、お水をください」
声にならないか弱い叫び、
自分で歩くことも声を出すことも出来なくて
ただ泣いて苦しみに耐えるしかありません。
電車が来て止まりました。
日が傾き日中の暑さが幾分涼しくなっています。
人が下りて右と左の改札口から出ていきます。
お仕事帰りのしず子が改札を出て草むらの前で立ち止まりました。
あら、ここに咲いていたヨメナの花が無い、どうしたのかしら?
七月初めからぽつぽつ咲いてきた花を毎日楽しみにしてたのです。
草むらにヨメナの小さい蕾がいくつかついている手折られた茎が目に入りました。
残念な気持ちで線路沿いの道に出ると道端に捨てられ横たわったヨメナの花が
ありました。
幾分しおれかけた葉、どの花びらもしおれて反り返っています。
まぁ、捨てるのなら摘まなきゃいいのに、と目の前にいない人に向かって
つぶやきながら、拾って一人暮らしのアパートに持ち帰りました。
水を汲み、水の中で花の細い茎をハサミで斜めにカットして花瓶に挿し
六畳間のテーブルの上に置きました。
晩ご飯の後片づけして、TVニュースを見てくつろぎ、お風呂からあがったしず子が
気になっていた花瓶のしおれた花をよくよくながめました。
葉がしゃんとして反りかえっていた花びらが、元に戻りかけています。
「やさしいおねえさん、生命のお水をありがとう」ヨメナが言いました。
大丈夫みたいね、明日は元に戻るわ、
しず子はまだ濡れている髪をフェイスタオルで拭きはじめました。




