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うちの家電がうるさい(抜粋投稿)  作者: 遠藤 世羅須


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3/3

第3話 来客が来ると、全員うるさい(最終回)

抜粋版ですので、途中が抜けていますけど、本話が最終話となります。


挿絵(By みてみん)

土曜日の朝、私はスマホの通知で目が覚めた。

《今日、行っていい? 近くまで来てる》

送ってきたのは同期のユイだ。

勢いのあるタイプで、勢いのまま人生を進める。

(部屋、散らかってる……)


私は布団から起き上がり、まずリビングを見た。

ソファの上にパーカー。テーブルの上にレシート。

床に謎の充電ケーブル。

生活の痕跡が、堂々と存在していた。


《いいよ》と返す前に、私は脳内で家の家電たちを思い浮かべる。

来客が来ると、この家はうるさい。人間の私より、家の中が浮き足立つ。


それでも返信は打った。

《いいよ。今どこ?》

返ってきた。

《あと20分》


20分。

つまり、家の内戦が始まるまで20分。


「来客です」

誰かが言った。声は低い。

冷蔵庫のように確信犯の口調だった。

「誰が言ったの?」と私が言う前に、黒物家電たちが一斉に起動した。

テレビ「来客ってことは、私の出番でしょ」

PC「ご主人様。怪しいファイルはいけません。信用を落とします」


私は叫んだ。

「信用とか出番とか、なんでみんなそれ言うの!」


白物家電も割り込んでくる。

掃除機「埃ダンジョンで良い?今なら間に合う」

洗濯機「20分あれば洗濯できます。お守りできます」

エアコン「私のイリュージョンでご主人様とお友達をおもてなしします」


私は深呼吸した。

この家は、来客を前にすると、なぜか“旅館”みたいになる。

普段は好き勝手うるさいのに、外部評価が入ると急に団結し始める。

「分かった。みんな協力して。……でも喋らないで」


当然、誰も守らない。


掃除機を少し動かし、私は床のケーブルを拾い上げた。

洗濯機は「タオル、足マット洗濯を」を三回言った。

エアコンは勝手に除湿を入れた。


「落ち着かない!」


冷蔵庫が、玄関の方向に向かって言った。

「ご主人様。飲み物はどうしますか。来客には“選択肢”が必要です」

「麦茶でいいかな……」

「麦茶は常に正解です」

冷蔵庫はなぜか誇らしげだ。


キッチンに立つと、トースターが声を張った。

「来客には軽食をご用意いたしますか? 本日はミディアムレア——」

「パンにミディアムレアはない!」

「気分です」


電子レンジが、すっと割り込む。

「お客様のハートも私が温めますが」

「いらないよ!」

「ですよねー」


私は冷蔵庫から麦茶を出し、グラスを二つ並べた。

この家の食器は普段静かだが、来客時だけは見栄を張る。


時計を見る。あと五分。


ピンポーン。

玄関のインターホンが鳴った瞬間、家全体が一瞬だけ静かになった。

まるで舞台が暗転するみたいに、呼吸が揃う。


私はドアを開けた。

「ミキ! 来たよ!」

ユイは笑顔で、袋を提げていた。

「差し入れ。ケーキ」

「神……!」

「部屋、片づいてるじゃん。偉い」


私は、家の中に向かって小さく言った。

(聞いた? 偉いって)

家電たちが、どこかでガッツポーズの勝利の顔をした気がした。


リビングに通すと、ユイはソファに座った。

テーブルの上にケーキを置く。

ユイが部屋を見回して言った。

「なんかさ、ここ、落ち着く。温度もちょうどいいし、新鮮」

エアコンが、勝利の風を送ったはずだ。


私は麦茶を注いだ。

ユイが飲んで言う。

「麦茶、うま。冷え方がいい」

冷蔵庫が、勝利の冷気を放ったはずだ。


――だが、問題はここからだった。


「自動」でテレビがついたのをユイが珍しがる。

「最近のテレビはセンサーでつくんだ。凄いね」

「う、うん。便利だよねー」

冷や汗が出る。


台所から「音」が聞こえる。


ユイ    

「何かキッチンから音がしてるよ」

「うーん、冷蔵庫の音かなあ」

(違う。あれは電子レンジが喋りたがってる)


ユイがゲーム機を指さし、何のゲームやってんの?やろうよ。

「うん、でもうるさいから」

言い訳が変。

「そっか」


ユイが今度は、テレビ台の横を指差した。

「ねえ、この黒い箱なに?」


そこにはルーターがいた。

いつもは壁の隅で偉そうにしているのに、

人間の視線を浴びると急に“ただの機械”の顔になる。

「え、あー……Wi-Fi」

「へー。なんか光ってるね。かわいい」

かわいい、は不穏だ。

この家の“上位存在”は、かわいいと言われると機嫌を損ねる。

案の定、ルーターが唸りを上げた。

(お願い。そこで止まって・・・)


ユイはさらに視線を動かし、廊下の方を見た。

「ていうかさ、さっきから……なんか、音しない?」

私は背中が冷えた。


カチ。

確かに、どこかで小さな音がした。

あの音は、家の中の誰かが“黙れ”と言う前触れだ。


ユイが立ち上がり、玄関の壁を指差した。

「これ、配電盤じゃん。見えるとこにあるんだね。懐かしい」

(やめて。見ないで)


私の心の中の私が叫んだ。


ユイは好奇心のままに、配電盤の前に立つ。

扉に手をかける。

「開けてもいい?」

「だめ!」

声が裏返った。


ユイが目を丸くする。

「ごめん、そんなにダメだった?」

私は必死に笑って誤魔化す。

「いや、その……危ないし」

ユイは「そっか」と引き下がった。


その瞬間、家の中で、誰かが低く息を吐いた。



ユイが帰って、ドアが閉まった。

私は玄関に背中を預けて、力が抜けた。


「……つかれた」


そのとき、家の中で一斉に声が戻った。

冷蔵庫「麦茶、正解」

エアコン「体感、完璧」

掃除機「床も完璧」


私は言った。

「でも……ありがとう。助かった」

家の中が、少しだけ静まる。

照れたみたいな沈黙。


……と思ったら、黒物家電たちがまた始めた。

テレビ「結局、彼女が一番見てたのは俺だよね」

PC「違います。彼女はデスク周りを見て“片づいてる”と言いました」

ゲーム機「ケーキ食べながら、僕の話題も出たよ? 

 『最近なにしてる?』って」


その瞬間。

廊下の奥から、低い声が響いた。


「……静かにしろ」


配電盤だった。

家の中の全員が、凍りついた。

配電盤は淡々と続ける。

「来客対応は“業務”。業務が終わった。今からは“節電”。無駄口は不要」


カチ。


どこかで回路が切り替わる音がした。

黒物家電のランプが一段暗くなり、白物家電の主張が小さくなる。

私は思わず呟く。


「……配電盤、怖い」


配電盤は、冷たく答えた。

「怖くて結構。電気は、許可制だ」


そして、この家は、本当の静けさを取り戻した。


ミキはつぶやく。

「でも、配電盤君が落ちるのは、静かで良いかも」


全員が震え上がったのは言うまでもない。



(完)



【来客時に気を付ける事】


E-LIF調査(https://www.e-life.jp/column/trend/2279/)


      1位 トイレ・洗面所を掃除する   54%


      2位 リビングを掃除する      28%


      3位 部屋の香り          8%


      4位 玄関掃除           5%


      5位 服装             2%



【掃除をする動機】


ケルヒャー調査(複数回答)(https://www.kaercher.com/jp/newsroom/kaercher-stories/int-cleaning-2024.html)


      1位 衛生的な必要    84%


      2位 気持ちが落ち着く  59%


      3位 管理出来てる実感  51%


      4位 後ろめたさ     27%


      5位 来客のため     24%


(参考:ドイツでは、1位2位は変わらず、「来客のため」が3位 60%)

お読み頂きありがとうございました。

最初はアンケート調査だけのつもりでしたが、

勢いで家電話作っちゃいました。

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