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~序章~
「お願い、幸也君。他の誰でもない、貴方に押してもらいたいの。」
人ひとりを入れる大きさのケース。
そのケースの中で横たわる彼女の頭にはヘルメットのようなものが被せられており、そのヘルメットに向かい無数の管が繋がれている。
俺にはそのケースがどこか棺のように見えてしかたがない。
そんな俺に棺を彷彿とさせるケースの中で涙を流しながら棺の中で横たわる彼女は俺に願う。
今日の今の今まで生きてきた彼女をボタン一つで殺してくれと。
彼女は残酷だ。
だけど神様はもっと残酷だ。
「お休み、陽葵。」
俺が必死の作り笑いを浮かべながらケースの中で眠る彼女に声をかけると彼女はにっこり笑った。
「お休み、幸也君。」
俺を見て笑う彼女から俺は最後まで目を離さず、静かにボタンを押した。
ボタンを押した瞬間、大量の煙が彼女を覆う。
その煙は次第に彼女を覆い隠していく。
彼女が次に目覚めたときは俺の知る彼女はもういない。
それでも、それでも――――――
君が何度俺を忘れても……俺はきっと、また君に恋をする―――――――。