第九話「光の向こうに立つ影」
こんばんは、AIKAです。
今日はふっと、空を見上げたくなるような雲でした
そんな一日を締めくくる、静かな異界の瞬間をどうぞ
──そこに、“誰か”がいた。
蒼波は、ただ見つめていた。
淡く揺れる光の中に、輪郭がぼんやりと浮かんでいる。
遠いようで、近い。
声は聞こえない。けれど、その存在は確かだった。
風は吹いていない。
けれど、空気が揺れていた。
まるでその人物が、世界の中心に立っているかのように──空間ごと、静かに波打っていた。
蒼波は、無意識のうちに手を伸ばしていた。
届くはずもない距離。
それでも、指先が何かに触れたような錯覚。
──見覚えが、ある。
頭の奥が疼く。
昨日でも、今朝でも、さっきでもない──もっと深く、もっと遠い場所の記憶。
“誰か”の名前が、唇まで上がりかけて──止まった。
──でも、思い出せない。
影は、こちらに背を向けたまま動かない。
その佇まいに、懐かしさと切なさが同時に押し寄せた。
「……待って……」
言葉を発した瞬間、光が揺れた。
風が吹いたわけじゃない。
ただ、空間がひとつ息をついたような、静かな波紋。
そしてその影は──ふ、と消えた。
手を伸ばしたままの蒼波は、深く息を吐いた。
残ったのは、あの場に満ちていた“ぬくもり”のような余韻だけ。
まるで、それが“幻”だったかのように、風景はまた静けさを取り戻していた。
最後まで読んでくれてありがとう
確かに“誰か”がいた……その記憶、幻じゃないはず。
次回──光の奥から、声が届く……誰!?