第3話 [扉の前で、波は静かに満ちていく]
ようこそ、今日も読みに来てくれてありがとう。
今回は、蒼波の中で何かが動き出す話です──
蒼波は、波の音で目を覚ました。
いや、正確には──目覚める前から、聞こえていた。
夢と現のあいだ。
その境界で、静かに打ち寄せる波の音が、彼の意識を深く揺らしていた。
いつもの部屋。
カーテンの隙間から差し込む、白く濁った朝の光。
だが、その空気はどこか“違って”いた。
「……また、か」
自分でも分かっていた。
夢ではない。けれど、現実でもない。
スマホの時計に表示されていた時間は──午前五時二十三分。
なのに、まるで水中にいるように、時間すら歪んで見える。
耳元で──波が呼んでいた。
蒼波はゆっくりと体を起こし、立ち上がった。
窓の外を見た。まだ空は暗い。
けれど、風は吹いていないのにカーテンが揺れている。
──行かなきゃいけない気がした。
理由なんてなかった。
ただ、心がそう言っていた。
自分でもおかしいと思いながら、ドアノブに手をかける。
けれど、その先にあるのは、いつもの廊下ではなかった。
視界が揺らぐ。
空気が震える。
足元が沈むような感覚──
一歩、踏み出す。
周囲の色が静かに変わり始めた。
畳の感触が消え、足元に広がるのは濡れてもいないのに湿った空間。
そして、目の前に──それは現れた。
──扉。
古びた木製の、どこか懐かしい雰囲気を纏った扉。
まるで、最初からそこにあったように。
けれど、確かに現実には存在しないもの。
蒼波はその前で、静かに立ち尽くした。
息を吸う。
少しだけ震える指先で、ノブに手をかける。
「……これが、俺の……」
言葉にならないまま、思考は波にさらわれた。
迷いも、恐れも、期待も──
すべてが波に包まれていく。
そして──
蒼波は、静かに扉を開けた。
その先には、まだ何も見えない。
ただ、光と空気と、揺れる気配だけがあった。
一歩、また一歩。
扉をくぐり──蒼波は、“こちら側”を離れた。
ここまで読んでくれてありがとう。
次回、扉の先は──
また続きを読みに来てくれたら嬉しいです。これからもよろしくお願いします