第2話 [波間に揺れる記憶]
読みに来てくれてありがとうございます。
本作は第1話に続き、世界観を丁寧に描きたくてリライトしました。
日常のすき間に“異界”がにじみはじめる──そんな違和感と静かな気配を感じてもらえたら嬉しいです。
翌朝──
蒼波は寝起きから、何かが引っかかっていた。
昨日の夢。
海辺のような景色。
白いワンピースの少女。
──奏。
名前も、顔も、確かに覚えているのに。
まるで“見てはいけない何か”に触れたような感覚が、心の奥に引っかかっていた。
登校の道すがら、信号待ちの交差点で立ち止まる。
目に映る世界は変わっていない。
けれど、どこか“薄い”。
空も、風も、人の流れさえ、どこか現実感に欠けていた。
「……海の匂いがする」
誰に言うでもなくつぶやいたその瞬間、
すれ違う女子高生に「えっ今なんて?」と変な顔をされた。
蒼波は気まずそうに笑って、その場を歩き出す。
潮の香りなんて、あるわけがない。
この街に、海なんて近くにないのだから。
*
放課後、寄り道せず帰宅した蒼波を、
穏やかな声で出迎えてくれたのは、祖母──おばあちゃんだった。
「おかえり、そうちゃん。今日はいつもより静かに帰ってきたねぇ」
「……なんか、疲れててさ」
「ふふ、そういう時期かねぇ」
湯飲みを差し出してくれたおばあちゃんは、
昔から少しだけ不思議なことを言う人だった。
「おばあちゃんさ、夢の中の“音”って、聞こえる?」
蒼波の問いに、おばあちゃんは一瞬だけ手を止めた。
「……波の音かい?」
「……うん。どうして分かるの?」
「昔ね、そうちゃんがまだ小さかった頃、
よく“海の夢”を見たって言ってたんだよ。覚えてる?」
思い出せない。でも、どこか懐かしい。
「ほら──『波の向こうから、女の子が呼んでた』って言ってたよ」
手のひらが、じんわりと汗ばんだ。
息が浅くなっていく。
「もしかして、また見たのかい? その夢」
「……うん。名前、奏っていう子。どこかで会ったような気がした」
「奏……ねぇ」
おばあちゃんは湯飲みのふちを指でなぞりながら、
まるで“知っている”ような顔をしていた。
けれど、それ以上は何も言わなかった。
*
夜──
蒼波はまた、枕元のスマホを見つめていた。
流れるBGMも、SNSの通知も、どこか現実感が薄い。
ふと、部屋のどこかで水音がしたような気がした。
イヤホンを外す。
しん、とした部屋の中。
外から車の音もない。
なのに──
耳の奥で、かすかに波の音が響いていた。
「……まただ」
気のせいなんかじゃない。
この音は、現実のどこにも存在しないはずなのに、
はっきりと“呼ばれている”と感じた。
──奏。
あの子は、誰なんだろう。
いや、違う。
どうして俺は──
“あの場所”に、行こうとしているんだ?
答えは、まだ波の向こうにある。
【第二話:了】
読んでくださって、ありがとうございます。
少しずつ異界の気配がにじみ出てくる──そんな感覚を楽しんでもらえたら嬉しいです。
これからも応援よろしくお願いします。