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第4章:推しがいるから、生きていける

「はぁ〜……今日も尊い……」


手芸部の机に肘をつき、スマホを見つめたまま恍惚のため息をつくのは、オタク系女子・遥。


彼女の推しは、2.5次元舞台俳優の「桐ヶ谷レイ」。

舞台でも配信でも雑誌でも、どこを切り取ってもイケメンで、笑顔が神で、筋肉のつき方まで芸術的。遥にとって、レイは“生きる理由”だった。


「でもさぁ、落語で推し活って……バカっぽくならない?」


福祉施設での公演が終わったあと、次の地域イベントで披露するネタ会議中。

紬が「推し活ネタやってみたら?」と提案した時、遥は一瞬ひるんだ。


「だって推しって……自分だけの宝物っていうか、笑いにするの、ちょっと怖い」


けれど、心のどこかで思っていた。


——“この気持ち、誰かと分かち合えたらいいのに”。


それでもやると決めたのは、ある日、駅のホームでふと見た広告がきっかけだった。

舞台の告知ポスター。そこに映る桐ヶ谷レイの笑顔に、遥は小さく笑った。


「……あたし、この人の存在だけで、今日まで生きてきたんだな」


泣きそうになるその瞬間、ふと思った。


——“この尊さ、笑いにできたら最強じゃない?”


そうして生まれた演目が『推しが生きてるだけで世界が光る件について』



地域商店街の特設ステージ。

観客の中には、偶然通りがかった高校生たちや、小さな子ども、買い物帰りのお年寄りの姿も。


遥のぬいぐるみは、金髪ふわふわのウサギに舞台衣装を着せた“推しぬい”と、自分を模したメガネのネコ。


「みなさん、推しはいますか? え、いない? じゃあ今から私が布教します!」


「推しが生きてるだけでいい! この世に存在してくれるだけで、空気がうまい!呼吸ありがとう!」


「舞台でたった一言セリフ言っただけで、“やばい今の声の波動、耳経由で心臓きた”ってなる! 分かるこの感覚!?」


「お金? もちろん貢ぎましたよ!? 舞台8公演全通してグッズも買って、残高見たら“生きてるだけで赤字”でしたけど何か!?」


会場から笑いが広がる。


「でも、どん底の時、推しの言葉で救われたことがあるんです」


「“舞台に立つことで、誰かの明日を照らせるなら嬉しい”って。……あたし、それ聞いて泣きました」


「だから今、あたしも誰かの心を、ちょっとでも照らせたらって思ってるんです。ぬいぐるみと、落語で」


最後に、ネコぬいがこう言った。


「推しがいてくれて、ほんと、ありがとぉぉぉぉ!」


観客の中に、そっと涙をぬぐう年配の女性がいた。


「私にもいたのよ。若い頃、宝塚のスターでね……その人の舞台観るために、貯金はたいたわ」


終演後、その女性が遥に言った。


「あなたの話、すごく良かった。推しって、本当に人を生かしてくれるのね」


遥は笑った。


「はい。……推しは命の灯です!」


そしてその晩、遥は“推しぬい”の背中にこっそり刺繍を入れた。


「光」


それは自分の心を照らしてくれた存在への、最高の感謝だった。


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