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第七話 変わるもの変わらないもの


 馬車に乗り込み、オーウェン様に駆けつけてきてくれた感謝を伝えるとオーウェン様は優しく笑いかけてくれた。


「ソフィアが無事で本当によかった。グレース様からソフィアがおかしな3人組に絡まれているって伝言をもらって気が気じゃなかったよ」

「おかしな3人組……」


 彼女達にはこれから我が伯爵家だけではなく、オーウェン様のダーズビー侯爵家、そして本日のお茶会の主催者であるグレース様のリットン侯爵家から抗議がいくことになる。

 自分達よりも高位の令嬢に勝手な思い込みで詰め寄りお茶会を騒がせ、オーウェン様にも『婚約者以外と懇意になった』という言われなき汚名が着せられるところだったのだ。


 オーウェン様の名誉に傷がつく事態にならなかったことに改めて安堵していると、馬車が我が家に向かうのとは違う道を走っていることに気がついた。


「オーウェン様、馬車はどちらにいかれるのですか?」

「伯爵家に送る前に、せっかくだから少し寄りたいところがあってね。付き合ってもらえる?」

「はい、もちろんです」


 やがて馬車は一軒のお店の前でとまった。


「ここって、この間お話されていた、新しいケーキ屋さんですか?」

「うん。さあ入ろうか」


 お店に通されると個室に案内された。

 温かみのある内装で、柔らかい日差しが窓から差し込んでいる。

 しばらくすると美しく盛り付けられた小さなケーキがたくさん載ったケーキスタンドがテーブルに載せられ、カップに紅茶が注がれた。


「すごく綺麗ですね!食べてしまうのがもったいないくらいです」

「よかった、ソフィアなら絶対気に入ると思ったんだよ。さあ食べようか」


 いつものオーウェン様とのお茶会のように、ケーキを食べる前に紅茶を飲もうとした時だった。オーウェン様から待ったがかかったのだ。


「ちょっと待って、ソフィア。これを入れなくていいの?」


 そう言ってオーウェン様から差し出されたのは角砂糖とミルクだった。


「あの、オーウェン様、私はいつもこのままいただいていますから大丈夫ですよ」

「ソフィア、無理しないでくれ。アダムから聞いているんだよ」


 お兄様から?


「伯爵家ではいつも砂糖とミルクを入れて甘くしたものを美味しそうに飲んでるって聞いたんだ」

「あの、えっと、それは……」


 何とお答えすればいいのかしら。


 私が口篭っているとオーウェン様が慌てた様子で話し出した。


「ごめん動揺させるつもりではなかったんだ。ただ、アダムからその話を聞いて、僕に合わせようとして無理しているなら申し訳ないなって思って」

「無理だなんて……」

「本当に?」


 オーウェン様の真剣な眼差しを前に、これ以上誤魔化しは効かないだろう、と素直に白状することにした。


「本当は甘いミルクティーが好きです。オーウェン様がそのまま飲む紅茶がお好きだとおっしゃっていたので、私も好きになれればと思ってオーウェン様とご一緒の時は同じ飲み方をしておりました。ただ……」


 チラリとオーウェン様の様子を窺うと、オーウェン様はとても優しい顔をして私を見ていて、目が合うと続きを促すようにゆっくり頷いた。


「ただ……やはり私にはそのままの紅茶が苦く感じてしまって家では砂糖とミルクを……」


 そこまで言うと、隠し事がばれた恥ずかしさで顔がどんどん熱くなるのを感じ、思わず頬を手で覆った。

 でも、とふと我に返る。

 自分と趣味だけでなく嗜好まで合うと思っていた相手が嘘をついていたと知ってオーウェン様はがっかりされたのでは?

 恐る恐るオーウェン様の顔を覗き込む。

 すると、オーウェン様は何かを堪えるような表情をしていたが、不快に思っているというよりもなぜか嬉しそうだった。


「正直に教えてくれてありがとう、ソフィア。ソフィアが本当に好きなものを知れて嬉しいよ」

「嬉しい?がっかりしませんでしたか?」

「がっかりなんてしないよ。僕に合わせようとしてくれたのも嬉しいけど、ソフィアがソフィアの好きなものを楽しんでくれた方がもっと嬉しいんだよ。だから、これからは無理しないで、僕にもソフィアの好きなものを教えてくれる?」

「……はい、オーウェン様」


 この会話から2年半、穏やかな時間が流れた。


 あのリットン侯爵家でのお茶会の後、正式に3人の令嬢のご実家にコークラン伯爵家、ダーズビー侯爵家、リットン侯爵家から抗議をした結果、3人は修道院に入れられることとなった。その件があったためか、オーウェン様を巡って言いがかりをつけられるようなことはなくなった。

 いや、唯一ニコラだけは変わっていない。


「お姉様は私より1年先に生まれただけでオーウェン様と結婚するんでしょ?!そんなのずるいじゃないの!」

「私の方が可愛いのに!!絶対に私の方がオーウェン様とお似合いなのに!!」


 最近は言われすぎて麻痺してきたのか、ニコラに詰め寄られても余裕を持ってあしらえるようになってきた。

 お父様やお母様がどんなに「オーウェン様がソフィアを選んだのが決め手だったんだよ」と婚約に至ったオーウェン様の決断について説明してもニコラには何も伝わらないのが歯痒い。そう、婚約後しばらくして知った事なのだが、オーウェン様との結婚は、私とニコラどちらとでもよかったらしい。しかし、婚姻前の交流を通じてオーウェン様が私を結婚相手に選んでくれていたのだ。

 両家両親とも私をオーウェン様の婚約者にと考えていたのもあり、オーウェン様が私を選んだことは両家にとっても嬉しいものだった、とダーズビー侯爵夫妻にも両親にも嬉しそうに告げられて私も胸がいっぱいになったものだ。

 

 あれからオーウェン様と私の関係は変わった。いい意味でだ。

 オーウェン様とのお茶会では、私のために可愛くデコレーションされた砂糖と温められたミルクがいつも準備され、ミルクティーを飲む私を嬉しそうにオーウェン様は見守ってくれているし、最近ではこちらが恥ずかしくなるくらい私の事を褒めてくれる。


「そのイヤリング、着けてくれたんだね。すごく似合っているよ」

「ソフィは今日も可愛いな」


 ソフィ、と呼ばれるようになってしばらく経つが未だに慣れず顔が赤くなってしまうのをオーウェン様にからかわれてしまう。

 相変わらず、そんな私達をニコラ以外の家族や使用人、そして友人達が温かく見守ってくれている。


 悪魔についてのことは変わらず調べ続けているものの芳しくない。おかげで悪魔祓いについてウィリアム司教と討論が出来るくらいには詳しくなってしまった。

 ここまで調べても何もわからないのであれば、もしかしたら悪魔ではなく神様が助けてくれたのかもしれない、そんな風にも思うようになっていたある日のことだった。


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