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未来からの忠告と選択  作者: もちまる


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番外編 ウィリアム司教とカモミールティーを①





 コポコポと音を立てて注がれるカモミールティーの香りが部屋中に漂い、窓から差し込む柔らかい日差しと共に部屋を優しく包む。

 窓の外ではすっかり秋めいた木々が心地良さそうに風に揺れている。


 今日、私はウィリアム司教に話せていなかった顛末を報告するために教会を訪れていた。


「さあ、どうぞ」

「いつもありがとうございます、ウィリアム司教」


 ウィリアム司教が淹れてくれるこのカモミールティーに、何度心を救われただろうか。


「先日お会いした時はすっかり憑き物が落ちたような晴れ晴れとしたお顔をされていましたが、今日は何やらまた内に秘めたものがおありのようですね」


 今まで何度か頭によぎったことだが、ウィリアム司教は私の心が読めるのかもしれない。その澄んだ瞳に何が見えているのだろう。


「ウィリアム司教の前で隠し事はできませんね。おっしゃる通り、あれから心にもやが燻っているのです。ただそれを聞いていただく前に、是非この度の顛末をお聞きいただきたいのですが…お聞きいただけますでしょうか?」

「ええ、もちろんです」


 それから私はウィリアム司教に会えていなかった間に起きた出来事を一つ一つ話していった。


 まず話したのはニコラの突然の死。

 そして棺の中で眠るニコラの姿を見た時の衝撃。


 これにはウィリアム司教も目も見開き、開いてしまった口を手でおさえていた。


「まさか、それでは未来から現れたのはソフィア様ではなくニコラ様だったのですか?」

「はい、おっしゃる通りです」

「では悪魔との契約者は…」

「はい、私ではなく、ニコラでした」


 ウィリアム司教は驚いてはいたものの、どこか合点がいった様子で目を瞑り、ゆっくりと頷いた。


「そういうことだったのですね…。なぜニコラ様はソフィア様と名乗って現れたのでしょうか」

「恐らくですが、私から婚約を拒否させる方がオーウェン様と私の婚約を成立させないというニコラの目的を果たせる可能性が高いと考えたのではないでしょうか?そのためにはニコラからよりも、私自身からの忠告である必要があったのでしょう」


 全てが明らかになってから思い返してみれば、あの時の言動はニコラそのままだ。


「あの日、棺に眠るニコラの姿を見るまでは、未来から現れたのが自分だったと信じ込んでいたくらいには成長した私達姉妹の姿はそっくりでした。でもまさか、私のふりをして現れていたなんて」

「それだけニコラ様はオーウェン様との結婚に執着していたということですね……禁じられた悪魔の力を借りるほどに」


 ウィリアム司教の言葉に、視線を落としながらゆっくり頷いた。


 次に話したのはオーウェン様に起こった事故。

 そして悪魔との対峙と神様の起こしてくださった奇跡。


「まさかそんなことが……なんということだ……。良くぞ、その状況で悪魔からの誘惑に打ち勝ちましたねソフィア様。その上悪魔祓いを成功させるとは……神の奇跡まで……!!ああ本当に、なんということなんだ!!」


 感極まり涙を流しながらよかった、よかった、と呟くウィリアム司教の姿に私も涙が込み上げてきた。


「全て、ウィリアム司教のおかげです。ウィリアム司教がいなければ…今の私はいないでしょう。あの時、ウィリアム司教が私に話しかけてくださらなければ、子供の荒唐無稽な話を信じてくださらなければ、悪魔について一緒に調べてくださらなければ、大切なロザリオをお貸しいただけなければ、私は悪魔の甘言に負けていたかもしれません。ウィリアム司教のかけてくださったお言葉や行動が、私を、いえ、私の大切な人をも守ってくださったのです。本当に長い間、ありがとうございました」


 頭を下げる私に、ウィリアム司教は「いいえ、いいえ」と焦った様子で頭を上げるように言う。顔を上げると、ウィリアム司教はあの時、私が悩みを打ち明けた時のように慈悲深い表情を浮かべ目を潤ませていた。


「全て、ソフィア様の今までの行動がもたらしたことです。ソフィア様が教会で熱心に祈りを捧げていたからこそ、ソフィア様のお悩みに気が付くことができました。私を信じ、打ち明けてくださったからこそお力になることができました。それにソフィア様は私以上に悪魔についてお調べになっておりましたね?今では私以上に悪魔祓いにお詳しくなられた……」


 ウィリアム司教の言葉が胸に優しく入り込んでくる。


「私がお貸ししたロザリオも、ドレスを着る際にも工夫されて肌身離さずお持ちになっていらっしゃった。そして、ソフィア様は私の言葉を真摯に受け止めてくださった。私は司教として、これまでも多くの悩める方のお悩みを伺い、言葉をかけてきました。なんとかお救いしたい、少しでもお心を軽くして差し上げたい、苦しみを和らげて差し上げたい、そんな思いで声をおかけするのですが……」


 ウィリアム司教は口を震わせ、苦しげなお顔をされる。


「どのような言葉も届かず、自分の無力に打ちひしがれることもあります。だからこそ、私の言葉をあんなにも真っ直ぐ受け止めてくださったことに心から感謝申し上げたい。私の言葉を心に留めてくださったこと、正しい選択をしてくださったこと……この教会に足を踏み入れてくださったことも、全てのことに感謝申し上げます、ソフィア様」

「……っ、もったいないお言葉をありがとうございます、ウィリアム司教」


 しばらくの間、部屋にはお互いの啜り泣く音だけが響いていた。

 これまでのウィリアム司教との交流の数々が鮮やかに蘇り、色んな感情が込み上げ胸がいっぱいだった。


 9歳の幼い私の話を信じてくださった。

 大切なロザリオを、私を信じてお貸しくださった。

 私を思って今も心に残る多くの言葉をかけてくださった。

 一緒に何年も何年も、数えられないほどの本を読み、人にあたり、悪魔について調べてくださった。

 辛い時、不安に苛まれた時、こうして訪れる度に温かいカモミールティーを淹れてくださった。


 ウィリアム司教がいなければ耐えられなかったかもしれない、戦えなかったかもしれない。私1人では悪魔に打ち勝つことはできなかっただろう。




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