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青天の霹靂

作者: ぶんぶん

「なあ、俺たち別れよう」

「え、」

食べようとしていたカレーがスプーンから落ちて、べちょっと嫌な音がなった。


その時私は今までにないくらいマヌケな顔をしていただろう。


私は山村千秋、25歳の普通のOLだ。

今私に突拍子もないことを言ってきたのは大学時代に出会って、なんとなく付き合い始めたという、なんの変哲もないそこらへんにゴロゴロ転がっているような馴れ初めで4年程付き合っている彼氏、萩村太一だ。

ちなみに今日はお互い休日で、私が借りているアパートで私が作ったさして美味しくもないカレーを昼食に食べているところだった。


お互い25歳になったところで、まだまだ若輩者。結婚はまだ先だとしても、視野には入る年齢ではあるし、大きな喧嘩もなく順調に付き合ってきていたと思っていたし、このままならなんとなく結婚するんだろうな。と思っていた矢先の、ふんわりとしたお別れ宣言。


まさに青天の霹靂。

青空の下を歩いていたのに、急に雷に撃たれたような心地である。


「えっ急に何?どした?」

「あ、なんか、千秋とは恋人というよりも家族みたいになってきちゃって・・・」

「あれまぁ」

一度整えたはずなのに、またしてもマヌケな顔を晒してしまった。


私と太一は、太一の猛アタックがあり付き合いが始まった経緯がある。

元々私は太一に恋愛感情があったか、と言われたら微妙だった。

それに、太一に告白された時は彼氏に振られたばっかりで、人と付き合ったとしても、別れるのが嫌だと思っていたので、それをそのまま伝えたところ、俺が千秋を振ることはないよ。と言ってくれたので付き合い始めたのだ。


付き合い始めてから太一はとても優しかったし、私のことをすごく愛してくれていた。

別に対して可愛くもない私を可愛い可愛いと言って褒めてくれた。

私も徐々に太一にちゃんと恋愛感情が芽生えてきていたし、私はずっとうまく行っていると思っていた。


なのに、急に、これか。

「待って待って、ちょっと納得できない。家族みたいって悪いことなの?まだ早いかもしれないけど、結婚するって話になったら家族になるんだから、いいことじゃないの?」

「・・・」

「黙ってないで、本当にちゃんと私が納得できる話ができないと別れられないよ!」

「・・・好きかどうかわからなくなった。」


私の冷静な部分は、なるほど、それは確かに別れる理由になるな。と考えているが、混乱している私は、私を振ることはないって言ったじゃない!!と大騒ぎしている。


しかし、私ももう25歳。社会にも出ている大人の女性と言っても過言ではないだろう。

そのなけなしのプライドが、情けなく縋り付くなんて許さなかった。


「・・・そう、わかった。」

物分かりのいい女を演じる以外の選択肢はない。

どんなに私が太一を愛していても、太一の心はもう決まっているのだろう。

だったら心がどんなに傷ついていても、それを表に出すなど絶対にできない。

涙など、見せてたまるか。

・・・こういうところが可愛く無かったのだろうか。


「・・やっぱり引き留めないんだね。千秋は」

その一言にカッとなってしまった。

「引き留めたところで、何が変わるの?!私は私のことが好きじゃない男と付き合い続けるなんて絶対嫌よ!!!勝手なこと言わないで!!」

大声を出してバンっと机を叩いてしまった。

その音で我にかえる。


「・・・そうだよな。うん。ごめん。」

「・・・・もういい。じゃあ、私の家に置いてあるものは今日持って帰って。」

「わかった。」

「じゃあ、私はあなたが片付けが終わって帰るまで外にいるから、合鍵はポストにでも入れて置いて。終わったら連絡して」

「え、あ、わかったよ。」

なぜか太一はしどろもどろだ。

きっと自分が想定しているよりもトントン話が進んでいてびっくりしているのだろう。


「じゃあ、さよなら。」


私は必要最低限の財布やスマホだけを持って家を出た。


なんの気無しに道を進み、高い木が一本だけ生えているだだっ広い公園に着いた。

ベンチに座り先ほどのことを考える。

私は最後まで情けない姿は見せなかっただろうか。

じわじわと涙が出てくる。

私の感情とは逆に空は雲一つない青天が遠くまで広がっていて、とても綺麗だった。


さっきは太一を責めるようなことを言ってしまったが、太一が心がわりをしたのは私のせいなのだろう。

きっと私は太一の優しさにあぐらをかいていた。

当たり前のようにくれる優しさを当然のように受け入れて、無限に貰えるものだと勘違いをしていたのだ。

思い返せば、太一にはわがままを言い続けていた。愛されて当然のように振る舞っていた。

情けない。

私は愛想を尽かされてもしょうがない。

もう恋愛なんてするのはやめよう。

私は臆病だからもう傷つきたくない。


涙をこぼしたくなくて、顔を上げた。


空の模様は変わらず、青い高い空が続いているが何かキラキラチカチカしているものが見えた気がする。

肌がゾワっと粟立つ心地がした。

髪が逆立つ。

「え、何?」

と思った瞬間。

一本の光の筋が空から落ちてくるのがスローで見えた。

きっとよく聞く死ぬ前は全てがスローに見えるというやつなんだろう。

あ、これは、死ぬ・・・


聞いたこともないような轟音が鳴り響いた。

雷に撃たれたようだということはわかった。幸い痛みは無かったが意識が遠のいていく。

薄れる意識の中で


「見つけたぞ、俺の花嫁」


とう声を聞いた。



あぁ、これぞまさに


ー青天の霹靂ー


急に起きる変動・大事件。突然うけた衝撃。

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