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短編(現実世界)

あなたの好みになりたくて

作者: 華霧むま

 私には、好きな人がいる。

 それは幼なじみの男の子。松田伊織くん。私はいおくんって呼んでる。


 私は、いおくんに好きになってほしい。だから、ドジな女の子を演じている。

 私は知ってる。ドジなことをする私をみて、いおくんが心から嬉しそうにしていることを。

 いおくんとは幼いころから仲良しだから、いおくんの好みはちゃんと分かっている。


 よし、今日もドジの演技を頑張るぞ!


「おはよう! いおくん」

「茉白、おはよう」


 いおくんは、いつも玄関まで迎えに来てくれる。私は靴を履くために鞄を自分の横に置いた。そして鞄を持たずに立ち上がる。


「よし、いおくん。行こうか」

「ましろ、鞄忘れているよ」

「あ……。本当だ! ありがとう!」


 お礼を言いながらいおくんを見る。私にかばんを手渡すいおくんは満面の笑み。よかった。今日も嬉しそうだ。


「それじゃあ、行こうか」

「うん!」


 さあ、今日はどうやってドジな女の子を演じていこうかな。



 ◆


 幼なじみの茉白。今日もかわいい。何が1番かわいいって? それは勿論「ドジなフリ」をしようと頑張っているところだ。


 今日の朝もかばんを忘れようとしたが、立ち上がる前にほんの一瞬。茉白をよく見ている僕だから気がつけるほど一瞬、視線をかばんに向けていた。それでも手に取らずに立ち上がったのだ。


 茉白がわざとドジなことをしているのは知っている。それがかわいくて仕方がない。


「そういえば、来週からテストだね」


 その言葉に茉白は瞬きを繰り返した。その後に彼女は狼狽え出す。


「どうしよう……。テストで赤点取ったら次のテストまでゲーム禁止なのに……」


 この焦り方は演技には見えない。それでも来週のテストを忘れているということはないだろう。いろんな授業で先生がテストについて言及しているのだから。茉白は演技がどんどん上手になっている。


「それでも茉白、今までに赤点取ったことないよね?」

「うん。1人だとサボっちゃうけど、いつもいおくんが一緒に勉強してくれるから……。迷惑ばかりでごめんね」


 そう言う茉白には涙が浮かんでいる。それを僕はそっと拭った。


「大丈夫。今回も僕が一緒に勉強するから安心して」

「ありがとう!」


 茉白は満面の笑みを浮かべた。かわいい。


 教室について鞄の中をみていた茉白が首を傾げた。


「今日の1時間目って数学だよね?」

「国語に授業が変更になったって昨日先生言っていたよ」

「そっか! だから私国語の教科書を鞄に入れていたのか。なんで入っているのかなって思った!」


 今日は忘れる系のドジが多いな。忘れる以外のドジもあると思うけど。それでもかわいいからいいか。


 ◆


 放課後、私はいおくんと一緒に私の家でテスト勉強をした。お互い黙って問題を解いているだけだったけれど、心地良い時間だった。



「じゃあ、茉白。僕は帰るね。テストまで勉強頑張ろうね」

「うん。いおくん、ありがとう!」


 ガチャリと玄関の戸が閉まる。それを見てから、ほっと息をついた。

 よし。こんなものかな。


 よかった。今日もいおくんは私の演技に気がついていたみたいだから。私は知っている。いおくんは「自分好みに必死になる女の子」が大好きだから。私が演技をしている(フリをしている削除!)と気づかせなくてはならない。


「明日からもドジを演じていることに気がついてもらえるように調整を頑張る! そしていおくんからの好感度を稼ぐ! いつか付き合えるように!」



 ガチャリとドアの音がした。そこに立っていたのは気まずそうな顔をしたいおくんだった。


「えっと、明日の朝の時間を決め忘れたのを思い出して戻ってきたんだけど……。茉白、今の話本当?」


 あっ……。

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