86 モンスター群の中心で愛を叫ぶ。
「大屋さん次は左!お願いしまッッしゃぁああぁおらぁおっ死ねモンスターどもぉおおおお、らあっッ!!」
「任せてえええィィYEeeeeeya、Haaaッッ!!!」
…えっと、説明しよう!
この状態は一体、なんなのか、をっ!
これは、エリートゴブリンダンジョンを攻略した際に大屋さんが新しく習得した【運属性魔法】!
『バイオリズム操作』によって、俺達二人のバイオリズムが最っ高潮に高められた結果、なのである!
つまりはバフの一種だな。ただ、単純に器礎魔力や身体能力を上げる従来のものとは一風違う。
『無理やりにバイオリズムを調律する』
という効果になっている。いや、バイオリズムとか急に言われてもピンとこないよな。だから分かりやすく言うと…
武道やスポーツで言うところの『心技体』。
『心』と『技』と『体』にはそれぞれ周期的に好不調がつきまとう。
それぞれ個別の波がある以上、波調がバラバラとなって調子を崩す事も当然ある。
影響を及ぼし合う以上、連鎖だってする。体が不調だと心も振るわず、心が曇れば技も精彩を欠く、という具合に。
だから自身で調律する事は非常に難しい事とされている。
…のだが、
世の人々はそれを無意識に理解しており、意外と上手くコントロールしてたりする。
ただそれは、普段通りを維持するためだったり、局所的に安定した成果を出すためだったり…どうしようもなく訪れる体の不調を集中力でカバーして精度を維持する代わりに力みを抑えて流してみたりと、
『心技体のバランスをそれぞれの不調に合わせ調整する』という、補い合う形となるのが殆んどだ。
それに対してこの魔法は運を操作して本来ある好不調のバラつきを、豪快に無視する事が出来てしまう。
砕けた感じで言うと『はあ?心技体?そんな難しく考えないで無理矢理全部絶好調にしちゃえばほら、バランス取れるだろ』…なんて乱暴な事が出来てしまう。
そうやって俺達が突入したこの絶好調モードは無理矢理に『ゾーン中のゾーン』に突入したも同然、
かつ、俺達が普段活用している『器礎魔力の相乗効果』ともまた別の強化となってもいるのだから凄い。
実際にその相乗効果を使ってみれば普段より高い効果を発揮してるようだ。やっぱりチートだよな【運属性魔法】は…
…ただ、無理矢理である以上…
「おりゃりゃりゃりゃりゃああ♪!!」
「ぃぃい、ヤッホーおおおお♪!!」
…って感じに、なる。レア度で言えば『一生一度あるかも怪しいレベルの多幸感や万能感』に酔いしれてしまう事になってしまうのもしょうがない?…って、事にしてほしい!
いや、心技体とはなんぞや?って感じに見えるよな!わかります!俺も思った!
でもな!
この、ハイテンションな心に見合うハイテンションに無理繰り引き上げられた体から繰り出される技までこれでもかってハイテンションんんん!て感じになっちゃってもう、あれ!
【虚無双】に似てるけどアレほどの効果はなくてその代わりにリスク少なめ陽キャバージョン!的な…いやもう自分で何言ってんのか分からんつかもう説明すんのも面倒だッ!
「ぅおらぁあッッ!」
俺はオークサクソンジェネラルが両手持ちでぶん回す戦斧を身を大きく仰け反り回避しつつムーンサルトキックで迎撃した!それは手首を蹴り砕いて大きく弾く!
それでもしぶとく片方の手で戦斧を放さぬオークサクソンジェネラル「前から思ってたけど名前なげえよ!」に向け、歪な体勢ながら回転力を活かし木刀も振る!斬り飛ばす!
この二連撃×2で両の手首を潰されたついでに腕を後方へ跳ね上げられたオークサクソンジェネラルは取り柄である突進力まで削がれた。
その隙を突いてオークと俺の両方を開脚ジャンプで飛び越える大屋さん!空中、ぎゅるっと捻れながら宙返り!両手で逆手にもった『今はまだ無銘の小太刀』をオーク特有のぶっというなじに突き立てた!
喉まで貫通したそれをエグり上げ!息の根停止を確認し!引き抜きながらまた回転!無事着地!
と思いきや!そのタイミングを狙って繰り出されるオーガストライカーチーフのローキック!は、俺が身を呈してキャッチする!同時に受けた力に身を任せ!全体幹で大捻転!そのまま大樹を引っこ抜くがごとき「ドぅらっッッ!」
一本背負いッッ!脳天から地に突き刺してやった!逆さまになった胴を薙ぎ払って分割。同時に爆ぜる臓物と血塊。更に朱く染まった俺。また捻転して起き上がる。同じ朱で染まった周囲を確認する。
見れば俺に群がってきていたのだろうゴブリンブレイダーやらスパイカー達が首を軒並み空中へと手放していた。何本もの血柱を吹き上げ朱に染まった周囲を更なる血ミドに変えていた。
それをしたのだろう大屋さんも真っ赤だ。こちらに向ける笑顔は凄惨、
それでも綺麗で…嗚呼!
たまらなくなった俺は…ッ
「大屋さん有り難うございますッ!」
て言うだけで、いいのに…っ、
「~~あと、好きですっっ!」
戦闘中にも関わらずこんなラブコールをををを…っ!いや察して欲しい!魔法のせいだからこれ!魔法のせいでこうなってるからっ!
「どうイタまして!あと私もっっ!」
…ほら当の術者である大屋さんですらこのハイテンションから逃れられないご様子。
…ともかくこうやって俺達は、
「「「ぎ、ギャァアァアアッッ!」」」
高位進化を果たしたモンスターをバッタバッタと無双キルしまくるのでした。
「流石です!大屋さん!好きです!」
くっ、だから何言ってんだ俺っ!
「いいえ!均次くんに比べたら私なんて!そして私も好き!」
…大屋さんまでっ、
いやかわええけどもっ、
「好きです!」
「ギャひゃァアぁア!」
「私も!」
「ゲぶバァァ…ッ!」
「好きよ!」
「グオアアあぎゃ!」
「俺もっっ!」
「グどぼォォオッ!」
え?うん、俺と大屋さんの甘い叫び合いに挟まれてるのはモンスター達の断末魔だな。え?うん、分かってる。我ながらイッちゃってる。後で我に返った時は悶絶必至だ。だって、、
(前世で名を馳せてた連中が見てるだろうからな!あーもーくっそ恥ずいぃぃっ!)
…そう、前世でヴィランに墜ちた者達や、正義を気取った迷惑者達も含め、こんな世界になってレベルアップに積極的だった者、つまりは強者と呼ばれていた皆さんの多くが今、この場に集結してるはず。
(さっきの…倉敷正治を含んだ連中もそうだったんだろうが…)
そう、前世ではレベルアップに夢中でモンスターを追っていたヤツらは必ずと言っていいほど、この大量モンスターの大乱戦と鉢合わせしてしまっていた。
かく言う俺もその一人だった。いや才子のやつが強引で…ともかく前世では俺達もこの中央警察署の惨状を傍観したクチだ。
だから今の俺の…この、痴態に近い醜態は確実に聞かれてるし見られてる…あーもー!正直究極ハイテンションとなってても恥ずかしくって死にそうだ!今すぐこの魔法を解いてもらいた──いや、
(……まだ、止められない…か)
この場面でこの魔法はまだ有効。だって隠れるのを忘れて何人かが首を覗かせこちらを見ている。
(くそ、そんなに珍しいかよ!いや珍しいわな!こんな血に飢えたバカップルっ!)
とにかく、乱戦の凄惨すらも霞ますこの能天気が図らずも功を奏したらしい。他の魔力覚醒者達に蔓延していた不戦敗ムードが緩和しつつある…のか?もしそうならっっ!
さらなるハイテンションで誘き出してやるまでよ!
未練たらしくここに居座りながら、結局の傍観をキめこんでるコイツらをっ、こうやってぇっ!
「おら見てんだろう!?たった一体倒しただけで大量レベルアップ間違いなし!しかも入れ食い!リスクなんて考えてちゃ強くなれねぇ!いい加減それに気付けよ臆病者どもっ!」
だからまんまと参戦してくれー!そして馬鹿になってください俺達みたくー!この街の危機を救う魅惑と危険満載の大舞台にほらー!お前らも存分に巻き込まれてちょーだぃ──
「 ──いや、まだだな 」
まだやつらの出番はない。
だってびんっびんに視線を感じる。
それも、人には再現不可能レベルで殺意たっぷりのやつ。
多分だが、ド派手に経験値をかっさらう俺達を遂に看過できなくなったんだろう。
その熱視線を辿って見れば、やっぱりだ。
いつの間にか俺達を注視する巨大蜘蛛が、八本脚をたわませて──え?
「お…おぉぉお… ぬぉわっ!!」
とんでもねえ迫力っ!警察署屋上からこちらに向けて一直線!あの巨体で飛び込んで来やがっ──た訳だけどっ!
「く、早速かよっ!…でも」
好都合だ!
あの蜘蛛をどうやって地上に堕ろすか思案してたところだったからな。
それが棚ぼた的に降りてきてくれるって言うなら…とにかく!
ここからが、本番だっ!




