82 集結(1)彷徨い人と馬鹿ップル。★
自室の押し入れの中に『あるはずもない階段』を見つけた時はとりあえず親に報告──そう思った。でも、しなかった。
…引きこもって、
もう一年になる。
心に一生消えない傷を刻んだ加害者達は無事進級したはずだ。そして自分だけが取り残された。去年と同じ学年に。
17歳にしてドロップアウト。
その理不尽への怨念以上に積もったのは、決定的敗北感。それが邪魔をしている。こんな時にさえ親にあわす顔がない。
『情けない』
『このままじゃいけない』
『とんでもない親不孝をしている』
自分でも分かっている。分かっているが抜け出せない…いや、何に囚われこうなっているのか、もはや分からなくなっているのだ。
我ながら重症に思うこの心は、悪い方にしかイマジネーションを掻き立てられなくなってしまった。
『もう手遅れ』
『今さら頑張ったところで』
『もっとひどい目にあう』
『親だって本当は見限ってる』
『どうせ誰も分かってくれない』
『──全部リセット出来たなら』
こんな何の変哲もない押し入れに超常現象をもたらした『何か』はきっと──こんな虚しい妄想をやめない自分に手を差し伸べてくれた…。
どうしようもなくそう思いたかった『臼居忍』はこうして、たいした抵抗感もなくチュートリアルダンジョンへの階段を下りたのである。
そこで七つの試練を受け、普段にない集中力を発揮して、それなりのステータスも獲得して、その結果思いがけない称号とおそらくはレアであろうジョブまで獲得し、その頃には『外への恐怖』はいくらか薄れ。
──さあ、時間潰しに散々読み漁ったファンタジー小説と同じ展開。それなら当然、外の世界だって変わってるはず。
──もしそうなってるなら今度こそ、失敗しない。良いスタートダッシュを切ってやる。
──もし変わってないならそれはそれでかまわない。この力を使って復讐してやるのだ。
──そうだ…そしてまた…誇れる自分を…
…この時。
今までずっと、自分を心底から心配しつつ見守り続けてくれた親の事など、全く考えていなかった。
──ょし、これで、いいかな」
リュックに思い付く限りのサバイバル道具を詰め込んだ。武器代わりに金属バットも片手に持った。さあ、ドアノブ、、ひねる。遂に、外へ──しかし。
こうして感慨深くスタートしようとすれば、早速だ。出鼻を挫かれた。
開けようにもドアが何かにつっかえている。それでも構わずステータスに任せて無理矢理開く…と同時──ド、ドサ、びちゃっ
──何だろう?
重くて、柔らかいものが…倒れた?それも、湿った音を立てて…。
とても、とても不吉な音だった。
だからすぐに分かった。
──見てはいけない。見て良いものでは絶対ない。
そう思いながらもなけなしの勇気を振り絞る。ドア影から恐る恐る顔を覗かせて見れば、そこには──
──父と母。
倒れていた。
血の海に沈むようにして。
まみれていた。
おそらくは、自らが流した血に。
おそらくは、こと切れて…。
それぞれの目は見開れている。
父はゴルフクラブを持っていた。
普段見ない厳しい顔…多分怒ったらこんな顔になるんだろうなと想像するも決して見せなかった顔できっとこれは…何かを覚悟した顔で…。
母も文化包丁を両手で握っていた。
我が子がこんな事になっても決して絶やさなかった笑顔を消していて、それはやはり見た事のない顔でやはり……何かを覚悟した顔で…。
嫌でも分かった。
きっと…この部屋を守ったのだと。
守ってくれたのだと。
いや、ずっと、今まで、、
守って、くれていた──こんな自分を。
傷付き、閉じこもり、罵詈雑言を垂れ流してきたこんな自分を。
二人がこうなる事も想像せず、嬉々として試練に没頭していたあの間も。
何とか我が子を救い出そうとした。ドアを見れば乱打した形跡があるから間違いない。
呼んでも応答がないので無理矢理こじ開け救い出そうとした…してくれたのだ…そうこうしている内に、
「けひゃ、」
「ぎびゃひゃ」
…こ の、、小鬼、、、コイツら、に?
「…殺され、たの? 父さ… 母さ──
──ょし、これで いいの…かな…」
あまりにも唐突に目の当たりにしたあまりの光景に現実味を感じられないまま、何を感じ、何を思い、何をしたのか、全てが曖昧なまま。
…気付けば庭にいて、穴を埋めていた。
(えっと……この下に…父さんと母さんが…眠ってる んだっけ… これ、現実……なの かな…?)
そうやって辛うじて、薄く思い出せはしたものの何故か、涙は出なかった。
そして街を彷徨った。
何を探してるのか分からないまま。いや、きっと救いを求めての事なのだろうが、そもそもとしてどうなれば救われるのかも分からない。
取り敢えず頼りになりそうな誰かを探した。探して見つけた気になっても、どうコミュニケーションを取ればいいのか、
(…分かんないよ…)
そう、何もかも。
生きてていいのか、それすらも。
それに人々はみな尖っているか、焦っているか、荒んでいるか、狂っているか…または、死んでいるか。
とてもじゃないがどの人も声を掛けられる状態になかった。
そのままどうしていいか分からず数日もの間さ迷い続けたが結局、家に帰るしかなくなり…そんな時に目にしたのが…
近所のこじんまりとした手芸雑貨専門店のシャッターをガンガンとノックする男と、それを呆れながら見守る、小柄な少女──
・
・
・
・
──平均次視点
「なんてこった…」
散々に笑われてしまったあの後、今度こそ本当の目的地にたどり着いた俺達だったが。
そこへ突入する前に取り敢えず様子を確かめようとビルの屋上へと登って見たものは…
テント状の何がに完全に覆われた『赤月市中央警察署』。
その何かとは屋上に陣取る『巨大な蜘蛛』がその屋上を頂点に放射状に張り巡らせた蜘蛛の糸。
(…いや、これは前世でも見た景色だ)
つまりは想定の内。
なので今さら怯んだりはしない。
ここをこそ正念場としたのは伊達じゃない。
なのにこうして困惑しているのは、その警察署だったものを取り囲むモンスター達の数が、前世の数倍にも達していたからだった。
(なんでこんなに…とんでもない数だ…前世じゃこんなには──くそ、大蜘蛛夫婦め、ちゃんと仕事しろよっ)
と睨み付けた先は署の屋上。そこから糸を吐いたりその糸に勢いよくぶら下がっては眼下のモンスター達を蹴散らしていくボスモンスター…といってもあれは、ダンジョンボスではない。
『フィールドボス』だ。
前世、ダンジョンによって創造された訳でなく、そのダンジョンが振り撒いた魔力の影響でモンスター化した動植物達は『魔物』と呼ばれていた。
その中でもダンジョンボスをも越える凶悪な進化を遂げた魔物を、ゲームに因んで『フィールドボス』と呼んでいた。
その中で最も有名だったのが、あの巨大蜘蛛だった。何故ならこの『赤月市中央警察署籠城事件』が赤月市に与えたダメージが、あまりに深刻だったからなんだけど…
「どういう事だ?なんで一体しかいない?」
そうだ。一体じゃ足りない。ただでさえ厄介なフィールドボス。それが番いでいたから、つまりは二体揃っての凶悪さを畏怖して付いた二つ名、それが
(『モンスターペアレンツ』のはずだろ?)
なのに何故一体しかいない?
もう一体はどこに?
ともかく、これで分かった。この警察署に群がるモンスターの数が大幅に増量している理由が。
それは単純にモンスターペアレンツの片割れが参戦してないからだ。
だから殲滅効率が落ちて群がるモンスター達をこんなにのさばらせている。
前世では二体揃ってのコンビネーションで超高効率の殲滅速度を誇っていたからな。それが半減すればこうなってもおかしくはない。しかし…
「…いくらなんでも多すぎるだろ…」
ああそうそう、ここに来た俺達がこれから何をするつもりかと言えば。
まず悪辣な罠として張り巡らされたあの蜘蛛の巣の中を掻い潜り、警察署内部に侵入。
次に、署内に閉じ込められていた未覚醒者達を全員を救出。
さらには、ここにいるモンスター群を殲滅。
(──するまでがセット…だってのに…)
そうだ。これだけで至難も至難。…であるのに、あれほどの群れを突破する、なんて前提が追加されてしまっては…。
(いや、俺一人ならなんとか──でも)
ここで心配となるのは当然、大家さんだ。彼女を守りながら征くのはさすがに無理…なら、この屋上で待っていてもらうしかない。そんな俺の躊躇いを見透かしたのか、
「…またその悲壮?…いい加減守られてばかりじゃない。だって、ほら──」
言いながら、大家さんは俺に向けて手をかざして──魔力を放出した?──って、これは魔法か?つか、
「え?今、何の魔法を…」
そう俺が言い終える前、
「打ち合わせなら散々した。後はやるだけ──」
大屋さんは言いながら、、、ビルから…
…え?
「────ちょ…っ!」
ととと!!
飛び降りたぁあああっ!?
「っちょおおおおおおおっ!」
当然!俺も!追随したっ!
自由落下してゆく大家さん!
ビル壁にゴリンバリンと足跡を残す俺!
真下へ向かって何度も何度も踏み込んで加速、からの──ぬおおおおッ加速、加速ッ、加速ッッ!
届け…っ届──くか──
よし!大家さん!無事キャッチ!
つか!
一体全体、なにしてくれちゃってんのこの恋人おおおおお!?
ステータスがあって【MPシールド】あるから、割りと都会でまだ異界化の進行も遅めなここならビルから飛び降りても受け身さえしっかりすれば死にはしないッ、けども!
真下にはモンスターがこれでもかってひしめき合って…ああもおーっ!
「こうなったら、、やりますよ!」
「んっ、やるっ、一緒にっ」
いい返事だなちくしょうっ!
「つか!やるしかなくなりましたっ!つかホントにやれますかッ!?」
いや、やれなきゃ困るぞ飛び降りといて!やれないって言うならもうあれだ!お尻ペンペンしてやる!絶対にだっ!
「勿論。背中は任せて♪」
とか言って。偶然お姫様抱っこになったこの状態にご機嫌かよ!大家さんは俺の首に腕を回してモギゅっと…いやホントに分かってんのかなこのひとはっっ??
「っとに~~~~ぁぁあああもうっ!ホントにッ!」
かなわねぇなっ!!
そしてかわええなっ!!!
じゃ、ねぇからな俺ッ!!
「という訳で邪魔だああああああぁぁああああっっ!!!!」
と、
半ば八つ当たり的にどやしつけた相手は進化種であろう巨体を誇るモンスターッ!
それに向け、あえて【剛斬魔攻】の出力を落として無理矢理!
一刀ッ両断ッ、
したのをブレーキ代わり──ドォオオオンッッッ!
「ふぅぅぅうううううう──~~…」
着地、成功。
その衝撃で割れたアスファルト塊が順に浮いては沈んでゆく。
波打って原位置におさまったその律動に合わせるように。
急激に高まる魔力循環と心拍数。超常的に促進される血流。
それらがあり得ない域まで体温上昇させる。口からはバハァッッと白い蒸気が溢れだす。
エフェクトとしては『ばえる』蒸気だったが、視界としては邪魔。
なので目をしかめながら!見た目自分史上最っっ高にイキり倒しながらっ!俺はぁあっっっ!
…そっと。
大家さんを地面に下ろした。
そして問うた。今一度。
「…ついて…きて、くれますか…?」
「…ん!」
それを確認するやっ、
「~~もおおおお!!じゃぁ、いきますよおっ!!」
と、一度割れたアスファルトをもう一度──ドゴムッッ!
蹴り砕きながらロケットスタートッッ!
「ん!!」
と、空気膜を突き破る俺のすぐ後方、スリップストリーム状態で追ってくる大家さん!
それを確認しながらっ!
「おぃ分かってるな無垢朗太っ!」
と、相棒を呼ぶ!
連携方針の急遽テコ入れを申請する!
『むう、約束と全く違うがこうなれば致し方なし!ドンとイケ相棒おおおおお!』
了承を得た。それも確認しながらっ!
「っら!どッッけえええええええええああああっ!!!」
直近二体のモンスター!その首をまとめてっ──ドドンッッ!
斬って打って爆ぜ飛ばすっ!
二つの首が上空高く飛んでゆく。頭部を失くしたその二体から景気良く立ちのぼる血柱がっ!
これは、
従来のそれとは違う意味で馬鹿ップルな俺達のお披露目、もといデビュー戦っ、その開幕を派手に知らしめす赤い狼煙ッッッ、
つまりは…さぁっ、さぁさあっっ、
さあさあさあッッ!!
「始まりだッッ!いつもの死闘のっ!!こんちくしょうっ!!!」
…つか、
大家さん?さっき発動した魔法は何だったんですかね?なんか変なテンションが止まんないんですが?
======馬鹿ッブルステータス======
名前 平均次
種族 界命体
界命力 525/525
MP 13660/13660
《基礎魔力》
攻(M)530
防(F)109
知(S)232
精(G)33
速(神)622
技(神)514
運 ー0.9
《スキル》
【MPシールドLV11】【MP変換LVー】【暗算LV9】【機械操作LV3】【語学力LV7→9】【大解析LV8】
【剛斬魔攻LV3】【貫通魔攻LV2】【重撃魔攻LV4】【双滅魔攻LV2】
【韋駄天LV8】【魔力分身LV4】
【螺旋LV4】【震脚LV4】【チャージLV3】【超剛筋LV4】
【痛覚大耐性LV9】【負荷大耐性LV5】【疲労大耐性LV4】【精神超耐性LV3】【雷耐性LV4】【毒耐性LV4】【麻痺耐性LV2】【刺突耐性LV1】【火炎耐性LV1】
【平行感覚LV8】【視野拡張LV9】
【虚無双LVー】【界体進初LVー】【吸収LVー】【界命体質LV2】【封物庫LVー】【巨充区LV1】
《称号》
『魔神の器』『英断者』『最速者』『武芸者』『神知者』『強敵』
《装備》
『鬼怒守家の木刀・太刀型』
『鬼怒守家の木刀・脇差型』
《重要アイテム》
『ムカデの脚』
『阿修羅丸の魔骸』
=========================
名前 大家香澄
ジョブ 座敷女将LV30
MP 7777/7777
《基礎魔力》
攻(B)209
防(B)209
知(SS)311
精(M)350
速(A)243
技(A)243
運 99
《スキル》
【MPシールドLV7】【MP変換LVー】【暗算LV6】【機械操作LV6】【語学力LV6】【鑑定LV7】
【斬撃魔攻LV9】【刺突魔攻LV8】【打撃魔攻LV9】【衝撃魔攻LV9】
【加速LV9】【身大強化LV1】【クリティカルダメージ増加LV5】
【魔食耐性LV1】【強免疫LV1】【強排泄LV1】【強臓LV1】
【負荷耐性LV3】【疲労耐性LV3】【精神耐性LV1】
【魔力練生LV7】【運属性魔法LV6】
《称号》
『魔王の器』『運命の子』『武芸者』『神知者』『凶気の沙汰』『座敷御子の加護』『ジャイアントキリング』『進化種の敵』
《装備》
『今は無銘の小太刀』
=========================




