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77 【界体進初】を検証する。前編



『魔食材の吸収を確認。


①既存スキルの強化。  

②内界の拡張。

③内界の充実。


以上から強化先を選んで下さい。』


 選択肢が追加されていた。


 というか、


「…おいおい、今後は魔食材を【吸収】すれば、スキルを強化出来る…そーゆーことなのか?それって凄すぎないか?」

『何を今さら…』

 

 ああそういえば、そうだつたな。


 界命体になったショックが大きすぎて忘れそうになるけど、【界命体質】はゴブリンのキ○タマを【吸収】して取得したんじゃないか?とか、無垢朗太が言ってたわ。


 

「…ホント色んな意味でとんどもねーな、このスキル。いやともかく」



 これは見過ごせないと俺は、①の『既存スキルの強化』を迷わず選択──



「あれ?反応ないぞなんでだ?おーい、選択しましたよー?」



『……約束の、拡張は?』


「う、そうだった…」


 コイツの同意がなきゃ、選択出来ないんだった。


「んー!」


 なんだよくそー、すげーしてーよスキルの強化ー。でも約束は約束かー。


「ああもう!ホントっ、面倒な仕様だなコレ!」


 く、いや、冷静になれ俺。キン○マはまだあるっ。


「でもなー!く…っ、か、かく、拡ちょ…くそっ!言いたくねぇー」



『個体名平均次と無垢朗太、両名の希望が一致した事を確認。『②内界の拡張』を実行します。』



『ぬっふっふっ、口では何だかんだ抗っても魂は正直であったなぁ、ええ?相棒よ?』


「く、やめろ!その昭和のエロ劇画でありそうなオッサン口調!──で?どうなったんだよ、お前の部屋は?」


『うむ、残念ながら部屋は増えなんだな。いや、元々あった部屋は広くなったようだが。』


「そうか。広くなって何よりだ……俺の武器庫が」


『いやここは我の部屋ぞ…ってオヌシ謀ったなぁっ!?』


「いやそんなおふざけで逃げようったってそうはいかねぇから。ほら次の魔食材を切り取れよ相棒」


『ぐううう…もう嫌ああああ』


 と泣きべそかきながらだったが無垢朗太はゴブリンハードコアジェネラルの死骸を取り出してアレを切り取ってくれた。


 どうせやらなきゃならないならと、ジェネラルの中で一番重い死骸を先にやっつけたのだろうが…さすが相棒。察しがいいな。


 だってまだまだあるからな。切るべき玉は。



『魔食材の吸収を確認。


①既存スキルの強化。  

②内界の拡張。

③内界の充実。


以上から強化先を選んで下さい。』



 ここで選ぶのは今度こそ、①の『既存スキルの強化』で、俺は早速ステータスを確認した…んだけど、


 あれ?


「どのスキルもレベルが上がってないぞ?なんでだ?」


 ステータスには何の変化もなかった。いや、もしかしたらこれは…


 

「無垢朗太…もうひと玉切り取っ…」


『あーもう分かっておったわ!言われずとも切り取っておる!次いでに我の心も一部切り取られたような気がしてならんがッ【吸収】!これでよいかッ?』


 う、うん、さすがは相棒。



『魔食材の吸収を確認。


①既存スキルの強化。  

②内界の拡張。

③内界の充実。


 以上から強化先を選んで下さい。』

 


 俺はすかさず放心状態の無垢朗太を丸め込むようにして①を選択。そしてステータスを確認すると…



「おおお、【界命体質】が、LV2に…」



 これは、複数の魔食材を吸収した事で『成長するための水準にやっと達した』…そういう事か?


 つまり、さっきはその水準に達しなかった。だからスキルレベルが上がらなかった。そういう事なのだろうか。


 でも、数あるスキルの中でこのスキルが選ばれたのは…いや、それについては察しがつくな。


 つまり、こういう事なのだろう。


 前回の選択肢に『既存スキルの強化』がなかったのは、『界命力』を使って発動するスキル(※今後は界命スキルと呼ぶ)を、あの時点の俺が所持していなかったからだ。


 でも今は『新たなステータス値の獲得』によって界命力が使えるようになり、その派生で界命スキルである【界命体質】も取得している。


 だから『既存スキルの強化』って項目に変わった…いや、正確には『既存の界命スキルの強化』か。


 それに、あの時は下位もしくは中位の進化種とはいえ、吸収した魔食材もそれなりに高級だった。しかも大量に【吸収】した。


「それであまり余って【界命体質】も獲得出来た、って事なら…」


 今後も強い魔食材を、それも大量に【吸収】すれば?


 界命スキルが強化されるだけじゃない。


 新たな界命スキルを取得出来るかもしれない。


「謎が多いスキルだと思ってたけど…なんか…凄まじいな【界体進初】──いや」


 俺は、言いかけた言葉を飲み込んだ。そのまま思考も止めようとした。なのに──



『うむ…言いたい事なら分かるぞ』



 無垢朗太が許してくれなかった。少しは空気読めよ相棒…。



『ここまでで分かった事は…人間だったお前が、我だけに留まらずいまや、一つの世界を存在の内にしてしまった事と、その世界は拡張が可能である事。

 もしスキルまで創造しうるとなればこのスキル…凄まじいにも程がある…なるほど…【界体進初】というスキル名は…言い得て妙よ』


「それってどういう──」


 よせ。聞き返すな俺。


『おそらくこのスキル名は…世界を己が内としてしまったオヌシにしか辿れぬ進化、それを言い表しておるのではないか?』


「俺だけの進化──」


『つまり、どんな存在も辿った事のない進化を拓き続けるというスキル──我は、そう思えてならぬ。そしてそれは当然として、人の身には畏れ多い事……だから人を辞め、界命体という種族になる必要があったのだろう』


 ──やっぱ聞くんじゃなかった。聞いた瞬間、何かが俺を蝕んでゆく様を連想してしてしまった。その連想に俺は……ブルルと震えて、



「おいおい…こええな…」


 なんて強がっても、これを言うのが精一杯。



『うむ。恐ろしい…だが、そう考えるとオヌシと我が出会った事も、それがオヌシと我が、前世で不本意な邂逅をした事も、オヌシが回帰した事も、我がオヌシに倒されながらオヌシを助けようとした事も、そのためにダンジョンコアまで使い、そんな数奇なる因果を経てオヌシが『界命体』へ種族を変える必要に迫られた事も…。…全て、納得出来るのだ』



 だから、やめろ、もう。



「どういう事だ?お前、何に気付い──」


 だから、聞くな──




『…これは、まさしくの運命であった』




「運命──」




 ──聞いちまった……何より思い当たりたくなかった言葉を。



『そう…運命だ。もはや逃れられぬ。受け入れるしかない』



 やめろ、もういいからやめろ、



『そしてこれからも。受け止め続けるしかない』



 やめろってっ!



『それは心に心してやっと、という道よ』



 …分かってる。こいつに悪気はない。真に俺を慮って言っている。


 それが分かっていて、それでも憎くすら思えてくる。


 そんな気持ちを誤魔化すように、


「は…は、さすが、『二周目知識チート』…予測不能もここまで極まるとマジ、大したもんだぜくそったれ…」


 言えたのはこれだけ。中でも一番言いたかったのは『くそったれ』の部分だ。だって、



(俺は…やっと……大家さんと…)




 思いながら。


 魔食によって苦しむ大家さんの寝顔を見つめた。


 それは慈しむではなく、すがるように。


 この人こそ、どんな苦難も一緒に乗り越えてくれる。そう約束してくれた初めての恋人。


 でも、何より…それこそ世界なんかより。大事なこの人を俺は…『とんでもない何か』に巻き込もうとしている──その重大さを今さらになって再認識してしまった。


 だからへし折れそうになってる。どっかへいなくなろうって、また思い始めてる。だから、



 握ってみた。

 彼女の手を。



 こんな俺を繋ぎとめて欲しい、そんな懇願を、情けなくも込めて。


 すると大家さんは眠りの中でうなされながら、それでも。


 



 強く、握り返してくれた。





 なんか大袈裟だけどな。出そうになったわ。涙が。まぁ出さなかったけど。


 何故ならそんな段階ではなくなってるからな。


 俺はコミュ障で、湿っぽくなる時はいつも独りを選んできた。だからこういう時にどうすればいいかが分からない。


 だから、気が済むまで悩んで落ち込む。それぐらいしかやってこなかった。


 そのはずなのに……この人と一緒だと、違うようだ。



 湿っぽいのも、重苦しいのも、逃げたしたいのも吹っ飛んで、


 『どんとコイ』って気持ちになる。


「どこから湧いてんだこの勇気…でも…そうだな」



 ──どんと、コイ──



『…すまぬ。脅すつもりではなかった』



 思い詰めた心が遅れて伝わったのか。今頃になって謝ってくる無垢朗太。



『だが、今、ここで。一刻も早く心に刻み、今まで以上の理解をもって…進まねば。どんなものに足をすくわれるか…いや、どこを食らわれるかどこで飲み込まれるか、分かったものではない…我の本能がそう告げておるのだ』



 ああ。こんな俺だが、お前に悪気がない事くらいは分かってるさ。なんせ魂を共有してんだからな。…でも、



「だから?」



 そうだ。だからなんだってんだ。



『え?…いや…だから、すまぬと…』


「違くて。怒ってんじゃなくて。何を怯んでんだって言ってんだ。俺の相棒とあろうもんが」


 俺は捻り出すぞ?


 涙とは裏腹の言葉を。


 『どんとコイ』


「よし、こうなったらとことん検証すっぞ。心配すんな。確かに恐ろしいけど所詮のスキル風情だ」


 そうだ、どんとコイだ。


「心配すんな。コイツはちゃんと飼い慣らす。今まで通りだ。お前と一緒にのうのうと生きてやる」


 無理でも何でも関係ない。このまま飲まれるよりずっとマシだ。



『…ふ…オヌシはやはり、面白いな』


 ああ、そうだろ?


「訳分かんないよな。だから無理矢理でいい。お前もこうなれ。俺の内界専属マスターだろ?」


『うむ分かった。どんとコイである!しかし…』


「なんだ?」


『香澄と言ったか…その娘…オヌシはまこと…良い伴侶を得たな。何度感動させれば気が済むのか…いい加減にして欲しいものである』


 いや、いきなり…ずいぶんなことぶっ込んでくんなコイツも…でも今この瞬間は『どんとコイ』だ。


「だろっ?」


 …なんて。


 臆面もなく言った自分を、後で恥ずく思い出すんだろうけど。



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