76 おはなしたくさん。
あの後、初めての魔食を経験した大家さんはやはりの魔ショックに見舞われた。そこで寝てしまえば楽になる…となればいいのだが、そうもいかないのが魔ショックだ。
なので俺は、苦しみ横たわる大家さんの横で横向きに添い寝する形でいた。…すると、
「そう言えば、、均次 くん」
「はい」
「私 の家には、どうやって来た、の?」
「え?それはもう全力で走って…」
「そうじゃ なくて…モンスターがいたのに……なのに、あの時の均次くん『攻』魔力、なかった…なのにどうやって?」
「それは、えっと、『知』魔力と『速』魔力の相乗効果使って…あとは──」
どうやってゴブリンを倒したか話したら、案の定だ。
「もう…あぶない、そんなの。やめてね?」
怒られてしまった。
「ムカデはどうだった の?」
「ムカデは───ていう感じです」
「またそんな…もう!」
また怒られてしまった。
「もしかして、鬼怒恵村で、才子ちゃんにもそんな無茶、させた ?」
「いやいやそんな…才子には何もさせませんでしたよ。無茶の類いは全部俺が引き受けて──」
「それって、どんな無茶?」
「う、いや、ちゃんと常識の範疇に収まった無茶、です」
「…嘘。 分かる。均次くんのは」
ぐ、敵わないな。しょうがない。俺はスキル強化のためにどのようにして負荷をかけていったかも詳しく話した。するとやっぱりだ。
「もう、もうっ、やっぱりしっかり、無茶してるっ!」
怒られてしまった。つか、これ以上はやぶ蛇になりそうだ。
「あの、大家さん?もう寝た方が──」
「ダメッ、次が本命」
「え?」
「均次くん、あの時、鬼怒村で、一人になった、あの時、何をした、の?」
「いや、それは…やらなきゃいけない事とか…色々、あって…」
「色々って、どんな色々?どんな色々があったら………し、……………」
やめてー(泣)沈黙なのか間なのかわかんないけどそれやめてー(泣)と、堪らなくなった俺は
「大家さん?し…なんですか?」
と、聞き直すしかなく。そしてこれも案の定、
「どんな、無茶して…死んだ の?」
…やっぱり。ずっと根に持ってたんだな──いや、そりゃ持つわ。それが普通だ。そう思った俺は答えた。
「それは…ヌエのやつにボコられて…」
「それも、嘘」
「ええー?いや、これはホントですってばっ!」
「じゃあ、なんで、公民館では、一撃で倒せたの?ヌエは強いけど。均次くんを、殺せるほどじゃ、ない。それほどある。実力差」
「いや、でも、本当だし、、、」
「じゃあ、ヌエに殺られる前、だったんだね。無茶をしたのは。それで、弱ってた、ところを、ヌエに──ねぇ何をしてた の?どんな無茶を したの?」
「ぐ。あー、えっと、、、そのー」
「…話して」
…大家さん鋭い、流石大家さんだ。そしてこれは…どうも逃げられそうにない。
観念した俺は、あの餓鬼ダンジョンでどのような死闘を演じたのか、なるべくボカそうとしながら、
その度に追及されてまた観念したりしながら、結局の白状をする事にしたのだった。
「まず、ダンジョンの中に閉じ込められてしまいまして、そこでは無数の餓鬼に囲まれて──」
「えええ?…その段階で既にダメ」
「いや、ここらへんはまだ、全然大丈夫でしたよ?」
「『ここらへんはまだ』?なるほど…続き聞かせて」
「ぐう…(やぶ蛇だったかーーー!)」
「ほら、早く」
「く、分かりました…。えっと───って感じになって…それでやっと、餓鬼大将まで進化させられたんですけど。そいつも───」
「───ねーむど?って、何?」
「あー、ネームドっていうのは───」
「───は?…それって戦えば死ぬやつ だよね?普通は」
「ああ、はい、ですね…普通は、その、そうです」
「…く……まあ いい、ひとまずは。それで?」
「え?はい、それで、俺も男だし、負けるわけにいかない!ってなって、それで───」
「───そう…死闘に便乗してスキルを鍛えた…なるほど。それは、凄い決断」
「いや、はい、ありがとうございます。実際、ホント上手くいった…そう思ったんですよね…あの時は」
「え、どゆ、事?」
「いや負けちゃったんですよ結局のとこ。俺もめっちゃ強化されてたから絶対勝てる!そう思ったんですけど。紙一重でやられちゃいました」
「いやいやいや、え?」
「ああ、大丈夫ですよほら、今もこうしてちゃんと生きて──」
「じゃ、ないっ!…う、いや、いい。まずは、全部聞く。その、阿修羅 まる?とは…その後どうなったの?」
「その後は────ってなって───ていう感じで助けてくれて…で、その後すぐ死んじゃいました。阿修羅丸」
「いやいやいや、え?いや、意味。ホントわかんない。鬼なの均次くん?」
「…え? なんでそんな…あ! いやいやいや!阿修羅丸を殺したのは俺じゃなくて!『鬼』のやつが不意討ちで──」
「──そんな…すごくひどい…阿修羅まる…可哀想」
「ええ。俺もあったま来て。でも、この『鬼』がまた反則レベルで強いやつで…つか、ホント存在自体が反則で。なんせ──」
「───えええ?なんで勝てたの、そんなのに」
「いや、スキル獲得がギリギリで間に合って。だから俺も『鬼』に向かっていけて───」
「───いや間に合ってないよねそれ?効いてないよ【心撃】?」
「いやここからなんですここから。そこからの俺は、何とか合成システムを引き当てようと───」
「───ん、結論。」
「え?」
「死んでた。【コムソー】なかったら死んでた均次くん」
「う、」
「てゆーか【そうめつ魔攻】?が弱かったら、そこでも死んでた。…だよね?」
「ぐ、」
「ホント、、もうっ!、、いつもいつも、、ッ!」
「あの、大家さん?」
「心配ばっかり…ダメ、均 次 く──」
「 ……… 」
「…大家さん?」
「 …すー …すー」
「大家さ……寝た…みたい、だな…」
その寝顔をしばらく堪能した後、俺も寝ようとしたが、寝られなかった。
確かに俺も同じ魔食料理を食べたが苦悶はない。今のところ何の変化も感じられていない──いや、だからこそ、眠れない。
【界命体質】の影響で『魔食による成長』が出来なくなってしまった事は分かっていた。
いたんだが…でもなー、レベルアップ無効にされて、やっと魔食を重ねてのステータス成長が馴染んだと思ってきたところでこれはなー。今後どうやって成長すればいいのか不安で仕方がなくて、だから眠れなくなってしまった。
俺は、
大家さんに添い寝して看守りながら…いや目を固く瞑って大量の汗にまみれながら時折歪める彼女の表情があまりに色っぽい事を発見してしまった事に動揺してそれを何とかかんとか鎮めたりしながら。
考えていた。
もう『魔食による肉体と器礎魔力の成長』が出来なくなったのと同じように…他にも出来なくなった事があったりしないか。
「いや、魔食が無理でも、他の何かで強化する事は出来るはずだきっと。まだ俺の理解が足りてないだけで…」
今まで頼ってきた魔食が出来なくなっただけ。
そうだ。『どうすれば成長するのかわからない状態』になっただけで…
「…っていやいや!結構なおおごとじゃねぇかっ」
いや焦ってもダメだ。
事は慎重に進めるべき、
でも思考は簡単に、いや単純に、
その分、深く………そうだ。
どうすれば今後も成長出来るのか、
それを検証すればいいだけだ。
それに、手掛かりならもう得ている。
今は寝られない事もあるし、この状態の大家さんを置いて出かける訳にもいかない。
だから俺は、この場で界命体の性能とやらをもとい生態とやらを、改めて確認する事にした。
まず【封物庫】に保管しているものを何とか自力で取り出せないか試してみた…が、それはやはり出来ないようだ。
次に内界ではあるけど【封物庫】ではない部分。つまり無垢朗太の棲み家となってる部屋から木刀を取り出そうとして──
「うん、これは出来るようだな」
無垢朗太の部屋が居住空間でなく武器庫となった瞬間だった。
『待遇の改善を要求するーっ』
「だーもーわか…っ、…ったく。またなんか【吸収】した時にでも拡張すっから。そしたらまた新しい部屋が出来るかもしんないだろ……あ、そうだ」
自分で言って思い立った。
「これ以上文句聞かされんのも面倒だし無垢朗太、ゴブリンジェネラルの死骸を何でもいいから取り出してくれるか?」
『…えー?面倒なり…』
「じゃあ、いいんだな?『拡張』しなくて」
『え、待てっ、今すぐ取り出してくるゆえっ!』
という訳で取り出されたのがゴブリンソーサラージェネラルの死骸。無垢朗太のやつがこれを選んだのは多分一番軽いからだろう…まあいいけど。面倒…つか、嫌な作業はここからなんだけどな。
「あー、無垢朗太?その死骸から…その、切り取ってくれる?……魔食材」
『え、えーー?それって、金◯を、であるか?嫌だぞ普通に?』
「そっか、じゃぁ諦めるか。せっかく拡張しようと思ったけど残念だなー」
『ホント嫌この相棒!すぐいじめてくるっ!』
「いや俺がやらなきゃなのは重々承知なんだけど。今は大家さんの事をほっとけないだろ?だから頼むわ」
『…ったくもう…ブツブツ………ぁぅ!…うぅえええ…切った…切ってしもうた…これで満足であるか!?』
やっぱりいいやつだ。なんだかんだ言って協力してくれるんだかなら。
「おー有難う。それじゃ、その金◯を【吸収】してくれ」
「わかっておるっ」
やはり内界の中は無垢朗太の管轄か。【吸収】する際も内界の中だと無垢朗太にしか吸収を発動出来ないみたいだ。
ホントに面倒な仕様だな…と思いながら、そろそろ提示されるだろう選択肢を待っていると、
『魔食材の吸収を確認。
①既存スキルの強化。
②内界の拡張。
③内界の充実。
以上から強化先を選んで下さい。』
って言われた。つか、あれ?
「…選択肢が追加されてる」




