70 涙。★
ゴブリンキングとゴブリンハードコアジェネラルを押さえていた俺は、大家さんがゴブリンソードマスタージェネラルを倒した時点でバトンタッチ。
そこからは何もしなかった。なので詳細は省くが。
元々が武の達人で、しかも魔力の扱いにまで慣れていた大家さんが、今の世界のシステムにまで慣れてしまった上、大幅なレベルアップも果たした訳だから。
当然っちゃ当然の結果になった。
ハードコアジェネラルにしろキングにしろ、防御力がかなり高かったからな。何度も攻撃を当てる必要があったし、何度も【運属性魔法】を掛け直す必要があった。
だから結構な時間がかかったが、良い負荷になったんじゃないかな。
「ぐぁぎゃぁあっ!オウナノニ!オデハ、オウニナッタァッ!ナノニ、ナノニゴンナァッッッ!!」
こうして、
『こんな簡単に倒されるなんて酷いっ!』
という切ないニュアンスの断末魔を上げ、伝説級進化種であるゴブリンキングは見た目少女にしか見えない大家さんに敗れ、滑稽かつ非業の最期を迎えたのであった。
「配下がいればお前も強化されて無双出来たんだろうが…残念だったな。その配下の犠牲の上に生まれたのがお前なんだから。その上で生き残った配下まで殺そうとしてんだから──」
やはりこの世は皮肉に溢れて──いや、これは因果応報ってやつなんだけど。前世で見たゴブリンキングの無双ぶりと比べると…
「せつねーな…」
その前世を知る俺としてはこのギャップがなんだか哀しく見えたりもして。
いや、そんなの我ながら馬鹿な考えと思うよ?なので影ながら…いや、その影のいちばーん暗いとこの隅っこの方で?冥福なんて祈ってみようかな…いや本当の本当に気が向いたらの話だけど、なんて思ったりもしたがそんな事よりっ!
今語るべきは大家さんの大金星だっ!
俺の助けがあったとはいえ、彼女はレベル1だというのにダンジョンに潜るという無謀に挑み、しかも襲いかかってきた殆んどが上位進化種だったというのに、その全てを自力で倒し、こうして完全攻略を成し遂げた訳だから。
ステータスだってこうなる。
=========ステータス=========
名前 大家香澄
ジョブ 座敷女将LV8→30
MP 1586/5577→7777
《基礎魔力》
攻(B)77→209
防(B)77→209
知(SS)113→311
精(M)130→350
速(A)89→243
技(A)89→243
運 99
《スキル》
【MPシールドLV4→7】【MP変換LVー】【暗算LV6】【機械操作LV6】【語学力LV6】【鑑定LV7】
【斬撃魔攻LV5→9】【刺突魔攻LV4→8】【打撃魔攻LV5→9】【衝撃魔攻LV5→9】
【加速LV8→9】【身大強化LV1】new!【クリティカルダメージ増加LV1→5】
【負荷耐性LV3】new!【疲労耐性LV3】new!【精神耐性LV1】new!
【魔力練生LV7】【運属性魔法LV2→6】
《称号》
『魔王の器』『運命の子』『武芸者』『神知者』『凶気の沙汰』『座敷御子の加護』『ジャイアントキリング』new!『進化種の敵』new!
《装備》
『今は無銘の小太刀』
=========================
まあ、ゴブリンジェネラルを三体とゴブリンキングを、ほぼ単独で倒したんだからこれでも足りないくらいだ。
(それでも今世現段階でレベル30に到達した人間は、大家さんが初だろうな)
そのお陰でMPの最大値が8000近くまで上がっていて…俺としてはこれが一番嬉しかったりする。
(数値も7777と縁起がいいしな)
なんせ、MPはシールドも兼務していて、魔力覚醒者にとっては守りの要と言えるものだ。
大家さんのスキル構成はMP消費が激しい。つまり戦闘をすればシールドを大きく削る事が前提となる。そんな彼女を連れて歩くのは正直不安に思っていた。
なのでこの増量は必須の成長と思っていた。MPはあってありすぎる事はないしな。
しかしながら俺の信条ではスキルの成長こそを大事としている。
器礎魔力やMPを増やすためのレベルアップなんて、負荷が減ってスキル成長が停滞しやすくなる原因になるので、本来なら敬遠するところだ。
それでも。その信条を曲げてでも。大家さんのレベルアップは急務だった。彼女が俺と共に戦うなら、彼女の生存率を短期間で上げるには、こうするしかなかった。
だから今回に限っては本当に良かった。そう思う事にしている。
次に器礎魔力。成長補正が高ランクで占められる大家さんは、当然として伸びがいい。『運』魔力以外全ての数値が200を越えている。そしてさっきはなんだかんだ言ったけど。
スキルの伸びも素晴らしかった。
まあ強敵ばかり倒させたからな。負荷の少ない無駄なレベルアップではなかったという事だ。
【身体強化】などはレベル10に達して【身大強化】に進化している。今後しばらくはスキルレベルを上げにくくなるだろうから、この段階で進化してくれたのは本当に良かった。
【加速】もついでに進化して欲しかったんだけどな。こちらはレベル9にとどまった。あとひとつで進化したのに。残念。
【クリティカルダメージ増加】も一気にレベル5まで上がっていたのはやはり、このスキルの成長の鍵がクリティカル発生数にあるからだろう。大家さんの近接攻撃は全てクリティカルになる説がいよいよ真実味を帯びてきた。
重ね打ちが難しく、大家さんが課題としていた『魔攻系スキル』も、ゴブリンハードコアジェネラルとゴブリンキングという強敵が最後に粘ってくれたのが効いて、ビックリするぐらい上がっている。
【運属性魔法】のスキルレベルも一気に6まで上がっている。それに伴い『命中率操作』と『回避率操作』『クリティカル率操作』、それぞれ操作可能な増減率が15%から20%に上がったらしい。
さらには『バイオリズム操作』という魔法も追加されて…これも要検証だな。きっと凄い効果に違いない。
ただ意外と大事だったりするコモンスキルの取得が、耐性スキルのみと振るわなかったのは残念だったな。
特に、被弾が殆んどなかったせいで【痛覚耐性】を取得出来なかったのが痛い。痛みってのは動きを阻害していざという時の立ち回りにも影響するからな。あれは何気に命を助ける強スキルだった。
(…まあしょうがないか…これ以上望むのは欲張り過ぎというもんだ)
でも【精神耐性】を取得出来たのはそれを忘れさせるほど意外だった。それは勿論良い意味でだ。
…何故なら、大家さんは魂が限界寸前まで壊れてしまう程の傷を心に負っていた。
それは、並大抵の精神的負荷では負荷と感じられない状態でもあった。
なのでこのスキルは取得出来ないだろうと諦めていたのだ。
なのに取得出来たのは多分、密っちゃんと魂を共有する事で彼女本来の感情を取り戻しつつあるからだろう。
(まさに密っちゃん様々だな)
彼女の加護を受けているからこそ、大家さんは『座敷女将』なんてレアジョブに就けて、【運属性魔法】なんてチートスキルも取得出来て、生存率を上げる事が出来たんだから。
これだけでもう充分凄いのだが、今回の快挙は普通の快挙ではないからな。称号の方もかなり有用なものを授かっていた。その内容は以下の通りだ。
『ジャイアントキリング…連続して格上の敵と戦い、しかもその全てで勝ち抜いた者が授かる称号。この称号を持つ者は、相手がレベル差10以上の格上であった場合、攻撃力が1.2倍、防御力が1.2倍、速度が1.2倍となる』
『進化種の天敵…進化種ばかりを連続して倒した者が得られる称号。この称号を持つ者は、相手が進化種であった場合、攻撃力が1.2倍、防御力が1.2倍、速度が1.2倍となる』
これらも何気に凄い効果だ。何が凄いって、もし運悪く格上のモンスターと遭遇した場合、その殆んどが進化種となるからだ。通常個体で格上なんてモンスターは、今の俺達には『龍種』ぐらいしかいない。
つまり、これら二つの称号が発動する時、その殆んどが同時となる。
しかも攻撃力だけじゃなく防御力と速度まで上げて、その上昇率も1.2倍と高い。というか同時発動だから1.44倍。ほぼ1.5倍じゃないか。
(強過ぎだろ大家さん…)
という訳でここは大いに誉めちぎりたい。ここまで(※あくまで『俺なりに』だったが)スパルタ式でやってたからな。その反動で甘やかしたい欲求が凄い事になってるのだ。
そう思ってたのに…。
「均次くん!!だ、大丈夫っ!?」
「あ、刺されたり焼かれたりしましたけど安心して下さい。大丈夫ですから。新しいスキルが生えたお陰で死ななくなっ──」
と、俺が言い終える前に、
「馬鹿あっ!」
「ぶへぁっ! …えええ…」
なんで殴るんですか大家さん?
「しかもグー!?」
「グーで当然っ!また…また、あんな無茶をしてっ!」
「いやあの場合だとあれが一番効率的に倒せたから──」
「安心してください?新しく覚えたスキルのおかげ?死ななくなった?馬鹿馬鹿しいっ!そんな生き物、存在しないっ!」
「いや大家さん聞いてくださいホント凄いスキルで…あれを使えば短期決戦に持ち込めると思って、あの、その分大家さんの命の危険も減ると思っ──」
「それでもし、死んだら!?意味なんてない!哀しいだけっ!」
「う…っ、」
「私のためにした事なら尚更っ!それにっ、 また 死なせてしまうなら、一緒にいる意味だって、ないっ!」
「それは…」
確かに…そうかもしれない。
(…なんてこった)
喜ばす予定が、怒らせてしまった。いや、もっとひどい。
「馬鹿、馬鹿ぁあっ、」
泣かして…悲しませてしまった。
「大家さ──」
「私、初めて泣けた時、嬉しかった…でも…なんで?もう泣きたくない、そう思ってるのは、なんで?」
「それは──」
「それはきっと、このままだと悲しい時しか……泣く機会がなさそうだから…」
「…あ…」
「折角、せっかく泣けたのに…それが、凄く、すごく嬉しかったのに…っ!次は嬉しい時に泣きたいって、思ったのに!」
「大家さ──」
「でもそれは、均次くんと一緒じゃないと、意味ないっ!なのに!なんでわからないの!?馬鹿あっ!」
「いや、分かってますっ、だって俺も──」
「うるさいっ!分かってないっ!もう、もうっ!」
大家さんは今、感情を制御出来ない状態…無垢朗太はそう言った。彼女がこうなってるのは、それ『も』あるんだろう。
つまりは…それだけじゃない。
彼女が生やすはずもない【精神耐性】を生やしたのはきっと、俺のせいもあったのだ。
つまり俺はまた、やらかしてしまった。
危険に飛び込んで、大家さんの心にまた負担を…それで、こんなに泣かせて…でも俺は…大家さんに、嘘をつきたくない。、
「大家さん、こればっかりは──」
「呆れる…っ、まだ、言う…っ!?」
かといって彼女を哀しませてまで馬鹿正直を貫きたい…とも思ってない。だから、
「『善処する』くらいは言えます…でも、大家さんが… その… ピンチになったら? 俺は また… …します、すみません…」
そうだ。完全に危険をなくす事なんて出来ない。どんな危険だろうがいつだって飛び込む準備がある。この気概を失くす訳にはいかない。
「……でも嫌…こんなの、もう嫌っ!」
「大家さん…」
ゴブリンエリートダンジョンの攻略は大成功のうちに終わったが、肝心な事に、俺は気付けていなかった。
俺達の前に浮上した、新たな問題。
これをどう解決するのか。問題の解決をいつも独りでしていた俺達が、二人だとどう解決するのか。
…試されている。
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