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69 ああ無情。



 大家さんの強化の次いでであるのに、こんな厄介なダンジョンを選んだのは完全討伐するため。


 あの悪夢のごとき軍勢が生まれる前にな。二周目知識チートの使いどころとしても妥当だと思──


「ぅおっと」ガキンッ!


 ちょっと油断し過ぎたか。危うく真っ二つにされるところだった。


 重厚な風音を伴って振るわれたそれは王者の風格にふさわしい大剣。


 …なんだけど、思いのほか軽かった。なめプしてても受け止められるぐらいに。


「それで?今世のお前はどれぐらい強化されてんだ?ずいぶんとヌルい斬撃だったけど」


 こうして、煽る余裕があるくらいにな。


「がグヌヌヌヌヌヌっ」


 キングは答えない。悔しげに唸るだけだ。必死で力を込めてるようだが、こんな細い木刀相手に大剣を押し込めないでいる。つまり、


「全く強化されてない、そうだろ?まあ三体しか配下がいないんじゃしょうがないか」


 俺がさっき『そううまくいくかな』と静観したのは、こうなると分かっていたからだ。


 配下を大量に従えてこそ真価を発揮するキングを生み出すため、その配下とするはずだった眷属達を大量に死なせる本末転倒。



 …意味がないにも程がある。



 さしものエリートダンジョンも俺達への恐怖でテンパったか。


「いや、大家さんの糧にするって見地から見れば大変に意味のある事ではあった。若干申し訳ないけれど」


 キングのチョロさを確認した俺は、大剣を大きく弾き返す。


 そうして両手首を失くして何も出来ずにいるソードマスターから引き離してやった。そしてまた挑発する。


「つかよ、仲間を殺してまでレベルアップしようとするか普通?見苦しい王様だなおい!」


「ウ、ウルザイっ、ジャマ、ズルナッ!オデノ、ハイカダ!コロザゼロぉッ!」


「…って見事な暴君ぶりっ!部下に嫌われる典型っつーか…」


 そう、今のはキングからソードマスターを守ってやったのだ。


 なんでかって言うと、強化の足しにならない上に役立たずとなったソードマスターをキングが経験値にしようとしたからだ。そうくるのは分かってたからな。当然させない。というか、


「馬鹿だな、確かにこいつを殺せばレベルアップできるだろうけど、10やそこらレベルアップしたところで俺に勝てない事ぐらい分かるだろ? 」


 つか、このソードマスターは大家さんの経験値になってもらうんだからな──って、


「ちょっ、大家さん!?」


 ──ガキンっ!


「…え、均次くん、なんで?」


 今度は大家さんの小太刀からソードマスターを守ってやる事に。


 我ながら何してんだって感じだ。


 守られた側のソードマスターも『え?え?なんなのこの人?手首切り落としといて何で守るの?』と、これ以上なくひきつった顔をしている。


「てゆうか。大家さんてば、もうソーサラージェネラルを倒しちゃったんですか?早すぎないですか?」


「私も魔法使ったし、魔攻も成功した だから。」


「なるほど…さすがはチートキャラ」


 魔法を使ったお陰で今度こそ三魔攻の同時発動に成功したのだろう。


 その結果、瞬殺か。相手は格上とはいえ魔法職だから防御力が足りなかったってのもあるんだろうが…やっぱ強いな。大家さん。


「というか、今は格上を倒す機会なんですから、『倒す前には必ず魔法も使って下さい』って俺、何度も言いましたよね?」


「あ…っ、そうだった、ごめんな…さい?」


「もうっ、なぜ疑問系なんですか…」


 俺が使うように言ったのは【運属性魔法】の事だ。


 魔攻スキルにしろ魔法スキルにしろ、俺が阿修羅丸と戦った時を思い出してもらえば分かる通り、相手が格上であればある程、使用時に大きな負荷と認定される。


 つまりはスキルレベルを上げやすい。


 しかし前にも言ったが、格上を倒してしまえばジョブレベルも大幅に上がってしまう。そうして強くなった分、負荷は減ってしまう。


 その後はスキルレベルが上がりにくくなる、というジレンマがある。



 でも、だからこそだ。



 どうせレベルアップが必要で倒さなければならないなら、それこそスキルレベルを上げる機会を逃してはならない。


 ただ弱い相手を大量に倒してレベルアップしてもスキルは育たないしな。それらを踏まえて、俺は強敵を求めてここ、ゴブリンエリートダンジョンにやってきたのだ。


「そう言って念を押しましたよね…え?もしかして今になって思い出しました?大家さん」


「う、ぅ、忘れて ない!ほらっ」


 とか言いながら慌ててソードマスターに【運属性魔法】の『命中率操作』と『回避率操作』を重ね掛けしてるけど。絶対忘れてたな。あれ。



 ──あ。


 そうそう、



 この魔法こそが、俺すらも恐れさせる大家さんチートの根源。その効果は以下の通りとなっている。



『命中率操作…自身と味方、敵にも使える。ただし単体に限定されるが、確実な効果をもたらす。

 その効果とは、かけた相手の命中率を上げる事も下げる事も出来るというもの。その増減率は現在15%』


『回避率操作…自身と味方、敵にも使える。ただし単体に限定されるが、確実な効果をもたらす。

 その効果とは、かけた相手の回避率を上げる事も下げる事も出来るというもの。その増減率は現在15%』



 この説明文だけでは分かりにくいだろうが、どちらも恐ろしい効果だ。


(『確実な効果をもたらす』って部分が特にな…)


 バフはともかく、デバフというものはこちらの『知』魔力の高さと相手の『精』魔力の高さ、及び耐性スキルの有る無し、有るならそのスキルレベルがどこまで高いか、さらにはその時の両者のコンディションまで加味してやっと、成功率が算出される。


 つまり実力と相性とタイミングなど、様々な面で圧倒的優位に立ってないと、中々成功しないものなのだ。


 なのに大家さんの魔法はそんなルールを完全無視。必ず効果を発揮するのだから恐ろしい。


 相手の命中率を下げてこちらの回避率を上げる。相手の回避率を下げてこちらの命中率を上げる。


 そうすれば実質的に、相手の回避率と命中率を30%下げる、もしくはこちらの回避率や命中率を30%上げるのと同等となる。


 これは、掛けた相手の能力を上げたり下げたりする通常のバフやデバフとは全く違う。


 『運』なんて不可避のものを操作した結果として、相手や自分の命中率と回避率を操作している。


 自分や相手の能力を上昇させたり低下させている訳じゃないのだ。命中と回避の『確率』に直接、作用している。


 つまり、どれ程の実力差があっても関係ない。



 対象がどんな強者であろうと弱者であろうと関係ない。『運』という不可避を経由して上記の効果を必ずもたらすのだから。


 どんな敵と相対しようが、この魔法を使えばさっき述べた『命中率と回避率の30%ハンデ』が必ず適用されてしまう。


 それがどれ程恐ろしい効果である事か。


 

 普通なら攻撃をしても当てられない、もしくは攻撃されたら必ず食らってしてしまうような強者が相手であってもアベレージとして3~4回に一回はまぐれ当たりが発生するし、偶然を重ねて回避出来たりするようになる。


 その代わりさっきの【異風堂々】で見たような、心身の齟齬を発生させてその隙を突く、という副次効果は使えない。

 あれは能力に作用するデバフでしか発生しないものだからな…おっと、話が少しそれたな。


 ここまでの説明で大家さんの魔法が如何にチートであるか、分かってもらえたと思うのだが。


 格上のソーサラージェネラルに『命中率操作』と『回避率操作』を重ね掛けしたからだろう。


 【運属性魔法】のスキルレベルが上がって、新たなチート魔法が追加されていた。



『クリティカル率操作……自身、味方、敵にも使える。ただし単体に限定されるが、確実な効果をもたらす。

 その効果とは、かけた相手のクリティカル率を上げる事も下げる事も出来るというもの。その増減率は現在15%』



(えっと…これをかけてもらえばクリティカルなんて夢のまた夢と思ってた俺でも6~7発に一回、クリティカルヒットを出せるようになる、って事か?)


 …いやいや、これもそうだろ。チートと呼ばずして何と呼ぶ?


 この新魔法も自身とソードマスタージェネラル両方に掛けたようだ。

 自分のクリティカル率を上げて、相手のクリティカル率を下げるという感じか。


 うん、効果を狙ってのものじゃない。攻撃出来ないソードマスターんに掛けても意味がないからな『クリティカル率操作』は。

 だからスキルレベルを少しでも上げたくて放った無駄打ち。俺の助言をちゃんと守る大家さんエライ。



(にしても…エグいな…)



 両手首を失くした相手に【異風堂々】で器礎魔力を5%だけとはいえ減衰させ、


 自分には『魔王装身』の装備効果で器礎魔力10%上昇のバフが掛かっている。


 その上で命中率と回避率に30%のハンデを強制するとか。



(うーん、中々の鬼畜プレイ)



 …でも、『技』魔力が足りてないようだ。バフで上がってはいるが10%と少ない上昇だからな。だから、



(…うん、やっぱこうなるよな)



「く…っ、もうっ!待て!」

「ぎ、きひぃっ!」



 魔法使いで接近戦が苦手なソーサラーならともかく、武器を持てなくなったとはいえ接近戦を得意とし、速度と技量に秀でるソードマスタージェネラルが相手だと…うん、結構避けられる。


 大家さんも達人だがレベルが低いからな。こうして苦戦するとは思っていた。


(だからソードでマスター出来ないように手首ちょんぱしてやった訳だけど…ソードマスターもよく避けてるな…)


 俺が想定したより強敵だったみたいだな。さすがはソードマスターと冠するだけある。


 まあ、それでも『いつかは必ず当たる』っていう出鱈目バフが効いてるから。


 上位進化を果たしてゴブリンソードマスタージェネラルとか大袈裟に長ったらしい名前を冠しても攻撃手段を奪われてしまえばな。それでも紙一重で何度も何度も斬擊を避けるのは見事と言わざるを得ないけどな。今となっては…



 どれもこれも虚しい限りだ。


 浅い窪みを踏み外したり、


 小さな出っ張りに妻付いたり、


 自身が垂れ流した血液で足を滑らしたり、


 そんな、普段しないであろう凡ミスを連発して。


 その不可思議に翻弄されつつ何とか挽回しようと普段やらない動きをして。さらにミスを重ねて。


 その度に斬り付けられて。どんどんと体力を消耗させられて。


 傷つくたびにさらに焦ってミスを連発して。


 そんな無限地獄な無様の果て、遂に──



「ぎ、ぎあゃぁああっ!…っ……っ、」



(う、見るなよ、そんな目で)



 ゴブリンソードマスタージェネラル。



 彼の目は語っていた。



『なんで今度は助けてくれなかったの』と。


『つかなんで手首チョンパしといて助けたりしたの?そこからして謎だったんだけど!?』…と。


(いやすまん、南無としか言えん)


 そんな悲壮感たっぷりなシーンに響く大家さんの天使声は、



「ふう、やっと 殺せた」



 うん、無慈悲だったね。


 いやともかく。


 こうして、通常なら決して勝てないはずの能力差をひっくり返し、大家さんは見事ゴブリンエリート二体を屠り、大幅なレベルアップを果たしたのである。









 ──え?『そんな事よりなんでお前は胸を二度も貫かれた上に全身焼かれて死なないのか』って?



 …それについては、また今度。


 





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