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61 均次のいぬ間に。★


 いつも読んでくれてる方々、ありがとうございます。今章最後の回となります。




 場面変わって、鬼怒恵村ではどうなったか。


 平均次と大家香澄がいつの間にかいなくなっていた事には全員が気付いていたが、それを理由に騒ぎ立てる村民はいなかった。


 というかもう既にアンタッチャブルとみなしているのか、なるべく触れないようにしながらここまで話し合われたのは『村の自衛について』だ。


 土地も家族も大事に思う村民はそれを一番に気にしていて…という割には。


 悲壮感もなくソワソワとしており…なんというか浮わついた感が否めない。


(特に男衆…)


 モンスターが出没し、さらにはゲームのようなシステムが現実に実装された事については、ステータスを見た事ですんなり理解できたようだが…。


 50代の中にも若かりし頃に家庭用ゲーム機に触れていた者は意外と多いようで、


「要はドラゴニックエスチョンと一緒だろ」


 とか、


「いやどちらかといえばファイナルファンファーレに近いんじゃ」


 とか、


 活発に意見交換する場面があったが、それ以上の世代となると、ジョブを得るとレベルというものが上げられるようになり、スキルという特殊な技まで覚えられるようになり、その結果超人的な力を行使出来る…なんて話をされてもちんぷんかんぷん。なので場はもっと紛糾する──義介はそう予想していたのだが、


(なるほどの。均次が言った通りになったわい)


 男衆の一部が醸すワクワクというか、フワフワが周りに伝播して全体的に危機感が足りてない。


 あらかじめこうなると予想していた均次を益々頼もしく思う義介なのである。


 しかし実際のところは前世で同じような光景を見ていただけなのであり、つまり均次は予想したのではなく知っていただけ。


 そんな事までは聞かされておらず、知る由もない義介は『こういう事もあるかもしれないから…』と渡されていたメモを取り出し、

 

「均次と香澄の嬢ちゃんは今、皆のために動いておる。なので伝言という形になるが…」


 と、そのメモ通りに伝言を伝えようとしたのだが…──シーン……ッッ…と、均次と香澄の名前が出た途端、静まりかえってしまった。


 大人はもちろん子供まで。何なら犬や猫までも。


 それを見て『魔力が宿った動物は頭が良くなる』と均次は言っていたが


(まさかな…)


 と思いつつ、


「(ご先祖様を一撃で昏倒させたあの姿がいまだ響いておるようじゃの、ならば…)フム。皆も見た通り、平均次というあの若者は…『世界最強』…じゃ。」


 と、義介はまた、予定にないセリフをぶっ込んだ。


 そして世界最強などという荒唐無稽を聞いても静まり返ったままの皆の衆を見渡し、謎に自信を深めたのであった。


 …というのも、この場にいる全員とは言わないが、大多数がこの荒唐無稽を受け止めているようだったからだ。


 『お陰でやり易くなったの』と思う義介は、今度こそメモに書かれた通り告げた。


「その世界最強からの忠告じゃ──ジョブについてはワシの指示に従うこと」


 つまりは、各々で勝手な強化は禁ずる。という内容だった。


「強化にもそれなりに不都合や危険が伴うらしいからの。ゆえに勝手をすれば見せしめも辞さぬぞ。禁を破った者は厳罰に処すつもりじゃ」


 男達には…あった。家族を守らねばという、大義名分が──しかし。


 その影でゲームの主人公のような存在になれ、力というものを思い切り行使出来る、という潜在的欲求があったのは否めない。


 そんな者達にとって、今回の騒動は夢のようなチャンスであり、浮わついていた原因はそこにあったのだ。


 こんな状態では失敗もする。実際に前世では失敗していた。それを未然に防ぐためのこれは、均次なりに苦肉の思いやりでもあった。


 なのにお預けを食らった一部の男衆はといえば案の定、


『ええ!?スタートダッシュが肝心なのにっ!?』とか。


『そんな…っ!最強ビルドがもう頭の中にあるのに!?』とか。


 なんとも香ばしい異を唱え始めたではないか。その殆どが中年層なのが変に微笑ましく思え、謎に興が乗った義介は悪そうな顔をした。


 そして言い放ったのが…これだ。



「ほう?あの『閻魔』に逆らうと言うのか?それは何ともはや……まこと、勇敢なことよの」



「「「閻魔?」」



 不穏過ぎる二つ名だった。そしてそれを聞いた村民達はこれ以上もなく騒ぎ出したが、そこにはもう抗議などない。


 恐怖のみが場を支配しており…つまりは阿鼻叫喚の様相を呈していた。このように──



「おい…その…『閻魔』ってなんだ?…義介さん、あんた一体何を知って──っていうか前から気になってたんだがあんたの仕事ってなんなんだ?……まさかっ!これは、最初から仕組まれていた事で──」


 いやその陰謀論はどの部分から?大人の厨二症状恐るべしである。


「……いや、あの化物退治を見ればこんな横暴も納得がいく。それにあの『暴君義介』がこんな従順に……っ…く!俺達はなんてやつに目を付けられちまったんだっ!」


 …均次が裏世界の住人、しかもボス寄りの存在になった瞬間だった。

  

「しっ!馬鹿か!黙ってろっ!そんな目立ったら──いいか?庇うのはこれが最後だ。だってやっぱり、家族が一番大事なんだからな…すまんふぐぅっ(泣)!」


 えー泣くの?おっさん何を想像してその悲壮感なの?


「そんなおおごとな訳あるか!つい最近まで農家だったわしらがそんなもんに巻き込まれるもの、かょ……っなぁ大丈夫、じゃよな?おい…返事をしておくれ?」


 うんおじいちゃん大丈夫だから。それで正解だから。自信持って?


「私達は…もう…もう…」「ええ。もうこの村の全員が引き返せない所にいる…こうなってしまえば、もう…」


 奥様方まで?いやそんな諦め方やめて下さい。


「ねえ…」「…なに?」

「閻魔『様』って呼ぶべき?」

「そうね、様付け以外は危険と思う」

「そうよね。死にたくないもの」


 だからそんな受け入れ方しないで?


「この場合は…やっぱり差し出した方がいいのかしら?この熟れた身体を…」

「何言ってんだみっともねぇ三段腹してっ!逆に殺されっぞ?」

「ひど…ッ、…もうやってあげませんからねっ!アレ!」

「お、おいお前~そんな怒るなよ~」


 コラそこの熟年夫婦!…は、なんか毛色違うなっ!アレってなに?知りたくないけど気にはなる!というか!そういった話は家でしましょうっ!


「ねぇお母さん、私、食べられちゃう?」

「な…っ!そんなこと…っ!絶対にさせません!そうよそんなこと…でも…──って、お父さんっ?なにか言って下さい!」

「あ?ああ…あっ、ああっ!そりゃ守るさ!絶対に守る!家族は絶対に、俺がっ!だから、だから今は、耐えるんだっ!くぅっ!」

「ふぐ、ふえーーん、おとうさ~ん、おかあさ~ん(号泣)」


 こんな幼な子まで…均次がどんどん血も涙もない感じにっ!?いや容赦のない部分は確かにあるはあるけどもっ!そういう猟奇的なのと違うからっ!


「ナンデ閻魔?閻魔なんで?」

「…?…どうしたの?」

「閻魔ナンデ?なんで閻魔?」

「──って、ホントどうしたのッ?しっかりなさいっ!!」


 うん、もはやこの状態の者には突っ込む気も起きないな──と、そんな感じで取り乱す村民達であったが、その視線は同じ方向を向いていた。


 それは公民館の、『失くなった部分』。


 あれからまだ一時間も経っていない。なので記憶は鮮明なまま。


 皆が皆思い出しているのは、あの怪獣が乱入し、その衝撃でこの公民館の三分の一を消し飛ばしてしまったシーンだった。


 そう、村民にとって均次という若者も規格外過ぎたが、あの怪獣も十分に脅威の存在だった。なんせ体高だけで2m半あるのだ。しかもそんな巨体であり得ない程の敏捷性を備えていた…それなのに。


 そんな怪物の不意打ちを、あの均次という若者は一撃で沈めてしまった──あの動き……速すぎて見えなかったがあまりに自然に…人間とは思えない滑らかさで──と、村民達にとって均次の戦闘力は理解どころか、理の外にあるもので…ゆえに彼らの感情はただの恐怖では不足とした。


 もし、悪魔、もしくはそれに類似する超越的存在が実在するなら?


 これは、そんな存在に向ける恐怖なのであり、超常よりさらに上位の存在に向けるそれ。


 なんというか…原初?の部分を直撃されて乱打されてもはや訳の分からなくなってしまって溢れ出てしまった畏怖…という感じ。いや述べてるこっちも訳分からないけどそんな感じ。


 つまりこの阿鼻叫喚は均次がそこまで徹底的に恐怖されていたとはつゆとも知らない義介が知らぬままにさらなる火をくべた結果だった。


 いわば『やめて!村民のSAN値はもうゼロよっ!?』という状態だった。


 なのにその義介はといえば『思った以上の反応を引き出せて良かったな』くらいにしか思っていない。なので引くどころかさらにと調子に乗って…、 


「ふ…そんな反応となるも無理はない。裏世界では『閻魔』と聞いてあの小僧を連想せん者はおらんのじゃからな。

 つまり…どんな強者も震え上がらす二つ名にして断罪の代名詞…それが『閻魔』。


 …この意味、分かるな?」



 これがとどめとなった。



((((ひいいいいいいいい!!))))



 いや裏世界の事情なんて回帰者の均次だって知らぬところだし断罪って何?つまりこれは当然の嘘なのだが…効果は絶大だったようだ。いやここまでの効果は狙ってなかったんだけども。


 …そう、これは狙ってやった結果、というか狙った以上の結果になってしまった訳であり。


 実はこの…中二の二学期中頃でも敬遠しそうな香ばし設定も何を隠そう、均次本人が考案したものだった。


 そして自分を『閻魔』と呼ぶように義介に頼んだのもなんと、均次本人だったのである。


 頼まれた時はさすがの義介も『はあ?』ってなったし、頼んだ均次本人も『いや俺だって恥ずかしいんよ!?でもシステム的に──』と、赤面し過ぎて若干なまってしまう程だったが。


 その義介も今は、


(ふむ…きっとこれも何かの意図があっての事──)


 と、こんな事をする意味もちゃんと聞いていたのに、もはや均次に全幅の信頼を置き過ぎて今は曖昧に…それどころか。


(我ながら…中々シブい芝居じゃった…)


 と、この香ばし設定の語り部という役どころを『わし、やり遂げた』と、かなり満足気な様子。それを見ていたヌエは


「おいキヌ。あれ。我の子孫。結構にゃ馬鹿にゃんじゃにゃいか?」


 と呆れ過ぎて問わずにおれず。それに返すキヌは


「いいじゃないですか~馬鹿な子ほど可愛いって言いますし~」


 と馬鹿の部分を否定せずに暢気に答え、


「結構いい村?…なのかも…しんねぇな…そう思おう。でも『閻魔』ってナニ?」

「ぅん…うん?うーん……うん。そうね。そうかも。で?『閻魔』って誰?」


 と何をどう思っていいのかわからない造屋兄妹なのであった。


 そしてその頃の『閻魔』こと平均次は、

 

  ・


  ・


  ・


  ・


  ・


「う、ぐ…?なんだ?」


「どうしたの均次くん」


「いや、なんかこう…右目とか右手がやたらと疼いて…誰か噂でもしてんですかね?」


 と、急遽発生した厨二磁場から放たれし厨二電波を傍受して、お約束的厨二部位を無駄に疼かせていたりして。さすがは『閻魔』。そしてその同行者達には、


「…? なんで目と手?」

『この場合くしゃみであろ?』


 とライトな感じに突っ込まれていたとか。

  

 

 …ちなみにヌエの存在についてだが。



 説明を受けた村民によって今は受け入れられている。均次を受け入れた後だったので半ばヤケクソ気味に……であったのだが。



=========ステータス=========



名前 平均次(たいらきんじ)



MP 11660/11660


《基礎魔力》


攻(M)530 

防(F)109 

知(S)232 

精(G)33 

速(神)622 

技(神)514 

運  -0.3


《スキル》


【MPシールドLV11】【MP変換LVー】【暗算LV9】【機械操作LV3】【語学力LV7】【大解析LV7】


【剛斬魔攻LV3】【貫通魔攻LV2】【重撃魔攻LV4】【双滅魔攻LV2】


【韋駄天LV8】【魔力分身LV4】


【螺旋LV4】【震脚LV4】【チャージLV3】【超剛筋LV4】


【痛覚大耐性LV9】【負荷大耐性LV5】【疲労大耐性LV4】【精神超耐性LV3】【雷耐性LV4】【毒耐性LV4】【麻痺耐性LV2】


【平行感覚LV8】【視野拡張LV9】


【虚無双LVー】【界体進初LVー】【吸収LVー】


《称号》


『魔神の器』『英断者』『最速者』『武芸者』『神知者』『強敵』


《装備》


『鬼怒守家の木刀・太刀型』

『鬼怒守家の木刀・脇差型』


《重要アイテム》


『ムカデの脚』


=========================



 

 かなり馬鹿なやり取りを描いた自覚はあります。でもこれも伏線なので。目をつむってやって欲しいです。

 

 さて、今章はこれでおしまい。そして新章からは香澄と均次の絡みがメインとなります。

 つまりは恋愛パートとなる訳ですが、私はグロかったり汚かったりを平気で差し挟む悪癖があるのでご注意を…というか先に謝っておきますスミマセン。


 それでも面白い。続きが読みたい。そう思ってくれた方!下にある☆を押して下さると嬉しいです。物凄く励みになります。作者のメンタル維持のためにも何卒宜しくお願いします。

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