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43 『無』には『無』を。★




 ──ガクン、



 と膝を折りそうになるのを咄嗟に耐えた。


 身体から力という力が抜け落ちてゆくような感覚が…こうなったのは俺と『鬼』を閉じ込めたこの黒の世界が原因なのは明白──いや、


「そ…うか、こ こは…」


 黒いだけのはずがなかった。そんな生易しい相手ではなかった。感じる…ここはヤツの力で埋め尽くされた領域でしかも、なんという事。


「…『無属性』の、魔力領域だと…?」


 そう、ここはおそらく、『無属性』の世界。ここにいるだけで弱体化のデハフが掛かり続け…しかもそれは、心にまで影響するようだった。


 現に今、激しく苛まれている。


『【精神大耐性LV2】に上昇します。』


 前世で刻まれた数々のトラウマが脳裏に次々と再現される。その度に魂レベルで炙られるような感覚が──


『【精神大耐性LV3】に上昇します。』


このままだと自分という存在そのものが消滅してしまいそうな…って、なんだ、それ、なんだ、これ、破滅に向かう連想?…が止まらない!


『【精神大耐性LV4】に上昇します。』


「ぅ、、こ、れは…」


『【精神大耐性LV5】に上昇します。』


 阿修羅丸が使っていた【無属性魔攻】なんて児戯に思える。心も体も、どんどん蝕まれてもはや死にたくさえ…そう、俺は──とても死にたくて──それも今すぐ──理由もないまま──


『【精神大耐性LV6】に上昇します。』


「う!ぐう!く!ぬぁぁあ!ざっっけんなっ!死ねるかよ!でも…くそ、」


『【精神大耐性LV7】に上昇します。』


 前世では色んなデハフを経験した。肉体の弱体化、器礎魔力の弱体化も。幻覚を見せるデハフだって、他にも毒に麻痺、沈黙、盲目、睡眠エトセトラ。


『【精神大耐性LV8】に上昇します。』


 これは…そのどれもを含んで全く違う。ステータスにない『心そのもの』を直接弱らせに──このまま、弱り続けたらどうなる?


『【精神大耐性LV9】に上昇します。』


 …わからない。今まで『これが自分の心』と理解してきたものが、もう別物になりつつあって──


『【精神大耐性LV10】に上昇します。上限到達。【精神極耐性】に進化──』


 どれもこれも、そうなって当然だった。現に【精神大耐性】がレベル10になっても追い付かないほどの精神的負荷なんて──


『エラー。過度の魔力干渉を検知、スキル進化を見送ります』


 それも、スキル進化を妨害するほどとは…しかしそれも納得だった。


 現に心の衰弱は限界を越え、肉体にまで影響を及ぼしている。もはや機能不全なんて通り越し不能の瀬戸際、魔力にも減衰以上の異常を感じる。


 脳内はトラウマが渦巻き、もはや幻視と現視の区別がつかない。それに伴い様々な幻聴が入り乱れ、それらは耳を塞いでも聞こえてくる。


 全身には毒が回ったような痛みを感じ、それすら感覚感情感性の全てが麻痺しゆく過程で有耶無耶となって…なのに深刻さだけが伝わり心を苛む。


 嗚呼、俺は今、絶叫してるのだろうか。それとも沈黙してるのか。そもそも発声する事は出来るのだろうか?


 目だって開けているのか閉じているのか分からない。だがそれを確認する事自体もはや億劫…このまま放置すればどうなってしまうのだろう…その予測不能すらどうでもよくなって…考えること自体が、もう…もう…




 ──ダメだ!




 飲まれるなっ!と言わんばかりにカンストした【精神大耐性】が俺の奥深く、中心座標に楔を打ってくれた。



「今、のは、危なかっ…た…?」



 そのおかげで何とか持ち直せたが…分かる。これはあくまで一時的処置なのだと。


「…デ バフ、は、ゴー…スト系モンスターの十八番、、な、のは知って、た  けど…、ぐ、マジやべぇ、ぇ、え、」


 そうだ。ゴースト系は嫌いだったが戦った事なら当然ある。でもそこで経験したのは大概が『闇属性魔力』の魔法でこんな…『無属性魔力』なんてレアな魔力なんて…


「──ま さか…」


 そうだった、、、普通のゴースト系モンスターが秘める力は大概が『闇属性』だったはず。


 そして、俺が『鬼』と呼ぶコイツは怨霊、ステータス記載は荒魂…つまり正真正銘のゴースト系。日本的鬼とか西洋的オーガとか全くもって関係ない。怨霊になる前が人間だった事だって知ってる。


 なのに、そんなヤツがマスターを務めるこのダンジョンがゴースト系モンスターを生み出さないってのは?


「…そぅだ、か なり、変な、話だ…」


 何故なら、ダンジョンという生物はそのダンジョンを形成する魔力で内部環境を決める。つまりダンジョンマスターとなったアイツの影響だって諸に受けたはず。


 なのに何故、


 このダンジョンにゴースト系がいなかった?何故、餓鬼なんて種族的にも魔力的にも由来のないモンスターを生み出していた?


「ま た?」


 やらかしたのか俺は?

 

「…今になっ

     て分

       かる

     とか…」


 もしかして、いやもしかしないでも、



「…ぐ、

  てめぇが、

  本家

    本元…だったのか?」



 つまり、コイツは生前から……つまりは怨霊化する前から、つまりのつまり、『生前の、人間だった頃から、無属性魔力を使えていた』…そういう事か?いや…間違いない。だからこんな芸当が出来ている。

 

 そんなやつをダンジョンマスターとして、半身として取り込んだこのダンジョンの属性魔力は当然として無属性になった。


「だから、餓鬼 だった ?」


 無属性のダンジョンと成ったから、無属性魔力を秘めるモンスターを生み出すようになった。


 そう考えると、全ての辻褄が、合う。


「く そ、

 そん

  なん、

    あ

     りか」


 どんだけ盛りだくさんなんだこのヴィラン、前世で教えとけそんな重要設定──という俺の心底から振り絞ってやっとの罵倒まで察知したのか。


『ひ、ひひ、どうしたえ?さっきまでの威勢は?』


 『鬼』のやつが煽ってきやがった。


『オヌシはもう……いらん。さっさと逝ね。次があるからの…ホレ、義介といったか…」


 なにを言って…俺は、それをさせないためにここに来て──


「やらっ、

 せるかよっ!

   く ぅぉおおおお!」


『くく、足掻いておるのぅ…冥土の土産に教えてやろぅ…アヤツに憑り付いた後に、我が何をするか……く、くくく、くくくくきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃ──』


 ああくそ…聞いちまった…俺はこの笑い声がとにかく嫌いで──これを聞くと嫌でも思い出す──同じ声で笑い狂う義介さんを──


『はぁぁて、どうしてくれようのぅぅう…』


 ──どうもこうも──前世でもう知ってんだよこっちは──お前が、何をしたか──


『若いおなごはぁ…なるべく、汚ならしく犯すのよ。なるべく多くをの、じっくりとの、狂うまでのぅ、ぉぅぉぅ、夫婦(めおと)であらば男は生かすとしよう、そして存分に見せつけてやろうのぅ…なに、満足すれば殺してやるわぃの』


 ──この──野──郎…


『次は…年寄りを集めようかぇ、それらの目前で幼子の四肢肉を少しずつ千切り取るなんて、どうやぇ?そして生かしておくが哀れと抜かした者に殺させるのよ…ふむぁ、良い余興となりそうじゃぁ…』


 ──あ あ、お 前─


『特に、』


 ──も──なん 

     か──


『オヌシの縁者はの、じっくり、じっくり、じっくりと。何年もかけ苦しめてやろうよ…』


 ──もう─

   ─なんか──


『まずあの兄妹…は、そうよのぅ…どうせ結ばれぬのじゃから、妹はさっさと殺してやるが情けかの。せめて少しでも哀れを誘えるよぅ、想い人であろうあの兄の目の前で…く、くくく、死にもの狂いで追って来ようなあの兄は。良い張り合いとなりそうじゃぁ…』


 ──全てが、

    ──虚しく、

      ──冷えきって…


『あの人形めいた女は特に世話を焼いてやろう。拐う、生かす、犯す、痛めつける、死にたがっても生かす。アレは虐めがいがありそうゆえなぁ…きゃひ──』



 ……………………もう、



『きゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃ』



 ……………もう…



『あひゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃ』



 ……も…ぉ…





 ………





 ……







 ──いい。





「それ、知ってる」


『きゃきゃひゃ──あぇ?』



「だから、知ってるっつの」


『何を言っ──』



 今コイツが言った事は、大家さんのくだりを除けば…前世で見たか、聞いたか、もしくは後になって知った事ばかりだ。


「俺の心を少しでも弱らせたくて言ってんだろ?それ」


 でも、今更だから。

 あと、逆効果だから。


()()()()()


 弱る一方だった心の中、何としてもと灯し続けた火。それが今──



『【精神大耐性】が【精神極耐性】に──オーバーロード──修正──修正無効──【精神超耐性】に超進化。』



 負けてなるかと、しかし風前の灯だった心の灯、それが──



「ハァ…」



 ──消えてくれた。遂に。完全に。


 まるで、それを待ってたかのように。



『この超進化に伴い派生スキル──エラー。──『破壊神』──称号効果発動──深淵スキル──差し替え──急造──強制取得──『破壊神』の称号をシステム変換──  ─── ─── ──……




  【虚無双】  …取得します。




 ── ──…今後─幸運─望めませ──深淵を彷徨う─魂──せめてもの─静謐を──』



 なんか謎の声がヤバそうな発言連発したけど。



「…ま、いっか、」


『ぬぅうううう!!なんじゃその余裕はぁ!どこまでもいらつかすヤツょぁッ!何故じゃ、なぜ苦しまんんッッ』


「自分で煽っといて何だ…反応ないからってイラついてんじゃないよ」


 ホント、耐性ないな。


「つか、殺す殺す言ってたけど殺すつもりなんてなかったろ」


『ぬ…、』


 こんな領域をこしらえたのも、やたら煽って俺の心を掻き乱そうとしたのも俺の心を弱らせるためで、俺を乗っ取るためだったんだろうが……悪いな。


 俺の心はもう、…揺らがない。


 だってもう、慈悲もない。躊躇もない。恐怖もない。憎しみさえだ。


 もうない。まさに『無』となった。


 だってあんな凄惨を、

  こんな鮮明に思い出したらな。


 それがまた、

  再現されると思えばな。


「そりゃ無くなるって。はぁ…見事、なぁんもなくなった」



《《《《コイツを殺す》》》》



 それ以外の全部が今、

 俺の中から抜け落ちた。

 

「MPは…と。んー、これだけか。」


 みんなごめん。後先忘れる。


 この場合どう言えばいいのか。


 最善を尽くしても、死ぬかも。


 倒す事も出来ずに、死ぬかも。


 そうなった後は地獄だろうし。


 だから、これだけ言っておく。



「ごめんなさい」

 


 後はもう、想わない。何も。



《《《《コイツを殺す》》》》



 これ以外は。



『はひゃぁあ…今更謝るとぉ?……ききゃきゃ、とうとう、諦めたんかぃぇえ?』


「いやも。諦めもなにも、な」



 ここは『明らめた』が、正しい。



《《《《コイツを殺す》》》》



「これしかないってな。それだけかな」


 

 今からやる事も謂わば賭け。

 最善かどうかもわからない。

 なのに、狙いが外れたら?

 全てを失くす。

 もう、そんな手しか残っていない。


 だから邪魔だった。


 失敗したらとか。

 死ぬかもとか。

 義介さんがとか、

 才蔵がとか、

 才子がとか、

 もう大家さんに会えないかもとか、

 阿修羅丸に悪いとか、

 こんなの野放しにしたらとか、

 鬼怒恵村の人どうなるんだとか、

 なんでこんな事にとか、

 なんで俺がとか、

 なんでこんな世界に、とか。

 

 そんな、


 今、考えてもしょうがない事。


 それが丁度、

  都合良く、

   


 無くなった。



「じゃぁ、」



 だからの『有り難う』だった。



「今から殺すから」



=========ステータス=========



名前 平均次(たいらきんじ)



MP 199/7660↓danger!



《基礎魔力》


攻(M)470 

防(F)91 

知(S)171 

精(G)23 

速(神)566 

技(神)422 

運   10


《スキル》


【MPシールドLV7】【MP変換LVー】【暗算LV2】【機械操作LV3】【語学力LV2】【大解析LV5】


【剛斬魔攻LV1】【貫通魔攻LV1】【重撃魔攻LV2】【直撃魔攻LV2】

【怪気血攻LV1】


【韋駄天LV8】【魔力分身LV4】


【螺旋LV1】【震脚LV1】【チャージLV1】【爆息LV1】【ポンプLV1】【超剛筋LV1】


【痛覚大耐性LV1】【負荷耐性LV8】【疲労耐性LV8】【精神超耐性LV1】new!


【魔食耐性LV7】【強免疫LV7】【強排泄LV7】【強臓LV7】【強血LV7】【強骨LV5】


【平行感覚LV2】【視野拡張LV2】


【虚無双LVー】new!


《称号》


『魔神の器』『英断者』『最速者』『武芸者』『神知者』『強敵』『グルメモンスター』


《装備》


『鬼怒守家の木刀・太刀型』

『鬼怒守家の木刀・脇差型』


《重要アイテム》


『ムカデの脚』


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