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34 圧倒的戦力差。★


 新章開始!



「腕一本なのに『阿修羅丸』とはこれ如何に…」


 …なんて言うほどの違和感はない。遺憾ではあるが。


 何故なら一本しかないその腕を見ただけで分かるからだ。あれには俺の腕を六本束ねてなお余りある力が秘められている。


 いやこれだけ言ってもまだ足りない。つかもう、溜め息しか出ない。それほどの圧。視界が歪むほどの。呼吸を整えようとして胸が痛んだ。ひどくヌルヌルとした嫌な汗も大量に…


「く、そ…っ【強排泄】は発動してないってのに…ハ…ァッ…」


 何とか意識を保ちながら、様々な角度から査定してみる。でも結果は同じだ。


『出会いたくなかった強敵』。

 もしくは

『出会ってはならなかった恐敵』。



 つまりは、遥か格上。


 ……………


 ………


「…どう倒せってんだ」



 それでもやるしかない。



「ハ──」 ダッ!



 と溜め息も途中。気付けば駆け出していた。敵に向かって。


 戦う前に負けそうになる。前世でいやと言うほど見た前兆。後悔しか残さない敗北の味。


「それにどうせ、もう逃げられないし、なっ!」


 というかその選択肢はもとからない。ここは『殲滅攻略型』ダンジョン。こいつを倒さない事には脱出不可能。ならば破れかぶれでも先手必勝、、



 ──大っ回転っ!!!



 最大火力を乗せて振った木刀は!



 ──ガキャァあっ!



 大袈裟な音だけを残した。手応えの方はすぐに霧散、要は簡単に弾かれてしまった。


 ならばと連撃!


 ──ギャギャギャゴキャ、ガンっ!


 まただ。弾かれた。それも、


「随分と簡単に──くそ!」


 劣勢な側は明らかに俺の方。…なのに、


「…ぎぃ…ぎ、」


 敵の方まで困惑顔なのは、何故だ?ともかくそれが、 


(こいつ…っ、)


 …気に入らない!再度突撃!回転しながら腰を限界まで低め通過する!超低空の下段薙ぎ払い!



 ──ギャィンッ!



 案の定防がれたが、



「かぁらぁのぉ!」


 そうだ終わるな!回転を!止めるな!敵の背後へ二重の意味で回り込む!間髪いれずに上段!首を狙って



 ──ギャォンッ!



「くそっ!」


 背中に目がついてるのか?また防がれた。当然、敵にダメージはなし。



「火力が不足してんのか?」



 もしそうなら絶望以外この先にはない。


 何故なら俺は紙装甲の攻撃特化。

 しかも今回はソロ攻略。

 仲間の助けは望めない。

 逃げる事も叶わない。


 そうである以上、攻撃が通らない時点で詰みが確定してしまう。


 でもそれはない。


 格上過ぎて格上なのは、戦うまでもなく分かっていた事。だから出し惜しみはしなかった。というより出来なかった。


 なので進化先が分岐して保留としていた【打撃魔攻】と【衝撃魔攻】だってもう進化済みだ。


 【打撃魔攻】の分岐先はこれにした。


【重撃魔攻LV1…打撃による攻撃行動の際、攻撃力が上がる。現在の増加率1.6倍。その攻撃力をさらに1.1倍増幅して重撃となす。】


 ゴリっゴリの一撃特化だ。攻撃力の増幅率が進化前は勿論、もう一つの分岐先より高く、その増幅にさらなる追加増幅まである。それぞれの成長率も0.05から0.1に上昇しててもう自分で言ってて意味わからんぐらいのゴリっゴリだ。


 【衝撃魔攻】の分岐先はこれにした。


【直撃魔攻LV2…衝撃を内部に伝える事で攻撃力を上げる。現在の増加率は1.6倍。衝撃を局所集中する事でさらに1.1倍】


 これも威力を重視した魔攻スキル。その代わり敵内部へと伝わる衝撃の範囲は進化前より限定的になった。威力は上がるが使い勝手が悪くなる。それでも選んだ。



 つまり──今の俺の斬撃は【斬擊魔攻LV7】と【重擊魔攻LV1】と【直撃魔攻LV1】の効果が合わさり


 1.35×1.6×1.1×1.6×1.1=4.18176


 約4.2倍にまで強化されている。


 しかも魔食によって『攻』魔力だけでなく、素の身体能力まで大幅に上昇した状態で、だ。


 それに加えて【韋駄天】による【速】魔力増加により物理エネルギーの上乗せもあって…つか、


「それだけじゃねぇんだぞ?くそ!」


 【回転LV7】による回転力増強。


 【ステップLV7】による踏み込み強化。


 【溜めLV7】による威力増強。


 【呼吸LV8】【血流LV8】【強幹LV8】【柔軟LV7】による身体操作の精密化。


 【健脚LV8】【強腕LV8】【健体LV7】による総合的筋力強化。


 どれもコモンスキルなので効果は弱い。


 とはいえここまで高レベルに育てて、これほど大量にスキルを揃え、その全てを盛りに盛った、特大威力の攻撃だった。



「ああそうだ、本気じゃないけど、今のは全力だった。なのに──」


 威力偵察…本気じゃない。…にしろ、威力だけは最高にして放った。この後どう戦うか探ろうとした。


 …のだが、



「…通用しないのか…?いや、当たれば効くはず──」



 ただ当たらないだけだ。

 簡単に防がれてしまうだけ。

 つまりは結局の手詰まりか。

 何をどうすればいいのか、

 結局は分からないという結果…


 なのに、


 相手から攻撃してくる気配が、ない。


「それこそ何でだ?」


 舐められてるとは感じない。むしろこちらを気遣って、躊躇っている?ように見える…って、


「いやいや舐めてるよなそれ?」


 なんて屈辱に思いながらその一方で、俺は幸いと受け止めてもいた。


 どう戦えばいいのかどうせ定まっていないのだ。ならこの不気味な猶予を逆に利用すべきともう一度、このネームドモンスターのステータスを確認する事にした。


 


=========ステータス=========



名前 阿修羅丸(あしゅらまる)


種族 餓鬼

階級 ネームド

LV 2 

MP 2205/3251


《基礎魔力》


攻 351

防 311

知 84

精 77

速 361

技 205

運 20


《スキル》


【MPシールドLV3】【渇望LV5】【一隻二超LVー】【斬撃魔攻LV5】【刺突魔攻LV5】【打撃魔攻LV5】【衝撃魔攻LV5】【回転LV8】【ステップLV5】【溜めLV5】【呼吸LV4】【血流LV2】【健脚LV3】【強腕LV3】【健体LV3】【強幹LV6】【柔軟LV7】【痛覚耐性LV4】【負荷大耐性LV1】【疲労耐性LV4】【精神耐性LV8】【魔力視LV2】【無属性魔攻LV2】【属性開花LVー】


《称号》


『一匹狼』『諦めぬ者』『修行者』『好敵手』


==========================


 総合的に見てしまうと、この戦力差は絶望でしかない。


 『知』魔力以外の器礎魔力が全部、俺より上だ。


 でも他の人間と違って俺の肉体は魔食によって強化する事が出来る。

 

 つまり俺には、ステータスに記載されない強さがある。


「それでも負ける…」


 相手はモンスター。元々の肉体が違う。人間より強靭なのは当たり前。それが…幻とされてるネームドに進化している。


 なら自慢の攻撃性能に絞り込んで見れば、どうか。


【斬撃魔攻】と【刺突魔攻】は俺の方がスキルレベルが上、【打撃魔攻】と【衝撃魔攻】にいたっては進化させている。その際の分岐先も威力偏重にした。


 他の戦闘スキルについても『魔食に関連したスキル』を除けばほぼ俺と同じ構成のようだがやはり、スキルレベルについては俺が上だ。


「…でもそれじゃぁ…」


 大したアドバンテージにならない。


 さっきも述べた通り、器礎魔力においても肉体性能においても相手の方が上だからな。


「中でも致命的なのが『攻』魔力…俺の倍近くありやがる…」


 それに【一隻二超】のスキル効果が乗る。その効果は『失った腕や脚の力を、残った腕や脚に宿らせる』というものでつまり、やつの右腕は腕二本分の膂力を常時発揮出来る。だから最終攻撃力も二倍…とまではいかないだろうが、これが相当な威力増強となっているのは間違いない。


「その上で称号か…」


 『一匹狼』の『一人で戦う時に攻撃力1.1倍』という称号効果と、『好敵手』の『心の底から好敵手と認めた相手と戦う時に攻撃力1.1倍』という称号効果が重複する。一見すると地味な効果だが、攻撃に特化した相手が使えば恐ろしいものとなるのは言うまでもない。


 つまり、俺がせっせとスキルを集めて育て、磨き上げてきた攻撃特化仕様も、


「…完敗か…なるほど…簡単に弾かれる訳だな」


 その上で守りまで硬いのだから嫌になる。


 【MPシールド】の分厚さは俺の半分以下だが、その強度を司る『防』魔力が10倍もある。たまったもんじゃない。

 これがあるから魔攻スキルの進化先を威力偏重にせざるを得なかった。どれだけ連続で攻撃をヒットさせたところで、ダメージを与えられないなら意味がないからな。


「そして、、『属性』まで備えてやがる。」

 

 と言っても【MP変換】が使えるなら、『魔法を使えるジョブに就く』という条件を満たせば火、風、土、水、光、闇…いわゆる基本六属性の魔攻スキルなら取得可能だ。


 さらに言えば単一属性では全ての戦闘に対応するのは難しいものがあるらしく、前世で見た魔法職の殆んどは数種類の属性魔法を所持していた。

 つまり何が言いたいかと言うと、【MP変換】を封じられてる俺が持っていないだけで、属性持ちはそれほど珍しくはない、という事だ。 


 しかしヤツが宿すは【無属性魔攻】。


 これは…前世でも聞いたことがない属性…少なくとも【MP変換】では取得出来ない類いのレア…のはず。そんなものを何故こいつが持っているのかと言えば、コイツがモンスターで、ネームドだからだろう。


 モンスターは種族ごとに、必ず何かの『特殊属性』を秘めている。らしい。


 そしてコイツのように最上位に近い進化を果たすとその『特殊属性』を覚醒させる事があって…きっと餓鬼という種族は無属性魔力を秘めるモンスターだったのだろう。そして、


「ネームド化したせいか?【属性開花】まで取得してやがる…」


 こちらは結構メジャーなスキルだ。取得条件も簡単ではないが単純で、『属性を一つに絞って成長させる』これだけでいずれは取得出来る。


 そして取得すればその属性をブーストし、威力は勿論のこと、汎用性まで格段に増強される。こうなると多くの属性を操るよりずっと強くなる。


 …てのも多分、システムの罠ってやつだな。何度も言うが【MP変換】は諸刃の剣だ。


 ともかく。


 こいつは進化したおかげか、理想的にも【無属性魔攻】というレアスキルを覚醒させ、その覚醒特典でしっかり【属性開花】まで取得し、さらなる強化を果たしている。


 それも、近接戦闘に特化し、魔法に関するアプローチなんて全くしてこなかった分際で。


「さすがはネームド…つか、もう反則だろうがこんなもんっっ!」


 実際、『餓鬼大将』を倒してネームド化した後、ヤツが倒した餓鬼は100にも達し、その全てが進化体だった。


 だというのにレベルはいくつか上がっただけに終わった。スキルレベルにいたっては一つも上がってない。


 【渇望】のスキル効果で経験値増加の補正を受け、『修行者』の称号効果でスキル成長の補正まで受けていたにも関わらずだ。


 実際、あれ程多くの同胞を殺しておいてその亡骸を見る目は『つまらない』と語っている。



 そう、この餓鬼は強くなりすぎた。




 

 …でもな。


「…知るかよ」


 俺は、何のために生き返った?


「いやそれこそ知らんけど…っ」


 ああ確かに。何故回帰したのかなんて知らないし知りたいとも思わない。だが、こうは思いたい。


「少なくとも…クソ…っ、こんなところで死ぬためじゃないはずだっ」


 だから、アイツを知ったなら。もっと知りたいと思うならっ、


「考えろっ、俺っ。」







=========ステータス=========



名前 平均次(たいらきんじ)


MP 7660/7660


《基礎魔力》


攻(M)180 

防(F)39 

知(S)98 

精(G)17 

速(神)214 

技(神)154 

運   10


《スキル》


【MPシールドLV7】【MP変換LVー】【暗算LV2】【機械操作LV3】【語学力LV2】【大解析LV2】


【斬撃魔攻LV7】【刺突魔攻LV8】【打撃魔攻LV10】【衝撃魔攻LV10】


【韋駄天LV8】【魔力分身LV3】


【回転LV7】【ステップLV7】【溜めLV7】【呼吸LV8】【血流LV8】【健脚LV8】【強腕LV7】【健体LV7】【強幹LV8】【柔軟LV7】


【痛覚大耐性LV1】【負荷耐性LV8】【疲労耐性LV8】【精神耐性LV9】


【魔食耐性LV5】【強免疫LV5】【強排泄LV5】【強臓LV5】【強血LV5】【強骨LV3】


【平行感覚LV2】【視野拡張LV2】


《称号》


『魔神の器』『英断者』『最速者』『突破者』『武芸者』『神知者』『強敵』『破壊神』『グルメモンスター』


《装備》


『鬼怒守家の木刀・太刀型』

『鬼怒守家の木刀・脇差型』


《重要アイテム》


『ムカデの脚』


=========================



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