表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
110/116

107 血盟士。



 そして彼女は覚悟を決め、足を止めた。



 悠然と振り返り迎撃体勢をとる香澄。狂乱のまま突進してゆく蜘蛛。


 激突する両者が共に破壊の化身。それで全く過言とならない。


 ビルを解体する大型重機がしかも複数台合体し、蜘蛛の形を成している。そう言えば分かりやすいか。


 そんなゲロエグモンスターマシンが規定規格ガン無視の超高速で動いて連続軒並み徹底的に破壊しまくる。広範囲に渡り。


 そこまで想像してみてハイ悪夢。それを現実で、しかも生物がやっている。


 それに対峙し続ける香澄の異様さも分かるというもの…いや、いくら例えたところで伝わるまい… 見よ…ッ、


 異次元に発達した暴力のみが()れるここは、この世あらざるエフェクトで満載だッ。

 地を蹴り砕く踏み込みが!地を突き砕く蜘蛛脚が!ついでのように爆風を巻いてモンスターの肉片破片異臭をさらに細かくミキサーしてゆく!もはや何のそれか分からなくなったそれらが広範囲に吹き散らされる!


 血風纏う大修羅小修羅が相打つここは、、まさに血ッッ界(結界)!!


 ……に、無謀にも一番乗りしたのは、



「ぐうああー!風あちぃー!圧すげー!動きづれー!つか、臭せぇっ(モンスターの臓物臭で)! え。地獄?」



 レッドフルメンバー最速を誇るレッド。最速で後悔し始めていた。そして思っていた。俺の身体よ何故逃げない。(※香澄のせい)

 手に持つ武器は肉厚な短剣。元はゴブリンソーディアンジェネラルが使っていた。業物ではない。それでもダンジョン産。魔力宿すアイテムであり、更には彼が取得したスキル【簡易道具作成】で一手間加えて『『攻』魔力と斬撃系魔攻スキル効果両方に補正がかかる』優れものとなった。

 それを無我夢中っ、振り上げそして振り下ろす──ブォビュッ!その斬撃は我ながら恐ろしいと思わせる速度と音を伴った。

 空気の膜を重く感じ、レベルアップの恩恵は計り知れないと感じ、その上で弾丸のごとき助走をつけ踏み込んだのだ。

 速度や体重だけじゃない、色々よく分からない色々が乗り移った一撃だった。人に当たれば容易く肉塊に変えてしまう事請け合い…そんな畏れを抱くレッドだったがまだ全力ではなかった。

 反撃された時を想定し、咄嗟に回避出来る余力を残していた。これは威力偵察、つまり牽制寄りの攻撃だったのだが、それにしたって、、


 ──ザッケイィィィィンンンッ──生き物斬って鳴る音じゃッ、



「──ねぇだろッ!本っモンのバケモンじゃねぇか…ッ!」


 想像より遥か上の剛性と弾性。手に残った応えは痺れというか麻痺。戦慄せざるを得ない。蜘蛛を見上げれば狂乱の中にいるからか全く意に介していない。反撃を警戒した自分が真性の阿保に思える。それはそうだ。その外骨殼は全く切れてないどころか、へこみすらしなかったのだから。



 だが、こうなるのは本当の当然だった。つまりは必然だったのだ。



 例えば才子が使っていた釘バット。あれなら『殴りながら刺す』という性質上、打撃系魔攻スキルと刺突系魔攻スキルを同時に載せる事が可能だ。


 例えば均次が使っている木刀。あれなら『斬りながら殴る』つもりで振れば斬撃系魔攻スキルと打撃系魔攻スキルを同時に載せる事が可能で、『突き刺しながら殴る』つもりで突けば刺突系魔攻スキルと打撃系魔攻スキルを同時に載せる事が可能だ。


 そして、さらに衝撃系魔攻スキルも持っている者なら、それも同時に乗せる事が可能だろう。つまり武器の形状次第で、合計三つもの魔攻スキルを載せる事が出来るのだ。



 こういった武器はのちに『複合武器』と呼ばれるようになる。



 しかし世界がこうなってまだ一週間も経っていない。人類は魔攻スキルを何とか使いこなせるようなってきた、という段階でつまり、複合武器の有効性を知る者は、ない。


 今のはそんな情報不足ならぬ情報皆無による結果。


 レッドがいくらレベルアップしようと武器を改造しようと、それだけでは埋まらない。彼の剣撃は【斬撃魔攻LV5】という、未進化かつ低レベル、しかも一つしか載せられていない状態なのだから。そんなものがこの蜘蛛に効くはずがない。

 

 つまりは、そう。


 この時期この段階、人類がこの蜘蛛を倒すなどほぼほぼの不可能。いや、『ほぼ』が入る余地すらない。不可能は不可能だから不可能なのだ。それを可能とする者はどこにもいないのが現実──いや、平均次。あのヒーロー(怪物)ならあるいは──いや、それを言う前に。


 ここは『さすがの一号』そう言うべきなのだろう。均次は不可能を可能とする者だと、彼女は分かっていたのだから。つまりは、彼女も本物。本当に『何故かわかってしまう』女だったようだ──が、しかし。


 肝心な事が、分かってなかった。


 その均次抜きでこの不可能に挑む。それがどれ程の無謀であるか──あ、いや、分かっていたのか。なのに香澄が色々とやらかして色々と有耶無耶にしちゃったのか。それはもう御愁傷様としか言えないので頑張って下さ──ぃやともかく。




 ──彼らもそう。もう戻れない。




 そういったこんがらがった諸事情など知りえなくとも、レッドは即に理解したようだ。己の攻撃力については早々に見切りを付けるべきだと。


 かといって戦線離脱する訳にもいかない。礫混じりの粉塵を忌々し気に振り切ってパーティの元へ帰還した。

 リトルサン。ここは彼の火力に期待するしかない。そう判断したレッドは一号に確認した。



「リトルサンに『魔力譲渡』する!『知』魔力でいいよな!?」


 それを聞いた一号はレッドの意図を即座に理解。


「うーん!やっぱそうなる?じゃあシンイチとブラッドもお願い!リトルサンに『知』魔力を譲渡して!あ、ブラッド。これって回復魔法に影響ないよね?」


「おう!回復魔法とバフ魔法に必要なんは『精』魔力やからな!」


 そこへレッドが追加する。


「あの硬さからしてこの蜘蛛野郎は俺達よりずっとレベルが高い!みんな!生半可な攻撃は全く意味がないと思ってくれ!」


「じゃあしゃあねぇな!『知』魔力譲渡!」


「ほな俺もいくでリトルサン!『知』魔力譲渡!」


「俺のも受け取れ!『知』魔力譲渡!」


 まずはシンイチ、次にブラッド、レッドと続いて魔力らしき何かを放った。それはリトルサンへ吸い込まれていった。


「うわわ!何回やっても慣れないなこれ!でも確かに受け取ったよ!じゃあブラッドにはこれだね『精』魔力譲渡!」


 今度はリトルサンからブラッドへ。


「うをほっうはー!おおきにぃっ!確かに受け取ったでぇっ!」


 と、彼らの会話に新しいワードが出たのでここで解説。




 彼らレッドフルのメンバーは全員、選べるジョブが何故か、一つしかなかった。だからしょうがなく就いたジョブ。それが、



 『血盟士(けつめいし)』。



 これはかなりのレアジョブのようで、ステータス画面で閲覧出来る説明文を確認するとこう記されてあった。


『血盟士……太古の因果から繋がる奇縁を強縁とした個体が五体以上集結した奇跡の集団のみが資格を得るジョブ。『縁属性魔力』を専門に使い、真の血盟を目指す。ジョブチェンジは不可』


 色々と訳が分からないが、奇跡の集団であるとシステムから認識されなければ資格を得られないらしい。ならばレア以上のレアと認識して間違いないだろう。そしてそんな集団が専門とする『縁属性魔力』とは何なのか。これもステータス画面で確認してみれば、


『縁属性魔力……古くから強固に結びついた因果に限定して循環し続け熟成された魔力。粘性が強く結びつきやすい。その性質から汎用性に優れるも、効果範囲が極端に狭くなっている。全ては運用次第』という説明文になっている。


 そして彼らがさっき言った『魔力譲渡』というワードだが、


 これは【縁属性魔法】というスキルに属する技の一つで、正式には『器礎魔力譲渡』と呼ばれる。

 その性能は『自身の器礎魔力のどれかを他の血盟士に割合で譲渡する事が出来る』というもの。

 これだけを見れば有用に思えるが、スキルレベルが低い今は譲渡出来る器礎魔力は一つに限られるし、最大で40%という割合でしか譲渡出来ない。それでも強力な武器となる、そんな可能性は大いに秘めている、、はずだ。


 そして説明文を見て分かる通り、この『血盟士』というジョブは集団である事を前提としている。だからだろうか、さらに『アタッカー』『シールダー』『ヒーラー』『スピーダー』『リーダー』と分類されており、それぞれの特性は以下の通り。



───『血盟士・アタッカー』───


リトルサン(小日向小太郎)専用ジョブ。

●攻撃に特化し、取得可能スキルもそれに準じたものが多い。

●試練結果に関係なく器礎魔力の成長補正は『攻』魔力と『知』魔力が非常に高くなる。

●その代わりとして『防』魔力が壊滅的、他も平均よりちょっと下となる。


●【血闘致(けっとうち)】という、『どんな攻撃行動も強化する』専用のスキルを持つ。



───『血盟士・シールダー』───


シンイチ(旗塚真紅郎)専用ジョブ。

●防御に特化し、取得可能スキルもそれに準じたものが多い。

●試練結果に関係なく器礎魔力の成長補正は『防』魔力と『精』魔力が非常に高くなる。

●その代わりとして『速』魔力が壊滅的、他も平均よりちょっと下となる。


●【血障番(けっしょうばん)】という、『どんな防御行動も強化する』専用のスキルを持つ。


 

───『血盟士・ヒーラー』───


緋後慶助(ブラッド)専用ジョブ。

●回復とバフに特化し、取得可能スキルもそれに準じたものが多い。

●試練結果に関係なく器礎魔力の成長補正は『精』魔力が非常に高くなり、『運』魔力は初期値に40プラスされる。

●その代わりとして『知』魔力が壊滅的、他も平均よりちょっと下となる。


●【血昇化(けっしょうか)】という、『どんな回復行動やバフ行動も強化する』専用のスキルを持つ。


 

───『血盟士・スピーダー』───


レッド(勝間赤人)専用ジョブ。

●速攻に特化したジョブ。取得可能スキルもそれに準じたものが多い。

●試練結果に関係なく、器礎魔力の成長補正は『速』魔力と『技』魔力が非常に高くなる。

●その代わりとして『精』魔力が壊滅的、他も平均よりちょっと下となる。


●【血攻速振(けっこうそくしん)】という、『自身の『速』魔力の何割かを『攻』魔力に、もしくは『攻』魔力の何割かを『速』魔力に振り替える事が出来る』専用のスキルを持つ。この専用スキルの影響もあり、『血盟士』というニッチ集団の中で唯一、単体戦力として運用出来る。



───『血盟士・リーダー』───


一号(長田一子)専用ジョブ。

●何にも特化していないジョブ。どんなスキルでも生やせるが、【MP変換】でかかるコストは倍となり、自然習得も倍の負荷を要する。 

●試練結果に関係なく、器礎魔力の成長補正はどれも平均的となる。

●他の血盟士と違い『器礎魔力譲渡』が使えない。それでも『血盟士』系ジョブの切り札的存在。



────────────────


 と、このように。各職がその特性に応じた強力なスキルを持つ代わりに、チュートリアルダンジョンでの試練結果が無視されてしまうという、何とも微妙なペナルティが課せられており、さらには単体戦力では使えないジョブでもあって…これは無視出来ないデメリットとなっている。


 スピーダーのレッドは『闘える』程度でしかなく、アタッカーのリトルサンは『すぐ死ぬ』し、シールダーのシンイチは『倒せない』し、ヒーラーのブラッドは『機能しない』し、リーダーの一号に到っては『役立たず』となっている。これではパーティー戦以外では、まるで使えない。相当なニッチジョブとなっている。


 しかし、


 特化職の誰かの特化した器礎魔力に、他三つの特化職が『器礎魔力譲渡』すればどうだろう。


 通常の特化職と比べれば逸脱した性能となるはずだ。先ほどのリトルサンへの『器礎魔力譲渡』はそれを狙ったものだった。


 但しこれにも『縁属性魔力』の特徴である『効果範囲が狭い』という制限がかかる。だからこんな巨大生物を相手に固まって戦う必要があった。距離が開きすぎると『器礎魔力譲渡』が届かないからだ。


 さらに言及すれば『知』魔力の成長補正が壊滅的なブラッドから『器礎魔力譲渡』をされても大した上昇効果は望めない。

 『知』魔力の成長補正が平均より下のレッドから『器礎魔力譲渡』されても大袈裟な効果は見込めない。

 だからそのレッドと同じくらいの『知』魔力があるシンイチにも『器礎魔力譲渡』してもらう必要があった。

 そして『血盟士・リーダー』である一号は『器礎魔力譲渡』が出来ないという縛りまである。

 つまり『器礎魔力譲渡』は、他の特化職三人の協力がないと、真価というには物足りない結果となってしまう。

 それなのにブラッドに対してリトルサンが『精』魔力譲渡したのにレッドとシンイチはしなかったのは何故か。

 それは先述した通り、【縁属性魔法】のスキルレベルが低い今では一つしか譲渡出来ないという縛りがあるからだ。既にリトルサンに『知』魔力譲渡してしまった二人にはこれ以上の『器礎魔力譲渡』は出来なかった。


 と、このように。状況に応じて様々な応用が効くと同時に様々な制限もかかるという、もはやニッチ過ぎてマイナーチェンジ感すらある…おっとこれは言い過ぎ、というか解説が長くなってしまった。戦況に戻るとしよう。


  ・


  ・


  ・


 リトルサンから『精』魔力を『器礎魔力譲渡』してもらったブラッドは、そのお陰で性能が上がったバフ魔法で早速、お返しする事にした。



「『魔法攻撃力上昇+1』!『魔法出撃限界上昇+1』!」



 これらはバフ魔法に特化したスキル【加属性魔法LV5】で放った魔法だ。

 『魔法攻撃力上昇』はそのまんま攻撃魔法の威力を上げる。

 『魔法出撃限界上昇』は攻撃魔法を使う際に消費するMPを増やす代わり威力を増す。

 『+1』というのは『血盟士・ヒーラー』の専用スキル【血昇化】という『どんな回復行動やバフ行動も強化する』という専用スキルの影響によって、効果が上がったために付け足されたのだろう。    


 かくして


 『器礎魔力譲渡』により『知』魔力をブーストされた上に、ブラッドから二つのバフ魔法で強化され、さらに『血盟士・アタッカー』の専用スキル【血闘致】という『どんな攻撃行動も強化がする』スキルの効果が上乗せされたリトルサンの攻撃、それは!


 【火魔法LV5】…と、あまり育っていないスキルで放った、しかも基本魔法でしかない『ファイアボール』…だったもの。しかし、



「『メルティボール』!」



 これは『縁属性魔力』と相性が良い魔法であった。名称まで変えているのはその相性の良さ故に、威力だけでなく性能そのものが変異したからだ。


 

 ──ドビュッッ──ビジゃンッ、ジョワァ…ッ!『ギ、ギジィ…?』



 しかし、


 大したダメージにはならなかったようだ。狂化していたのもあって蜘蛛の方は何かされたとは感じたようだが、意に介した風はない。しかし蜘蛛よ油断は禁物。この魔法はこれで終わりではない。



 ──ジュワァァア…



 その名称通り液状化し、粘性を伴う灼熱球と化している。だから着弾の後も霧散したりしない。そのまま付着して持続性をもって蜘蛛脚に生えた硬毛を溶かし始めて…



「おおお…相変わらずエグい魔法やなぁ。ほなみんないくでー!『スティッキーヒール』&『スティッキーアーマー』」 



 と、ブラッドが次にパーティーメンバー全員に向けて範囲発動したのは、【水魔法LV5】とこれまたあまり育ってないスキルで放った『ウォーターヒール』と『ウォーターアーマー』…だったもの。


 これらの魔法もまた『器礎魔力譲渡』による『精』魔力上昇と、ブラッド専用スキル【血昇化】の影響で二重に効果が高くなっており、さらには『縁属性魔力』と相性が良く特殊魔法に変異している。


 『スティッキーヒール』は回復効果だけでなく『持続回復効果』が追加されている。


 『スティッキーウォール』も防御力上昇効果だけでなく『斬撃、刺突、打撃、衝撃への耐性効果』が追加されている。


 守りに徹しなければならないシンイチと、攻撃以外全てが弱点のリトルサンにとっては特に有難い支援となるはずだ。


 しかし、これだけではやはり決定力に欠ける。


 かといって香澄(謎少女)以外ではリトルサンぐらいしか攻撃は通りそうもない。そう思っていたのだが。


 臼居忍。武器の性能なのか。遊撃を頼んだこの少女が思いの外、やる。


 姿を消して蜘蛛の中脚に攻撃を加え、その後すぐに離脱するを繰り返しているのだが、その度に同じ場所をほぼ100%の命中率で斬りつけていて…これはもしかするともしかするかもしれない。


 …のだが。


 姿を消せるとはいえ、猛速で動く度に破壊を撒き散らかすあの蜘蛛脚に対し、急接近するという行為は相当な恐怖であろう。

 しかも攻撃した後は姿を露にしてしまうのだから結局の危険だ。今はあの蜘蛛も意に介していないが、このままだと──ピキっ──あ。


「…え、やった!」


 蜘蛛の分厚い外骨殻に亀裂が入った音も、少女が上げた快哉も、そこかしこで連続して鳴る破壊音に掻き消されていたはず。 …それなのに。



「イギギィィイ!ジぃネェアァアッ!!」



 狂って見えてどうやら自身の危機を知らす音だけは別物らしい。蜘蛛が振り上げた中脚、それが遂に、香澄(謎少女)以外の人間へ振り下ろされた。それは、



 「え…」 忍に向けて。



 みんなの目が見開かれた。それが物語るのは『何故避けない!何故呆けている!』


 忍だけ『バイオリズム操作』が掛けられていない事を、みんな知らなかったからだ。


 いや、香澄だけは知っていたか…ともかく、彼女は素の精神状態でこの死闘に参加していた。


 この中で察したのはレッドだけ。


 どうやらあの忍者少女は、気付いてしまったようだと。


 何にと言えば、自分達が今やっている戦いなど、精々が謎の少女(香澄の事)と蜘蛛の戦いにコソコソと茶々を入れる。その程度でしかなかった、という事に。


 さっきまでの彼女はそれに気付いていなかった。だから危険な蜘蛛の脚に向かっていけたのだと。


 つまり彼女の攻撃対象は蜘蛛の脚に限定されており、それしか見ていなかった。


 それが今更になって、この蜘蛛の恐るべき全貌を直視してしまった。


 それも攻撃される瞬間という、硬直するにはあまりにも致命に過ぎるタイミングで。


 実際、この瞬間に忍が感じた脅威がどれほどだったかと言えば、中脚に集中していた時に比べ数十倍に跳ね上がっていた。


 彼女が硬直したのは、心身がそのあまりの落差に付いていけなかったからだ。レッドはそれを察したのだが、しかし、



 もう、間に合わない。



 レッドも遊撃を頼まれていた。つまり役割が被る忍から距離を開けていた。


 レッドフル随一のスピードスターであっても限度というものがある。


 このままあの忍者少女は──そして、巨大な蜘蛛の脚は無情に振り下ろされて──



 ズガアァア「きゃ──」アァアァッ!!




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ