表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二周目だけどディストピアはやっぱり予測不能…って怪物ルート!?マジですか…。  作者: ヤマタカコク
第十層 エネミーオブザワールド 編
106/116

103 祝福の狂地。


 今章最後となります。


 




『【魔力練生MAX】に到達しました』




『【身大強化LV8】に上昇しました』

『【疾風LV7】に上昇しました』

『【真算LV5】に上昇しました』

『【剛斬魔攻LV6】に上昇しました』

『【重撃魔攻LV7】に上昇しました』

『【貫通魔攻LV6】に上昇しました』

『【直撃魔攻LV7】に上昇しました』

『【運属性魔法LV6】に上昇しました』

『【クリティカルダメージ増加LV8】に上昇しました』

『【回転LV9】に上昇しました』

『【ステップLV8】に上昇しました』

『【溜めLV8】に上昇しました』

『【呼吸LV9】に上昇しました』

『【血流LV8】に上昇しました』

『【強血LV6】に上昇しました』

『【健脚LV8】に上昇しました』

『【強腕LV8】に上昇しました』

『【健体LV7】に上昇しました』

『【強幹LV9】に上昇しました』

『【柔軟LV8】に上昇しました』

『【痛覚大耐性LV4】に上昇しました』

『【負荷大耐性LV4】に上昇しました』

『【疲労大耐性LV4】に上昇しました』

『【斬撃耐性LV5】に上昇しました』

『【打撃耐性LV5】に上昇しました』



「あは!楽しい!あは!あははははは!均次くん!凄いこれ!楽しい!」



 香澄はすっかり狂ってしまった。



 彼女にはもはや、蜘蛛への憎しみや怒りといった激情はない。それがないなら戸惑う事もない。


 ただただ、無限に成長する自分が楽しい。それをもたらすこの戦いが楽しい。かといって一筋縄ではいかない状況までもが、ああ楽しい。


 そんな戦いに戦術や戦略なんてものが介在するはずもない。これは死闘に見える別のもの。


 ただ暴走した魔力に追い立てられているだけだ。その副産物である成長を喜び狂っているだけ。それだけをしている。



 蜘蛛だってそうだ。似たようなもの。



『ギィイイイイイィイイイ!ゴロズ!ゴロズゥッ!ジネ!ジィネエエェェァア!!」



 香澄をひたすら付け狙い、追い回し、進路上の何もかもを蜘蛛脚で破壊しながら、無闇矢鱈と糸を飛ばし、その悉くを躱されて、そのついでと削られ、また狂う。


 もはや何のために戦い傷付いているのかも分かっていない。香澄の狂気に振り回され、より深い狂気へ導かれ、その狂気のままに暴れまわる。それだけをしている。


 矮小なただの蜘蛛だった頃からフィールドボスと呼ばれる今日まで叩き上げ、培ってきたはずの戦術も戦略など見る影もない。当然、それらを扱うに相応しい戦場の心構えも──






 ──確かに。



 この蜘蛛は心得てはいたかもしれない。戦闘とは水物である。簡単に移ろうもの。


 …確かに。この戦いがこれほどに混迷を極めた事こそがその証かもしれない。


 …確かに。そんな不安定なものを征するならただの全力では足りない。『運』を掴みたい気持ちにもなろう。必要でもあったろう。



 しかし、その先は?



 この蜘蛛は…いや、香澄もそうだ。それが見えていなかった。


 遥か高みに登り詰め、その道のりを深く理解し、それでも足らないという事は、どんな分野にもある事だ。


 それが死闘という、異端どころか、端を極めた分野となれば?尚更というものだった。


 蜘蛛は『運』を掴んだと錯覚した。しかしその『運』自体をなくした今はどうか。あの傲慢がみる影もない。生き汚さを通り越した狂態をさらすのみとなっている。

 

 香澄もそうだ。『どうしようもない』逆境をはね除けたまではいいが、今やその逆境すら可愛く思える制御不能に陥り、そこから浮上する気配はまるでない。



 ──世界がそんな地点に立たす時。残酷な選択を、しかも雑にしか残さない。



 『知らぬ』



 無理にでも覆すしかない、そう迫るだけだ。それでも抗うと言うのなら?当然、普通でなどいられない。


 無茶と苦茶を合わせた我武者羅、それをやり遂げる壊れた冷徹エトセトラ……なんであろうが手当たり次第、幾つもの逸脱と矛盾を併せ呑む必要に迫られる。


 

 …そう、迫られる。


 均次がそうだった。


 彼はずっと、迫られていた。



 彼は彼にとって無自覚の数字であるが、二千と四九にものぼる人命を、『鬼』を倒す事で確かに、救った。


 しかし、見てしまった。香澄と手を繋いで歩きながら。


 街の風景──それが、前世とは…いや、全くではないが、確かに違ってしまっている事実を、彼は見てしまった。


 前世の赤月市は『魔人街』と呼ばれるほど荒廃していた。しかしその過酷を生き抜く人々も確かにいた。彼らが住処とする建物だって残っていて…そのはずだった。しかし、



 ──今世、その多くが焼け落ちていた。



 おそらく…いや、均次が回帰してから様々な奮闘の末に歴史を変えた事が原因だ。それで間違いない。


 直接的に言ってしまえば、前世で生きていたはずの人が、今世では既に死んでいる…かもしれない。


 自分のせいで──嗚呼、死んだ中にはいたのだろうか──年端もいかぬ幼子も──いるに決まってる──分かってたはずだ。



 そう、あの時、

 均次は香澄に、こう言った。




『大家さん、……街を、捨てます』




 あの言葉通りだ。

 彼は見捨てた。

 全てをわかった上で見捨てたのだ。


 だからこそ、

 引き返せない。そう思っていた。


 だから、

 狂ったように戦っていたのだ。


 だから、

 死ぬような思いを何度もして。


 だから、

 実際に死にもして…。


 でも、

 まさか、

 生き返るとは。

 

 いや、

 勘違いしてはいけない。

 これは生かされたんじゃない。


 きっと、

 見捨てたあの時に罪を背負ったのだ。


 それは…、

 死ぬ事すら、許されないほどの──


 だがそれは、誰も知らない罪だった。

 彼の中にしか存在しないリアルだった。


 そう、誰も知らないなら?

 バックレてしまえばいい。

 誤魔化す必要すらないのだから。


 しかし、だからこそ、


 誤魔化す相手がいないからこそ

 誤魔化せなかった。

 自分だけは誤魔化せないからだ。

 

 だから、

 立ち上がるしかなかった。


 そうだ。

 自分には救う責任があるはずだ。


 そう思った。本当だ。

 でも甘かった。突き付けられたのだ。





 自分こそが…



   …誰かを犠牲にして、在った。





 いや今更だ。自覚はあったのだから。

 でも全く足りてなかった。

 今更に恐ろしい。おぞましい。

 こんな自分から逃げ出したい。


 いや、目を逸らしちゃいけない。


 逃げ出したい?どうせ逃げられない。

 そうだやめとけ。

 逃げた先で今度こそ、呑まれちまうぞ。


 逆に呑み込んじまえ。


 絶対に守りたい人だっている。

 だからほら、しっかりしなくちゃ…

 …って、おい。


 だったらなんで、その人を巻き込んで……


 …ああそっか。それすら許されないか。

 そうか。上手くいかない。

 本当、上手くいかない。

 何もかも──


 ならもう、


 何もかも無くなっちまえば──

 自分自身を失くしてしまえば──


 楽に────だ からっ、


 そんな事を思う自分が何より恐い。

 いや待て…

 こんな繰り返し…

 これからもずっと──?


 

 ──知るか!


 何であろうが、

 何がこようが、

 何になろうが、

 もう知るか。

 やってやる。

 やるしかないのだ。

 やってやる。


 ドンとこい──











   ──嘘だ。


 ただの強がり。


  怖かった。

 本当は、ずっと怖かった。

   今だって怖い。


  これからもきっと──



 …このように、

 彼に付きまとうのは究極の選択。

 その後に待っているのは極限の葛藤。


 …常人が耐えられる境地ではない。

 狂って当然の境地だった。

 それでも狂わずにきた。


 それでも蓄積されるのだ。


 彼が暴走するスキルに見せられたあの、混沌なる景色…あれは皮肉にも、彼が立つ致点をよく表していたかもしれない。



 香澄もそうだった。



 まだ気付いていないが、彼女も迫られていた。ずっと迫られてきた。


 それは世界に──苦難はこれで終わりではない。平均次と共にあるならこれからさらに降りかかる…それでも、共にあると言えるのか。


 そして許されてもいた──どちらを選んでもかまわない。どうせ平均次は滅ぶ定め。共に滅ぶか滅ばないか。お前はそれを選ぶだけ。


 その一方で香澄は問われてもいた。ずっと問われていた。それは均次に──それでも選ぶと言うのなら。自ら選んでしまうというのなら。


 思い切りという覚悟…違う、全く足らない。毒を食らわば皿まで…それでも足らない。


 その、噛み砕いた毒皿を決死の貪欲で吸収し切る、それをやり続けながら薄氷の上を彷徨い走る。


 それをするには世に言う覚悟、それすら鼻で笑える狂った覚悟が必要で。それはもはや境地と呼べるものでなく、狂地…そんな所へ連れていく。それなのに…それでも。







 『…ついて…きて、くれますか…?』


 





 迫られるまま、迫られている事にすら気付かないまま。


 問われるまま。何を問われているのか理解が及ばぬまま。


 香澄はあの絶望という死地の底、澱む恐致(きょうち)を垣間見た。


 そこでは『どうしようもない』と諦めかけた。それでも諦めなかった。


 絶望を喰い破り、這い上がり、やっとの想いで立った境地で、遂に、




 狂ってしまった。現実は甘くなかった。




 確かに。均次が躊躇い続け、問い続けてしまうのも当然の事。彼の狂地は、立てばいいというものではない。狂って当然の境地にいながら、それでも狂わずに立ち続けねばならない。


 それでやっと均次(怪物)()られるという致点。


 

 当然、世界はそれを知っていて…つまり、香澄はやはり、無罪放免とされてなかった。



 均次の狂地に共に立つ。

 世界に逆らう罪を負う。

 世界はそれをあえて放任。


 ただ残酷を見守る事しかしなかった。

 ただ残酷に見送る事しかしなかった。


 香澄が、世界の敵である最愛(均次)によって最悪(狂地)へと導かれるこの、瞬間まで。


 これは祝福と呼ぶには皮肉に過ぎる。いつか香澄も気付くのだろう……いや、仮に自覚しても彼女はきっとこう言う。



 後悔はない。むしろ踏み込んだ以上──



 『 征く… …思い知らせる 』



 あれは誰に言ったか。蜘蛛か。世界か。それともこの期に及んで覚悟を問う均次にだったか──何にせよ、彼女は口火を切っていた。



 あの時、真に始まった。

 この絶望的に過酷な物語は。



 それも、均次と香澄だけで完結しない物語。二人を巡る因果があまりに強く、関わる全てを絡めとってはきつく編まれる物語。


 だから造屋才蔵も、造屋才子も、もう戻れない。鬼怒守義介も、ヌエも、キヌも。密呼も。そして、



 『臼居忍』、彼女もそうだ。



 奇しくも同時期、どん底という釜で愛する者を見詰めた二人。


 香澄にとっての均次。忍にとっての両親。苦く熱く煮たったそれを、それでもと飲みほす事を選んだ彼女らはもう、出会ってしまった。



 ──だから臼居忍よ。



 また、救ってやってくれまいか。


 こんな哀れに(さち)(もてあそ)ばれ、それでも足掻く愚か健気な狂女(同類)を。何故なら、まだ終わるには早すぎる。この物語の先にはもっと、






 ──楽しい残酷が待っている。






 そんな風に世界が嗤っていた事は、誰にも知れるはずもなく──いや、一人いた。




 …いや、『ひとつ』だ。




 ほんの一瞬であったが世界の理から外れ、それが原因で世界に捨てられる残酷を知った者──でなく『物』。



 『それ』は、言った。



『おい…ならねえのか。なんとか』



 そう、その『物』は言葉を操れた。



『おい、聞いてんのか。臼居忍』



 だから忍もすぐには気付けなかった。



「…え、誰?」

「…?どうしたの忍ちゃん?」



 一号の様子から察するに、彼女には聞こえてなかったようだ。しかし、自分のすぐ近くにいてあれが聞こえなかったというのはおかしい。それほどはっきりと聞こえた。その困惑を察したのか、



『あー、聞こえてねぇから。俺の声は。お前にしか。証明するからそれを。だからほれ、言ってみろなんか、頭の中で』



(え……………えっと、ええええ!?いや、誰?どこにいるの!?)



『握られてる。お前の右手に。今』



 ぎょっとしながら右の手元を見る忍。しかしそこにあるのは、小太刀しかない。



『あと、聞かれてもな誰とか。まだねぇんだわ。名前』



 そう、まさかのまさか。声の主の正体はその小太刀だったのである。



 そう、『彼』には名がない。強いて呼ぶなら『今は無銘の小太刀』──仮の所有者であった香澄の家に安置されていた妖刀であり、世界がこうなってダンジョンコアにされかかった所を平均次に救い出された、曰くの付き過ぎた厄物でもあり、それからは香澄とずっと共にあったがそれも今、忍の手に渡って何故か──今更になって彼女に念を送っている。



『戦え。俺を使って。あの蜘蛛と。そしてなんとかしてやってくれ。俺の…元主人を』



「…え?」



 口振りからして、性急なところがあるようだ。



『だから。しょうがねぇから認めてやる。俺の主人に。お前を。だからほら、戦え』


 というか、


「…え?」


 このあまりな展開に、


『呆けてんじゃねぇ来るぞおら!見ろ!前を!』


「え!」


 しか言えない忍なのである。




 第三者視点が続いてしんどいと思われた方ごめんなさい。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ