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二周目だけどディストピアはやっぱり予測不能…って怪物ルート!?マジですか…。  作者: ヤマタカコク
第十層 エネミーオブザワールド 編
103/116

100 戦場のバフカスタム。




 手足を武器と見立てるイメージが功を奏したようだ。


『【魔力練生LV8】に成長します』


 またスキルレベルが上がった。それも『魔力による補正の全て』を強化し、引いてはスキル習熟にまで効果を及ぼすスキル【魔力練生】のレベルが。

 これは幸先がいいと思った香澄は、この際なので自身のバフ状況を見直してみれば、


 やはりだ。集中のあまり気付けなかったのだろう。効果が切れたバフがいくつもあった。



 だからまずはと、【運属性魔法】の一つ『バイオリズム操作』を掛け直す。



 さっきまでどん底をさ迷った分、何らかの景気付けが欲しかったのだが、


( うく…ぷぷっ  …ダメ、まだ、)


 掛け直した途端にこれ。例のハイテンションを無理矢理抑えつける。今は冷静に戦力を調整したかった。



 次に確認したのは【運属性魔法】の『命中率操作』と『回避率操作』。



 これらは主力バフとして欠かさずにいたのだが、効果時間がそろそろ終わりそうだった。なのでまた掛け直そう…として止める。


 回避や命中で『運』に頼るという行為は戦闘勘を鈍らせる恐れがあるし何より、折角の負荷を減らしてしまうと思ったからだ。

 というよりこのバフは蜘蛛によって無効化されたも同然であった。他のスキルの成長を妨げてまで持続する必要もない。


 

 次も【運属性魔法】、『クリティカル率操作』。



 これについてはかけ直す。多く使えば【運属性魔法】のスキルレベルが上がるだろう。

 それにクリティカルを多く発生させれば、【クリティカルダメージ増加】も成長する『…かも、しれないです』と、均次が言っていた。もし本当に一挙両得で育てられるなら今後も優先的に発動すべきだろう。

 


 【身大強化】や【加速】のアクティブスキルは常時発動していたが止めておく。



 これもやはり、負荷を上げるためだ。というより、ここまで蜘蛛の攻撃は最小限の動きで対応出来ていのだから不要だったかもしれない──なんて事を思っていると一気に身体が重く感じた。反応が遅れそうになる。


( 危 ない! )


 蜘蛛の攻撃がかすりそうに。筋力と速度の強化を一気に手放したのだからこうなって当然…いや、他にも原因があった。

 香澄は『庄』の英才教育により、世界がこうなる前から魔力による肉体強化が出来ていた。…のだが、どうやらその既知が彼女の認識を阻害していたようだ。

 魔力操作の上達によって得られる実感より、スキルレベル上昇による効果上昇の方が数段上であるようだ。だから感覚が追い付かず、回避が遅れそうになった。


「じゃぁ こうすれば…」


 言いながら『知』魔力と『速』魔力の相乗効果、その出力を無理やり引き上げてゆく。

 確かにこうすれば演算力が上がり、動体視力も上がり、反射速度も上がる。肉体強化系スキルOFFの穴埋めにはなる。しかし…



『【身大強化LV2】に上昇します』

『【加速LV10】に上昇します。上限到達。【疾風LV1】に進化しました』



 無理に引き上げられた感覚に無理矢理合わせた無茶な動きが、『負荷の相乗効果』とでも呼ぶべき現象を引き起こした。

 これは均次も知る裏技であったが彼は使っていない。使わなかった理由は当然、これが危険な行為であり、



『【負荷耐性LV4】に上昇します』

『【疲労耐性LV4】に上昇します』



 こうして耐性スキルのレベルまで上げてしまうからだ。

 香澄も耐性スキルについて『上げすぎると負荷が減ってしまう』と均次から聞いていた。それを思い出していると、


『【打撃耐性LV1】を取得しました』


 これは聞いた事のない耐性スキル。つまり均次は持ってなかったはずだ。それが発現したのは何故かと言えばおそらく、敵の攻撃を『素手で』迎撃していたからだろう。

 近接攻撃の際、必ず生じる反動を武器を介さずダイレクトに受け止め、蓄積されたそれが負荷と認定されてスキル発現に繋がった。


 もしそうならスキルの育成とは中々に難しい──そういえば、あれほどの絶望を味あわされたというのに、【精神耐性】のスキルレベルが上がってないのはどういう理屈か。そう思った瞬間、


「ぁ、」


 横たわる均次が視界に入った。


 そして納得した。


 彼はまだ生きている。


 だからなのだと。


 何故なら【精神耐性】は均次が【界命体質】を試した際、また死んだかと勘違いして取得したものだったから。

 あの時のショックに比べれば大した負荷でなかった、という事で──そうだ。彼はまだ生きている。希望はまだある。 



「これくらいでいい… かな」


 

 スキル、魔法、魔力。それぞれで工夫を凝らした、自分なりのバフカスタムが完了した。あとは実戦でどこまで耐えられるか。



 ──ブオッッ



 相も変わらず。

 蜘蛛が巨脚を振り下ろす。

 何となくの雑さを感じる。


 どうやら、蜘蛛はまだ気を取り直す事が出来ていない。カスタムの試運転にはちょうど良さそうだ。


 そんな事を思いながら、また最小限の動きで避けながら、添わせる手刀に三つの魔攻スキルを纏わせる。イメージと共に自信を深め、容赦なく、、



 振り抜いた──ズッザガザガザガザ「ぁぅ、」ガザザッッ!



 …やはり【身大強化】と【加速】のOFFが響いている。少し身体が泳いでしまった。

 しかし相乗効果の出力を上げたし、掛け忘れていた『バイオリズム操作』の効果も復活したのでプラマイ…



「少し… マイナス?」



 それぐらいで済んだなら良し。【連撃魔攻】が生む魔力塊も問題なく相殺出来た。なら悪くない結果。あとは体術の工夫次第と早速動きを改良し、



「やれそう…」



 …このカスタムは使える。確信を得た香澄は、蜘蛛を見据え、()()()()()()



「 征く …思い知らせる 」




 言いながらイメージを深める。


 手刀を『戦鉈』に見立てる。


 それを蜘蛛脚に添わせるようにぶつけてゆく。


 これは自ら負荷を発生させ、それをブン奪るという行為。


 あるいは絶対勝てない相手にその場で成長して勝ちにいく、そのために自ら危険度を跳ね上げてゆく大無謀。


 謂わば『命懸けマッチポンプ』誉められたものではない。


 それでも──


『【斬撃魔攻LV10】に上昇します。上限到達。【剛斬魔攻】と【斬刻魔攻】の二つから進化先を選んで下さい。』


(──早速?)


 進化前で上がりにくくなっていたスキルのレベルが、早速上がった。



 これぞ香澄が開眼した『均次の境地』。



 だからという訳ではないが、この進化先は彼と同じ【剛斬魔攻】とした。

 一撃に特化したスキルだ。ちなみにもう一つの進化先である【斬刻魔攻】は連撃特化であるらしい。

 連撃特化と言えば蜘蛛が使う【連撃魔攻】を連想するが、この【連刻魔攻】もあれと同じような形態をとるのだろうか。

 攻撃判定のある『攻』魔力塊を追随させる多重斬撃…確かに便利な性能だ。

 しかし身体と魔力の両操作に自信のある自分と均次なら自前のコンビネーションに一撃特化の魔攻スキルを纏わせた方が、より大きなダメージを狙えるはず。そう思ってこれにした。

 

(それにしても…)


 こうして戦闘中、色々考えながらカスタマイズするという行為は、


「ふふ」 楽しい。


 さっきまで絶望の淵にいたというのに、笑いが込み上げて仕方がない。

 これは『バイオリズム操作』の影響もあるのだろうが、それを抜きにしてもきっと『楽しい』と思ったに違いなく…



( ダメ 今は 戦闘中 )



 横たわる均次を見る。気を引き締め直す。蜘蛛の攻撃がくる。ほら動いて。迎撃しなくては。


 先ほどは手刀を『戦鉈』に見立てた。


 今度は肘を『鉄杭』と見立てる。


 ──ギュルっ!


 蜘蛛の脚を回避しながら回転しながら、突き刺すようなバックハンドエルボー。

 ぶつけた瞬間、もう一回転!魔力塊もついでと撃墜、もう一回転!二連追撃!



『【回転LV1】を取得しました』



 今のは中々効率が良かった。良い負荷を得た。その証拠に新たなスキルを取得した。


 …違う。


 この動きは人体構造を敢えて無視し、効率など度外視してでも貪欲に超負荷を求めた不自然な動きで…なるほど、均次がやたら回転していた理由が分かった。


 激闘の最中でこんな曲芸…心身にかかる負荷がとんでもない。だからあれ程スキルが成長していたのか。


 ならばとそれに倣ってみる。


 攻撃がくる度に回転を意識しながら繰り返してみれば、やはり。



『【刺突魔攻LV10】に上昇します。上限到達。【貫通魔攻】と【連突魔攻】の二つから進化先を選んで下さい。』


 

 …またも上限到達か。今回の進化先は【貫通魔攻】とする。

 これも一撃特化だ。均次と同じ…いや、『均次と全部お揃いにしたい』という思いもなきにしもあらずだが勿論、それだけじゃない。


 各種魔攻スキルの重ね打ち。


 このテクニックは確かに便利で強力だが、コントロールが中々に難しい。


 だから『一撃特化なら一撃特化だけ』で統一した方が重ねやすい、そう思ってこれにした。均次が一撃特化で『魔攻スキル』統一したのも同じ理由だったのだろう。



『【衝撃魔攻LV10】に上昇します。上限到達。【直撃魔攻】と【連鎖魔攻】の二つから進化先を選んで下さい。』



 【衝撃魔攻】も上限に到達した。しかし進化の分岐が今までとは少し違うようだ。


 【直撃魔攻】は敵に打ち込んだ際、その箇所の内部にダメージを集中させる。

 【連鎖魔攻】は敵に打ち込んだ際、内部全体に波打つような衝撃を伝える。


 つまりは『衝撃集中型』と『衝撃伝播型』に分岐するようだ。


 香澄はここでも均次と同じ【直撃魔攻】を選んだ。


 伝播型の方が全身にダメージが行き届いてダメージ総量としては高くなるかもしれない。もしくは敵弱点に必ず衝撃が届くため、確実にダメージを与えられるのかもしれない。


 そう思いもしたが…この蜘蛛のような超大型モンスター相手でも身体全体にちゃんと伝播するものか。それが無理でもせめて末端から中心までちゃんと衝撃が届くのか。届いた時はどれ程のダメージとなるのか。どれも不明瞭であった。だから選ばなかった。


 

 …ああ、今は戦闘中。それなのに…



 こうしてじっくり選択出来る余裕があるのは、彼女の心が回復した事もあるが、器礎魔力の相乗効果を無理に引き上げ脳の回転が無理矢理に引き上げられている事も影響していて──つまりは、なかなかに危うい事を香澄はしている。それなのに、



(やっぱり 楽しい)



 こんな事を思ってしまう。危ういと思う。しかしこうなっても仕方がないとも、思ってしまう。


 戦闘が終わった後に、次はどうするか。そんな考察をする事ならあった。


 しかし考察しながら戦闘をしながら、その考察結果を即座実践し、即座にその成果が…しかもこうして連続で反映される事などなかった。


 ゲーム感覚に近いそれを、実戦の厳しさを知る香澄は新鮮に受け止めてしまう──生まれて初めて戦闘が楽しい──だからしょうがない──しかし──これがベストかどうかは──別の話だ。






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