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災禍の獣と骸の竜  作者: nauji
終章 四周目 骸の竜
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Epilogue ヒトって不思議

 ヒトという生き物は実に興味深い。


 興味が尽きない。


 見ていて飽きがこない。


 複雑かつ高度な思考と感情を有している。


 竜や精霊に比べればつたないものの、動物のそれとは明らかに異なる。


 未だ見ぬジュウジンなる存在に対しても、いやが上にも期待が高まるというもの。


 まさか災禍の獣が、そのような存在を生み出してみせるとは。


 予想外にも程がある。


 前例が無い。


 彼の異形は、他の生物を模倣する性質を有してはいる。


 竜にしろ精霊にしろ、模倣されることを最大の禁忌と戒めるほどには厄介な代物だ。


 だがしかし、知的生命までをも模倣してみせるとは、想像だにしなかった。


 このことからも、模倣されるリスクが、また一段と跳ね上がったわけだ。


 地上での発生率は、うんと減少した。


 そうそうお目にかかることもない。


 もしあるとすれば、こうした浮島に潜む可能性。


 かつて、まだ対抗手段が確立されていなかったころ。


 数多くの同胞たちが、自己犠牲をいとわず、大地と共に地上を離れた。


 その痕跡とも言える浮島群は詰まるところ、同胞たちの墓標に等しい。


 敵わなかったのであれば、浮島諸共消滅していることは必然。


 残っているならば、少なくとも道連れにはしてみせたということ。


 今までであれば、そう思っていたところだ。


 とは言えそれも、この浮島を発見するまでのこと。


 休眠という手段で以て、延命してみせるとは。


 此処で得られた数々の情報は、どれも高い価値がある。


 都度、情報共有を行っている同胞たちからの関心もまた、日に日に高まるばかり。


 もうしばらくの間は、情報収集に努めるべきだろう。






「やっほー♪」


『やっほー♪』



 いつも顔を見せにくる、小さなヒトだ。


 同胞の息吹を強く感じる個体。


 か弱いヒトたちの中にあっては、さぞや強力な個体なのだろう。



「なにしてあそぶー?」


『そうですねー』



 他の個体からも、おおよその身体能力は測り終えた。


 後はもう、強力な個体同士による接触でもない限り、有益な情報は得られそうにもない。



『力比べでもしてみますー?』


「おおー、しょうぶ?」


「おい駄竜。子供相手に何をするつもりだ」



 おっと、相変わらず目敏めざといことで。


 この個体は、能力こそ低いものの、高い行動予測の精度を誇るようだ。


 こうしてそばを離れず、警戒されているのがありありと伝わってくる。



『単なるレクリエーションですよー』


「また訳の分からん言葉を使いやがって。力自慢がしたいなら、あっちの建設現場の手伝いでもしてろ」


『竜は物作りには不向きなんですー。精霊みたく器用じゃあありませんからね』


「作れとは言ってない。不器用だろうが、物を運ぶぐらいならできるだろ」


『とても楽しいこととは思えません』


「いーやー。あそぶのー」


「あでッ。殴るな、痛いっての」


『おっと、弱い者いじめは良くないですよ』


「ぶぅーぶぅー」



 折角の素体。


 みすみす壊されてしまっては敵わない。



「ホント男の癖に情けないわね」


「性別は関係ないだろ。いちいち絡んでくるなよな」


「フンだ」


『最近は随分とご機嫌斜めですねー。もしかして生──』


「それ以上言ったら、ぶっ飛ばすわよ」


『ひぃッ』



 能力の低さとは相反して、狂暴な個体である。



「あそんでー」


『あーはいはい』



 尻尾にしがみつかれたので、そのまま左右に揺らしてみる。



「わきゃー!」


「間違っても怪我させるなよ」


『分かってますって』



 次は上下に。



「うきゃー!」



 この程度の力では、振り解けませんか。


 今度は回転。



「わふぅー」


「おいこら、やり過ぎだ!」


『あいたぁー』



 最近、遠慮が無くなってきましたね。


 扱いがぞんざいになってきたとも言えますが。



『いいですか? 暴力というのは、何も表面的な影響だけに留まりません。心にも見えない傷を負わせたりするものなのです』


「子供を振り回すのは、暴力には該当しないってのか?」


『これはじゃれ合ってるだけです。ねー♪』


「ねー♪」


「いいからやめとけ」


「えー、つまんなーい」


「遊びの内容が過激なんだよ。せめて背に乗せて歩くぐらいに留めとけ」


「おー、それやりたーい!」


『飛んじゃダメなんですか?』


「落ちたら無事じゃ済まないだろうが。飛ぶな、歩け」


『仕方がないですねー。じゃあ、お散歩しましょうか』


「やったー!」



 器用に尻尾から背までよじ登ってくる。


 少しくすぐったい。



『うひッ、あひゃッ、おひょひょッ』


「……その奇声は持病か何かか?」


『失礼な! くすぐったかっただけですよ。ではでは、出発しましょう』


「おー!」


「暗くなる前には戻って来いよ」


『分かってますって』






 この抉れた地面に沿って、ぐるりと一周でもすればいいだろう。


 背の翼を閉じ、四つん這いのまま、ゆっくりと進む。



「きゃー! たかーい!」


『飛んだらもっと高いんですけどねー』


「けちー」


『ですねー』



 周囲には多くのヒトと物が溢れている。


 こちらに気が付くと、慌てた様子で頭を下げてくる。


 話を聞いた限りでは、この地に居た同胞の扱いは、かなり酷いモノだった。


 同胞の無念を晴らすべく、こちらが行動するとは考えていないのだろうか。



「ふんじゃだめー」


『大丈夫ですよー。ちゃんと避けてますから』



 思考を読まれた?


 いやまさか。


 ただの偶然でしょうね。



『それにしても、まだ完成しないんですかねー』


「おしろー?」


『ですです』


「おしろ、おっきーから」


『ほほー、それは楽しみですねー』


「たのしみー」



 ヒトのサイズから推し量るに、それほど巨大な住居は必要そうには思えないのだが。


 これは精霊の影響なのかな。


 あの種族は、物を作るのが得意だし。


 住処にしたって、自然そのままではなく、何だかゴチャゴチャしたモノを好んでいる風だ。



「おしろ、かくれんぼするー」


『それも遊びの一種なんですかね?』


「かくれるー」


『ふむ?』


「さがすー」


『ふむむ?』


「みつけるー」



 隠れる、捜す、見つける。


 擬似的な狩猟でしょうか。


 あまり文化的とは言えませんね。



『他の遊びは無いんですか?』


「ほかー?」


『そうです。もっと文化的な遊びです』


「ぶんかてき? なにそれ?」


『まだ難しかったですかねー』


「むずかしー」



 ヒトという生き物は、竜に比べて知能が低い。


 もしくは、成熟に時間を要すると表現するべきか。


 竜ならば、生まれながらに、相応の知性を有しているものなのだが。


 そこは似なかったらしい。



『もっとこう、頭を使った遊びはありませんか?』


「あたまー?」


『そうです』


「うーん、うーん」



 子供への教育は行われていないのだろうか。


 いやしかし、だとすれば、独力で成長していることになる。



「ごっこあそび、かなー?」


『それはどんな遊びなんですか?』


「うーんと、まねっこ?」


『ふむぅ?』



 ごっこ、まねっこ。


 何だろうか。


 詳細については、他の個体に尋ねてみるべきか。



『色々な遊びを知ってるんですねー』


「えへー」


『お勉強はしないんですか?』


「うえぇ」


『おや? 勉強は嫌いです?』


「きらーい。つまんなーい」



 一応、何かしらの教育は施されているわけか。


 この個体の成長過程を観察することで、解明できるに違いない。



『知らないことを知るのは、とても楽しいことだと思いますよー』


「そうかなー」


『そうですとも』


「じゃあ、かわりにべんきょうしてー」


『なるほど、そうきましたかー』






 絶妙なペース配分で、日暮れ前に元の場所へと戻って来た。



「お、戻ったか。乱暴な真似はされなかったか?」


「ないー」



 身を伏せると、背から勢いよく跳び降りてみせた。



『そんなことしませんってば』


「どうだかな。前に掛け声つきで小突かれた覚えがあるんだが?」


『ちょっとした茶目っ気ですよー』


「骨が砕かれたんだが?」


『カルシウムが足りてないんですよー』


「何だそれは。また訳の分からんことを言いやがって」


『言葉が通じないってもどかしいですね』



 微妙に言葉が通じたり通じなかったりすることが、ままある。


 言葉自体は、竜も精霊も共通しているから、ヒトも同様らしいのだが。


 やはり、この閉じた環境では、進歩にも限界があったのか。



「どうせ勝手な造語でも使ってるだけだろ」


『そんなことありませんよーだ』


「おさんぽ、たのしかったー! またやるー!」


「まあなんだ。ありがとよ」


『デレましたね』


「だから分からんっての」



 感謝の言葉。


 ヒトはよくその言葉を口にしてみせる。


 非力だからこそ、協調性を大事にしているというわけか。



『もっとデレてくれて構いませんよ。ほらほら』


「爪で突っつくな! 胴体に穴が開いたらどうしてくれる!」


『大丈夫ですって。すぐまた治してあげますよー』


「穴が開くほうを否定しろよ!」



 竜は群れで行動しない。


 強く巨大で、他を頼みとはしない。


 精々がつがいというところ。


 そういう意味に於いても、ヒトは精霊に近しい生き物に思える。


 この地の同胞は、いったい何を思って、ヒトを生み出したのだろう。


 竜に似せるでもなく。


 どちらかと言えば、精霊にこそ近しい姿として。


 弱く、小さく、愚かで、幼い。


 生物として備えるべき力に欠けている。


 そんなモノが、あの災禍の獣をたおしてみせるとは。


 精霊の助力があったにせよ、信じ難いことだ。


 知りたい。


 どうして成し得たのかを。


 力も知恵も劣るモノに秘められし何かを。


 これで、当分の間は退屈などせずに済む。



『ふへッ、うへへッ、あひゃひゃひゃひゃッ』


「いちいち気持ち悪いんだよ!」


『あいたぁー⁉』






これにて本作は完結となります。

過去とは違う形で、再び集い始めた仲間たち。

主人公すら知り得ぬ未来が、これから先には待っているようです。


お楽しみいただけていれば、是幸いにございます。

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