78 生と死を分かつモノ
「いっつぅ~」
黒竜と精霊が天幕から出て行ってから少し経ったころ、赤竜が目を覚ました。
「──ッ⁉ そうだ、旦那は⁉ 旦那はどうした⁉」
いつもの間延びした口調は影を潜め、切羽詰まった様子で周囲を見渡す。
が、当然、黒竜の姿はもう、この場にありはしない。
いや、ある意味に於いては、もうこの世には、と言うべきなのか。
つい先程、壁を隔てた向こう側で、凄まじい咆哮が聞こえた。
赤竜の覚醒を促したのも、ひょっとするとその声だったのかもしれない。
「彼ならば、既に竜へと変じたと思われます」
この場を代表するかのように、そう局長が告げた。
「な……ジブンとお嬢は、お払い箱ってわけかい⁉」
「いいえ、それは違うでしょう」
「じゃあ何でだい⁉ 何で置き去りにされたんだよ⁉」
「生きてほしいと、そう願ったからではないでしょうか」
「旦那だって、同じ境遇じゃないかよ! それを今更、どうしてこんな真似をするんだよ!」
黒竜を止められなかった俺には、何を言う資格もありはしない。
それどころか、この戦いを強いた側なのだ。
彼を慕う全ての者から、責めを負うべき立場に違いない。
「……取り乱してすまない。アナタ方にこんなことを言っても詮無いね」
「ワタシたちに今できることは、彼の行為を無駄にしないことに尽きます。直ちに然るべき行動を取るべきでしょう」
「そうだね。旦那に後を任されたとあっちゃ、無様を晒してもいられない」
そのまま天幕を出て行こうとする背に続く。
「お嬢のこと頼むよ」
「俺に言うな。どうせ止められやしないだろ」
先程、誰に命令されるでもなく、白竜は此処を訪れてみせたのだ。
ならばそれは、白竜自身の意志。
やめさせたいなら、やるべきことは決まってる。
もう誰にも、竜なんかにさせないためには、怪物を斃せばいい。
「なら、さっさと終わらせようか」
「ああ」
正直、黒竜の姿を見るのが恐ろしい。
自分の仕出かした結果を目の当たりにすることが。
どうにも恐ろしくて堪らない。
それでも、目を背けるわけにはいかない。
ただただ拳を握り締め、再びの戦場へとひた走る。
300メルはあろうかという異形。
それに正面からしがみ付いていたのは、その半分ほどの大きさの、これまた異形。
黒き竜。
だが分かる。
分かるとも。
分からいでか。
人の姿では無くなっていても。
怪物を押し留めている異形こそが、黒竜その人なのだと。
「──くッ」
背後からでは、赤竜の表情は窺い知れない。
そして、そんなことをするために、こうしてこの場に赴いたわけでもない。
怪物を完全には静止できていない。
僅かずつだが、こちらへと接近している。
未だ数多くの魔獣を侍らせて。
しかも魔獣は、黒き竜を積極的に襲っている様子。
今すべきこと。
それは、黒き竜へと群がる魔獣の排除。
「旦那はやらせねぇ」
残されたのは声のみだった。
姿はもう、この場には無い。
向かったのだ。
肩を並べることは叶わない。
それが許されるのは、同じく竜の名を冠する騎士のみ。
未だ遠い。
この先も、届くことは無いのだろう。
さあ俺も。
すべきことをしようじゃないか。
前線は、かなり奥へと展開していた。
魔獣の狙いが壁から黒き竜へと変更されたからだろう。
騎士に交じって、王国勢の姿も散見される。
「小僧!」
「……先生?」
掛けられた声の主を捜すまでもなく、相手が隣へと着地してきた。
「無事なのか? 姿が見当たらんから、てっきりヘマをやらかしおったものと思っとったが」
「王国の撤退を手伝ったりとか、色々な。そっちこそ、休憩してなくて大丈夫なのかよ?」
「壁内はエルフ共が犇めきあっておる。おちおち休んでなどおられるか」
「まさか、エルフが何かしてきたんじゃ」
「いいや、それはない。だが、ワシらを見る目付き。世辞にも友好的とは思えん」
アイツら。
此処まで来ておいて、相変わらずなわけか。
「姉御ー! お、見つかったんスね」
「いきなり何も言わず居なくなるのはやめてくださいと、何度言えば分かってもらえるんですか」
「すまんすまん、ついな。許せ」
「おいついた」
「お、よく頑張ったッスね。偉いッス。褒めてあげるッスよ」
「えへへ」
新たに現れた人影に、視線が釘付けとなった。
灰色の毛を持つ、獣人の子供だ。
そう言えば、先生の戦士団に所属していたんだった。
この子もまた、参戦していたのか。
また1人、守るべき存在が増えた。
「……どうした小僧? 急に妙な顔をしおって」
「もう無茶はしないでくれよ。後は俺たちがどうにかするからさ」
「するとその中に、ワシらは含まれてはおらんわけか」
「いや、そういうことが言いたいわけじゃ」
「いい機会だ。小僧の腕前を間近で確かめさせてもらうとしよう」
「おい! だから下がってろって」
「ならば心配など要らぬと、行動で以て証明してみせろ」
「……ったくよう」
「ま、姉御の心配性は今に始まった話じゃあ──」
「ほう、もそっと詳しく聞かせい」
「あー、何でもないッス。記憶違いだったッス」
「幸い、魔獣の注意は、あの新手に集中しています。狩るならば、今をおいて他にないかと」
「武器も持たず戦場にまでノコノコとやって来おったからには、さぞ腕に自信があるんだろうな?」
「ウザ絡みするなっての」
置き去るようにして、魔獣の群れへと駆け出す。
そうか。
今、先生と肩を並べて戦ってるんだな。
妙な感じだ。
仲間ってわけでもないってのに。
騎士連中なんかよりも、よっぽど。
「どうしたどうした! その程度か!」
「うるせぇ! 余所見すんな!」
先生の突き立てた魔獣の骨を、俺が両の掌底で奥へと叩き込む。
かと思えば、俺が砕いた魔獣の足に対して、先生が追撃を見舞う。
「何か、息ピッタリッスね」
「そうね。とても感慨深いわ」
「どしたの?」
「いいえ、何でもありません。さあ、ワタシたちも後れを取るわけにはいきません」
「だね!」
「うん」
「……やはり妙だな」
「何だよ、どうかしたのか?」
魔獣から距離を取った先生が、そんな呟きを漏らす。
「あのデカブツへの攻撃が止んでおる」
「そりゃあ──」
魔石は怪物の足を狙っていた。
それが行われていないのは、黒き竜を巻き込まないためで。
いや待て。
それじゃあ、怪物をどうやって斃すつもりなんだ?
怪物を転倒させなければ、頭部への攻撃は届き得ない。
これでは、前回と同じではないか。
精霊や局長は、これからどうするつもりでいるんだ?
「何かあったのかもしれんな」
今の俺に何ができる?
考えろ。
頭を使え。
黒竜を無駄死になんかさせやしない。
「姉御? どうかしたんスか?」
「気になることがあってな」
どうすればいい?
黒き竜が怪物を転倒させられれば。
いや、あの体格差だ。
押さえ込んでいるだけでも、驚くべき状況だろう。
これ以上は望めまい。
竜が増えたならどうだ?
黒き竜と同じだけの体格があれば、怪物と力は拮抗するか、上回ってみせるかも。
いいやダメだ。
何を考えていやがる。
もう犠牲なんざ出して堪るかよ。
問題は頭部までの距離。
一応、今回の投石機は、高さにも対応しているとは聞き及んでいるが。
流石に、怪物が直立したままでは、届くはずもあるまい。
狙うならば、正面からではなく背面か。
後方に転倒させられたなら、頭部への攻撃も不可能ではなくなる。
投石機を此処まで運べずとも、魔石ぐらい人力で投げつけてやれば済む話だ。
残る問題は、魔石に魔力を注入する必要があること。
臨界を迎えた魔石は、程なく消滅現象を引き起こしてしまう。
投射の直前に臨界を迎えさせることで運用していたのだ。
俺の残りの魔力じゃあ、幾らも続きはすまい。
かなりの人数、魔術師を連れて来る必要がある。
『──門へ』
思考を遮るようにして、念話が届いた。
『次なる竜を以て、災禍の獣を仕留めます』
「なッ⁉」
「……突然どうした? 妙な声を出しおってからに」
次なる竜だと⁉
今度は赤竜か白竜を犠牲にするつもりかよ!
「悪い! 一旦門へ戻る!」
返事も待たず、言い捨てて駆け出す。
精霊の姿を見つけ、すぐさま怒鳴りつける。
「どういうつもりだ!」
「落ち着きなさい」
「こればっかりは聞けないね! 局長も局長だぜ! 帝国の奴なら、幾ら犠牲になっても構わないってのか⁉」
「キミ! 言葉が過ぎます! 局長は──」
「帝国であろうと王国であろうと関係ありません。どれほどの犠牲を払ってでも、斃す必要があるのです」
『彼の命が尽きる前に、行動を起こさねばなりません』
「精霊の力ってのは、人を竜に変えてみせるだけか⁉ 怪物の姿勢を変えるぐらいのこと、できないってのかよ⁉」
『ワタクシの得意とするのは生命魔術。魔獣程度であれば、その身を枯らしてみせることもできましょう。しかし残念ながら、災禍の獣には通用しなかったのです』
違う、そうじゃないだろ、俺。
そんな駄々をこねに来たわけじゃない。
他者を頼みとするな!
自分で行動を起こすんだ!
「聞いてくれ! 俺に考えがあるんだ!」
さっき思い付いた、背後への攻撃について捲し立てる。
『──無理ですね』
「何でだよ! 試してみなけりゃ」
『単純に時間が足りません。もう、彼の命は尽きかけているのです』
「そ、んな」
貴重な時間を無駄にした?
勢い込んで、前線なんぞで戦ってる場合じゃなかったのか。
不意に、誰かの手が頭へと載せられた。
「いいぜ、やるよ。今度こそジブンの番さ」
「オマエ……」
「手伝うって話、あれやっぱ無しで頼むわ」
「あ? 何の話だよ」
「ジブンの代わりに、帝国の非道を止めてくれ」
ああ、そうか。
そうだったな。
これ以上、アンタみたいな奴を増やさないためにも。
「さあ、とっとと済ませようや」
『分かりました。ですが、ひとつ心に留め置いていただきたいことが』
「何だい?」
『竜に変じてしまえば、人の意識を保ってはいられません。まかり間違えば、アナタこそが災厄を招きかねないのです』
「じゃあ、旦那はどうやって」
『意識をひとつの事柄に集中させてください。アナタがすべきことはただひとつ。魔石を抱え、災禍の獣の頭部へと至ることです』
「ひとつっていうか、ふたつのような……まあいいか。やってみるさ」
『他の方は離れて。では、目を閉じて跪いてください』
「あいよ。これでいいかい?」
すぐそばに槍を突き立てると、精霊の指示に従い跪いてみせた。
『ええ。それでは、御覚悟を』
またか。
また俺は、役に立てないのか。
いくら歯を食いしばろうが、手を握り締めようが、何にもなりはしない。
精霊の手が、赤竜の額へと当てられる。
瞬間、周囲に鼓動が響き渡った。
ドクン、ドクン、ドクン。
「ぐッ⁉ あがァ⁉ ぎィッ⁉」
赤竜が苦悶の声を上げる。
全身は激しく震え、口端からは泡を吹き出してもいる。
とてもではないが、正常な状態ではあるまい。
「お、おい!」
『来てはなりません!』
痛みすら覚えるほどの強い念話。
赤竜の体が眩く発光する。
輪郭が変わる。
歪に。
巨大に。
人ではなくなってゆく。
「GRAAAAAAAAAAAAAAAA!」
咆哮が迸る。
赤き竜。
黒き竜に比べて、細身の体型。
首も随分と長い。
体の数倍もある奇妙な膜を背から生やしてもいる。
と、赤竜が前腕を揮った。
それも足元を、こちらを目掛けて。
咄嗟のことで避けられない。
金属音が響き渡る。
巨大に過ぎる赤腕は、一振りの剣によって弾かれていた。
煌めいたのは銀閃。
眼前に立ち塞がっていたのは、白竜だった。
『……残念ながら、意識を呑まれてしまったようですね』
「では、彼はもう」
『ええ。本能のままに暴れ狂う厄災です』
ふざけんなよ!
好き勝手に言いやがって。
追撃を仕掛けようとしている白竜よりもさらに前へ。
赤き竜へと近付く。
「危険」
珍しいことに、白竜がそんなことを言ってみせた。
構わず進む。
影が差す。
頭上からは、踏み潰さんと足裏が迫りくる。
さっきは咄嗟のことで避けられやしなかった。
だが、今は違う。
予見してさえいれば、避けられる。
なあおい。
こんなもんじゃ無かっただろ?
アンタの速さは、こんな程度じゃあ無かったじゃないかよ!
揮われた足裏を躱し、残るもう一方の足へと離脱。
そのまま手で触れる。
残りの魔力をありったけ。
五指へと収束させる。
とっておきを使ってやるよ。
≪支配≫
精神魔術の上級。
抑止のためにと生み出した、新たな魔術。
赤き竜が、その荒ぶりをやめ、大人しくなった。
効いている。
『これは、いったい……?』
「こんなことに使うつもりはなかったんだがな」
「上級魔術、ですか? それも、既存のどれとも違う新たな……?」
「使うのは初めてなもんでね。いつまで持つか分かったもんじゃない。魔石は何処だ?」
「すぐそこです。箱詰めにしてあります」
「なるほど。じゃあ、離れててください。できれば、前線の連中を引き上げさせてくれると助かります」
「それで、アナタはどうするつもりなんです?」
「これは遠距離使用を想定していないんで。なので、このまま一緒に」
「ダメです! それではキミまで!」
赤き竜の腕を動かし、掌へと跳び乗る。
その間も、常に触れ続ける。
離してしまえば、すぐまた暴れ出してしまう。
持ち上げてもらい、頭頂へと降り立った。
『よろしいのですね?』
地上は遠い。
もう、こちらの声は届くまい。
念話で応じるだけの魔力も残っちゃいない。
『竜とは、この世界で唯一、空を飛翔する存在。背の翼であれば、災禍の獣の頭部へと至れることでしょう。どうか、御武運を』
空を飛ぶ、ねぇ。
どうにも想像が及ばない。
『戻りなさい! 戻って! 離脱できるとは限らないんですよ⁉』
今回の副局長は、随分と過保護だよな。
妙なもんだ。
大して過ごしていないどころか、会話してさえいないってのに。
地上へ向け、頭を深く下げておく。
無事戻って来れるかは分からない。
死んでしまえば、また一からやり直し。
『箱を持たせてください。その後、魔石を臨界させます』
精霊からの指示に従い、赤き竜に箱を掴ませる。
『この先は時間との勝負になります。僅かも無駄にすることのないよう、くれぐれもお気をつけください』
飛べなきゃ終わる。
間に合わなくても終わる。
この瞬間のやり直しなど叶わない。
緊張が体を強張らせる。
ああくそ、喉が渇いて水が飲みたくなってきやがる。
『──今です!』
うぐおッ⁉
体が吹っ飛ばされそうになるのを、必死にしがみつくことで堪える。
至近に怪物。
飛んでいる感覚など皆無。
壁から怪物まで、一瞬で移動してみせた。
余裕も余裕。
頭部よりも高い位置から箱を落下させてしまえば、離脱も容易い。
頭部まで、後ほんの僅か。
そこで急に動きが止まる。
反動によって、またしても吹っ飛ばされそうになる。
いったい何がどうしたというのか。
頭部はすぐそば。
これほど至近から見たのは初めてのこと。
毛だ。
頭も、顔面と思しき場所も、全てが長い毛で覆われている。
目も鼻も口も見当たらない。
全体像は人型に近しい。
が、やはり人などでは決してないのだ。
「AGYAAAAAAAAAAAAAAAA!」
絶叫が頭蓋を揺らす。
赤き竜が吼えている。
振り落とされぬようしがみ付きながら、ソレを見付けた。
指。
毛に覆われた指が、赤き竜の胴を掴んでいた。
動けない理由はコレか!
しかしどうする⁉
赤き竜からは、一瞬たりとも手が離せない。
魔石が消滅するまで、もう数瞬の猶予もあるまい。
どうする、どう動く。
この位置から怪物の頭部までは、それこそ目と鼻の先ほど。
であれば。
赤き竜の首を巡らせ、箱を咥えさせる。
これで距離を埋められる。
しかし残念ながら、離脱は叶いそうにない。
な、んだ、と?
赤き竜は、ただ捕らわれたわけじゃなかったのか。
先程までよりも、さらに至近に迫る怪物の顔。
そう、顔だ。
いや、依然として目も鼻もありはしない。
新たに現れたのは、頭部丸ごと左右に開かれた、巨大な口。
形すら自在に変えられるのか。
今まさに、赤き竜の頭を喰らわんとしているのだ。
周囲の暗さが増す。
黒雲から隠され、口内へと入ったからだ。
だが、このまま喰われたとしても、消滅現象の巻き添えにはできる。
まあこれで、逃げることは不可能になっちまったわけだが。
臨界。
一際眩く、白き光が迸る。
箱から生じるのは、球状の力場。
触れるモノ全てを消滅させてゆく。
「んがッ⁉」
首根っこを物凄い力で引っ張られた。
強烈な既視感。
記憶が刺激される。
こちらの当惑などお構いなしに、その場から遠退いてゆく。
頭から首へ、首から胴体へ、胴体から尻尾へ。
無理矢理首を捻ることで、ようやく相手を確認する。
思ったとおりの黒髪。
ではない。
靡くのは、長い銀髪。
いつの間に、そしていったい何処に潜んでいたのか。
白竜が俺を掴んだまま、そのまま宙へと身を躍らせた。
消滅の波からギリギリ逃れる。
地上は遠い。
それでも、すぐに到着してみせることだろう。
全身から血の気が引く。
落ちる。
落ちてゆく。
眼下では、黒き竜の体が崩れ始めていた。
その只中へと落ちゆく。
上空からは、消滅を免れた赤き竜の体の一部が迫る。
周囲には黒き竜の崩れた体。
絶命の危機は未だ過ぎ去ってはくれない。
白竜が必死で朽ちた体を足場に、外を目指してひた走る。
足場が溶けた。
そう思うほど、呆気なく塵となって消えてゆく。
白竜の足が空を切る。
もう、頼みとする足場は存在してはいなかった。
地上へ向け、ただ落ちゆく。
「──また性懲りもせず、死にかけおって!」
聞き覚えがありすぎる。
思わず、失笑してしまうほどに。
「まさか、態とやってはおらんだろうな!」
俺を横抱きにした白竜諸共、先生が抱き留めてくれていた。
ようやくの地上。
だが、まだだ。
まだ絶命の危機は去ってなどいやしなかった。
赤き竜の体。
それに加えて、怪物の体もまた、倒れ込んで来ていた。
魔力切れに伴う眠気。
それに抗い、脚を動かす。
「走れ走れ走れ走れ走れ! 振り返るな! 足を止めるな! ただ前へ駆けろ!」
応える余力などありはしない。
どうせなら、抱えて走ってくれよ!
残る全ての力を揮い、生還に賭ける。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。




