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災禍の獣と骸の竜  作者: nauji
八章 四周目 災禍の獣
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71 不和

 黒竜たち3人が出立してから3日。


 爺さんの提案どおりに、北壁ほくへきの外にて魔獣討伐を続けていたが、とある問題が勃発していた。


 戦士団との衝突だ。


 元々、この北区では、戦士団が定期的に各門を開いて、魔獣を間引きしていたわけで。


 俺たちが外で魔獣討伐していることにより、彼らの食い扶持を横取りしている形になっていた。


 一方で、死骸を持ち去るような連中もいたようではあったが。



「この際だ、ハッキリ言おう。邪魔だ、早々に帰ってくれ」


「我輩たちは皇帝陛下の命を受けておる。しかも、王国に承認を得た上でな。たかが凡夫風情が、出しゃばるでないわ」


「オレは此処の顔役みたいなもんでね。オレを含めて、此処の連中は、アンタら帝国が大嫌いだ。その上、こんな真似を続けられるようじゃあ、堪えるもんも堪えきれやしない」


「好悪なぞ知ったことか。もうよい、さっさと追い払え」


「「ハッ」」


「おっかない連中は出払ってるんだろ? だってのに、オレをあしらえるつもりでいるのか。随分となめられたもんだな」


「おい、さっさと来い」


「おっと」



 騎士が背を強く押した所為で、男がつんのめった。


 瞬間、周囲の者たちから、怒気が漏れ始める。



「散れ散れ! 現在、この辺り一帯は帝国領も同然! キサマらが容易く足を踏み入れて良い場所ではない!」


「あ”? 何だとゴラァ⁉」


「帝国の犬共が! キャンキャン吠えてんじゃねぇぞ!」


「出てくのはテメェらのほうだ!」


「団長、やっちまいましょうぜ」


「連中なんざ、叩き出しゃあいいんだ!」


「そうだぜ団長!」


「だから言わんこっちゃない。もう火が点いちまったぜ?」



 ああ、そうか。


 見覚えがある気がしてたが、あの酔っ払いの団長か。


 王国最強の戦士。


 以前は、どれほどの強さか分からなかった。


 けど、今なら分かる。



やかましい連中めが。身の程をわきまえい」


「ハッ、そりゃあこっちの台詞だ。さっさと飼い主の元へ逃げ帰るんだな」


「……暴徒と断定する。鎮圧せい」


「「ハッ」」


「いくぞオメェら!」


「「応!」」



 並みの騎士よりは強い程度。


 脅威とまでは感じられない。


 あっちに手を貸す必要はなさそうだ。



「なあ爺さん、流石に横暴過ぎやしないか?」


「何じゃ、其方そちまで偉そうに文句を垂れるつもりか」


「今回、世話になってるのはこっち側だろ」


「王国が帝国に尽くすのは至極当然のことじゃ」


「当然だあ? 王国はもうとっくの昔に、帝国から独立してるんだぞ。今更、何の義務があるってんだ」


「未だ王国民のような口振りじゃな。其方そちはもう帝国の騎士なんじゃぞ。立場をようわきまえい」


「帝国だから何だよ? 好き勝手に振舞っていいわけじゃあないだろ」


「良いとも」


「あ?」


「帝国の慈悲無しに、王国は存続せぬ」



 このジジイはよぉ。


 どうしてこう、行く先々で余計な軋轢あつれきを生まずにはいられないのか。



「獣人にもエルフにも、そして王国にだってそんな態度かよ。いったい、何様のつもりなんだ?」


「何も理解しておらんな。騎士学校で何を習っておったんじゃ。帝国こそが、世を支えるいしずえ。人族が集い、敬い、尽くすべき唯一にして絶対のモノじゃ」



 どうにも話にならないな。



「──お喋りはもう済んだか?」



 不意に掛けられた声に振り向くと、先程の団長が立っていた。


 騎士は……残念ながら、全員がのされたらしい。



「もう言い逃れはできぬぞ。帝国に逆らって、タダで済むなどとは思うでない」


「此処は王国だぜ爺さん。いつまで寝惚けてやがる。きつい目覚ましが必要かい?」


「ほざくな下郎めが」



 ハァーッ、やれやれだ。


 俺がこの場をどうにか収めるしかないのかね。



「落ち着けよ。何もずっと居続けるつもりはないんだ。用事が済んだら撤収する」


「オレの許可も無しにか? 随分と礼儀がなってないな」


「辺境伯はどう言ってるんだ? アンタが勝手に決めていいもんなのか?」


「帝国が貴族の顔色を窺うのか?」


「王国が貴族をないがしろにするのか?」



 手が届く距離。


 互いに視線は逸らさない。



「団長、やっちまえ!」


「そんなガキ、さっさとのしてくださいよ!」


「あのジジイは、ぜってぇ逃がすなよ!」



 あまり行儀のいい連中じゃあないらしい。


 放っておくと、爺さんがボコボコにされそうだ。



「退きな。子供に手を上げたくはないんでね」


「退けないね。もしアンタらが後ろの爺さんに手を出せば、それこそ大問題だ」



 悪いのは、どう考えてもこちら側の態度にある。


 相手のいきどおりは当然だ。


 けどだからって、暴力はいただけない。


 人同士でいがみ合ってる場合じゃあない。


 壁の向こうにいるはずの怪物。


 たおすためには、できるだけ多くの者の協力が必要。


 今後にも支障をきたす。



「既に大問題だ。人に物に店にと、どれだけ迷惑を掛けてるか、理解してないようだな」



 爺さんだけでなく、騎士まで好き勝手やらかしてるのか。



「それについては謝るよ。今後は是正していく」


「今後なんて無いのさ。これっきりだ」



 威圧される。


 体の重みが増す。


 が、この程度、どうってことない。


 こちとら、赤竜や白竜を相手に訓練を重ねてるんだ。



「ほう? これで臆さないとは、子供にしては随分な胆力だな」


「そりゃどうも」


「どうして庇う? さっきの遣り取りからして、仲が良好とは思えないが」


「庇ってるのは爺さんじゃあない。アンタらのほうさ」


「……何だと?」


「さっきも言っただろ。大問題になるって。此処がもっと悲惨な目に遭うに違いないからな」



 威圧が消える。



「──やめだやめ。酔いも熱も醒めちまったぜ。おい、引き上げるぞ」


「は? 団長、いきなり何を」


「そうですぜ、このまま追い出しちまうに限る」


「ガキ一匹がどうしたってんですか。何ならジブンが」


「──聞こえなかったか?」


「い、いえ」


「おい! 撤収だ!」


「チッ、今日のところは、これで勘弁しといてやる」


「テメェら、覚えとけよ!」



 ……あれま。


 意外にも、すんなり帰ってくれたな。


 一戦も止む無しか、って覚悟だったんだが。



「連中を庇うじゃと? 呆れて物も言えんわい」


「騎士たちの素行不良については、爺さんにも責任の一端はあるだろ? 女だって居るんだ。何か起こる前に、対処しとかないとマズい」


「責任じゃと?」


「皇帝の命令ってのは、王国と仲違いしてこいってものだったのかよ。違うだろ」


「陛下を付けんか、れ者が。何度言わせるつもりじゃ」



 そこにはすぐに反応すんのな。


 律儀なもんだ。



「一兵足りとも無駄死にさせないとかも言ってたよな。この有様は、必要なことか?」


「ええい、もうよい。さっさと下がれ」


「目に余る連中は、勝手に対処しちまうぜ? そうだな、さっきの奴等に引き渡してやってもいいかもな」


「余計な真似をするでない」


「なら、ちゃんと対応しといてくれよな」






 宛がわれた宿から出ると、見覚えのあり過ぎる奴が待ち構えていた。



「やあ。昨日ぶりだね」


「……待ち伏せかよ。お礼参りされる覚えはないんだが」


「そう邪険にするなよ。話が通じそうなのは、オマエさんぐらいなもんだ。オレたちぐらいは仲良くしようぜ」


「生憎だが、野郎と仲良くする趣味はないもんでね。他を当たってくれ」


「おいおい、付き合いが悪いなあ」


「絡むな。さっさと酒場へ帰れ。この時間は酒を飲んでるんだろ」


「……おや? 妙なことを言うじゃないか」


「あ? 何がだよ」


「酒云々ってヤツさ」



 おっと、余計なことを口走ってたか。



「──彼から離れなさい」


「ん? もしかして、お邪魔だったかい?」


「聞こえませんでしたか?」


「なるほど。本当にお邪魔だったらしいね。機会を改めるとしよう」


「もう来るな」


「そう言うなって。またな」



 マジで何のつもりだったんだ。



「ごめんさない、出過ぎた真似でしたでしょうか」


「いや、助かった」


「何者です?」


「この北区で一番偉い奴、かね」


「? とてもそのような方には、見受けられませんでしたけど」


「で? 何か用だったのか?」


「そうでしたわ。お姉様方がお戻りになったそうです」


「……随分と早いな」



 確かに4・5日とは言ってたが。


 丸3日ってとこじゃないか。


 相変わらず、常人離れしてるな。



「全員無事なのか?」


「ええ。お姉様にも、御二方にも、怪我は無いそうですわ」


「そうか。そいつは良かった」


「つきましては、アナタを呼ぶよう、仰せつかった次第です」


「俺を? 何でだ?」


「理由までは存じ上げません」



 まさか、怪物が見つかったのか⁉



「朝っぱらから悪かったな。じゃあ──」


「着くまでの間、お話に付き合っていただいても構いませんか?」


「あ? ああ、それぐらい別に構わないけど」


「やった──コホン、では行きましょう」






 案内された部屋に、しかし3人の姿は無かった。



「爺さんだけか?」


「何か問題か?」


「いや、てっきり3人も居ると思ってただけだ」


「嬢たちならば、もう休ませておるわい」


「で、怪物は? 見つかったのか?」


「いいや」


「は?」


其方そちを呼びつけた理由は、その件とは関係ありゃせんわい」


「何だよ、無駄に焦らせやがって。俺はてっきり」


「随分と王国の輩を気にかけておったじゃろう」


「あ? 嫌味かよ」


「調査が中断しておる今、其方そちに相応しい役目を与えてやろうと思うてな」






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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