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災禍の獣と骸の竜  作者: nauji
八章 四周目 災禍の獣
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68 魔族領遠征軍

「皆揃って呼び出しなんて、只事じゃあないよね~」


「──チッ」


「おや~? 随分と機嫌が悪いじゃないか~。どうかしたのかい~?」



 いきなり城へと呼び出されたかと思ったら、有無を言わさず例の浴場へ直行だ。


 あの女共め。


 まさか、あんな手段を取ってみせるとは。


 過去2回の遣り取りで、学習していやがったのか。



「アンタは平気そうだな」


「ん~? 何がだい~? 意地悪せずに教えておくれよ~」



 最早慣れたものなのか。


 それとも諦めの境地へと至っていたのか。


 共に浴場へと放り込まれた赤竜は、一切抵抗を見せず、ただされるがままだった。



「いや、もういい」



 正装へと着替えさせられ、今はこうして謁見の間の扉の前だ。



「騒がしい。私語は控えろ」


「にしても、旦那が外に居るなんて珍しいね~」


「訓練は外でやってるんだし、そうでもないだろ」


「いや~、流石にそれは分かってるよ~。今言ったのは、陛下への謁見時にって意味さ~」


「同じことを二度言わすな」



 黒竜が凄みを利かせてきたので、大人しく口を閉じる。


 しっかし、こうしてみると場違い感が凄いな。


 黒竜に赤竜に白竜と、勢揃いだ。


 何で俺までが呼び出されたんだか。






 代表して黒竜が定型の挨拶を済ませ、すぐさま本題へと入る。



「世界が滅ぶそうだ」



 いきなりどうした?



「──恐れながら、発言をお許し願えますでしょうか」


「構わん。申せ」


「ハッ。今し方のご発言、どういった意味でありましょうか」



 ここでも黒竜が率先して動いてみせた。


 とは言え、傍らに爺さんが居る以上、おおよその見当はつく。



「爺、説明せい」


「畏まりました。では僭越ながら、陛下に代わり我輩がお答えしよう」



 話の内容は予想どおり、例の怪物についてだった。


 先程の皇帝の口調からして、深刻に受け止めているとは思い難い。


 が、その一方で、爺さんは違うらしい。


 精霊からの脅しが効き過ぎたのか。


 あの時に比べて、少しやつれて見えるほどだ。



「──つまり、その獣とやらが、伝承にある竜や精霊を滅ぼした魔獣だと仰るのでしょうか?」


「そのとおりじゃ」


「失礼ながら、そのエルフのげん、信用に値するのですか?」


「証言しおったのは、生き残りの精霊じゃ。亜人ではない」


「……にわかには信じ難いお話ですね」


「帝国の文献を調べ直した結果、災禍の獣について、初代様が残されたお言葉の中に、該当するモノがあった」


「それはどのような」


「うむ。竜曰く、天より光失われし時、災禍の獣、現れん。は魔獣の母にして、世を滅するを望みしモノなれば、相容れることあたわず。心せよ。が再び目覚めんことを、とな」



 まだそのころは、竜との意思疎通が可能だったのかねぇ。


 とは言え、よくもまあ、そんな大昔の言葉なんかが残ってたもんだ。



「戻るなり、終始この調子でな。余も手を焼いておる」


「陛下、日食までには後1年足らず。事態は一刻を争うのですぞ」


「もう止せ。聞き飽いた」


「陛下!」


くどいぞ。進言を聞き入れ、こうして揃えてやっただろう」


「では、魔族領への侵攻をご許可願えるわけですかな」


「そのような輩、待ち構えてやるまでもあるまい。先んじて駆除しておけ」


「お聞き届けくださり、感謝いたします」


「命を下す。予備兵を動員し、帝国の守護に就かせよ。正規兵全軍を以て、見事討伐してみせい」


「承知いたしました。ご英断、重ねて感謝いたします」



 はああぁ⁉


 何をトチ狂ったこと言い出してるんだ⁉


 余計な真似をして、戦力を減らすつもりかよ⁉


 それどころか、もしも怪物が目覚めでもしたら、予定が全部台無しになりかねないんだぞ⁉



「ちょ──がッ⁉」


「陛下の御前だ。控えろ」



 抗議のために声を上げた直後、いきなり床へと叩き付けられていた。


 何をどうされているのか、まともに声が出せない。



「ご無礼」


「竜の御子みこか。ものはついでだ、魔族領の調査も兼ねておけ」


「心得ております」



 折角、順調に此処まで来れたってのに。


 後1年の準備があれば、今度こそたおせるはずなんだ。


 それを、どうして……。


 謁見の間に居るのは、皇帝、爺さん、黒竜、赤竜、白竜、そして俺。


 数こそ少ないが、厄介なのが3人も居るわけだ。


 力では敵わない。


 だが魔術であればどうか。


 以前、白竜1人を拘束するだけで手一杯だった。


 この3人の相手をしてはダメだ。


 操るならば皇帝一択。



黒鉄くろがねよ。手緩い真似をしとらんで、さっさと気絶させんか。余計な真似を仕出かす前にのう」


「……承知」



 ぐうぅッ⁉


 マズい、絞め落とされる⁉


 ジジイが……余計な、真似、しやが、って……。


 く……そ……ッ…………。






 見覚えのある一室で目が覚めた。


 いや、此処は城の部屋だ。


 俺の部屋じゃあない。


 ベッドから身を起こすと、扉の横でもたれかかっていた赤竜と目が合った。



「状況の説明が必要かな~?」


「……要らない」


「いや~、ゴメンね~。流石に旦那相手じゃ、どうすることもできなくてさ~」


「ああ」



 記憶はハッキリしている。


 マズい状況だ。


 まさかこんなことになるなんて、思ってもみなかった。


 事情を知ってる局長たちは、1年後を想定して動いてくれているんだ。


 まだ早過ぎる。


 万が一に備えて、王国に警告しなくては。



「まさかこんなことになるなんてね~。けど、当てはあるのかな~」


「あ?」


「その何とかって魔獣の居場所さ~」



 ……どうだろう。


 文献とやらに情報が残されていたのか。


 あれだけの巨体だ。


 地上にそのままの姿であれば、嫌でも目立つはず。



「なあ、魔族領の地図なんてあるのか?」


「う~ん、国境付近ならあるだろうけど、全体ってのは無いんじゃないかな~。少なくとも、見聞きした覚えは無いね~」


「そうか」



 もしあったとしても、あんな地割れやら渓谷の多い地形だ。


 しかも大所帯とくれば、どうしたって移動速度は遅くなるはず。


 すぐにどうこうって話じゃあないのか。


 多少の猶予はある、か。



「王国に警告しておきたい。何か適当な方法は思いつかないか?」


「手紙じゃあダメなのかな~?」


「手紙か……王都までだと、どのくらいかかるもんなんだ?」


「流石に出したこと無いから分からないな~」



 そりゃあそうか。



「商人に伝手がある。なるべく急ぎで運んでもらおう」



 と、いつの間に移動したのか。


 すぐ隣りから小声で囁かれた。



「此処は城内なんだ。聞かれてマズい会話は控えたほうがいい」



 そこまで言い終えると、再び壁へともたれかかる。



「まあ、そんなに心配しなくても大丈夫じゃないかな~」


「それもそうだな」



 口ではそう答えつつも、頷きを返しておく。


 いつ出立となるかも定かじゃない。


 生憎と、荷物は国境付近の宿泊施設だ。


 何処か手近な所で手紙を調達しなければ。






 コンコン。



「はい? ワタクシにご用かしら?」


「あー、突然すまない」


「──ッ⁉ ど、どうぞ、お入りになってくださいまし」


「お邪魔するよ」



 例の一件以来、碌に話もせず、王国の調査へ出発してしまった。


 かなり気まずい。


 が、ここはグッと堪える。



「お好きな所へどうぞ」


「ああ」



 ベッドから離れた位置へと移動し、壁にもたれかかる。



「いつ城へお戻りになったの?」


「今朝……かな、多分」



 どのぐらい気絶していたのか、確認し忘れていた。


 どうにも冷静じゃあないらしい。



「そうでしたの。お変わりありませんか?」


「ああ。どうにかやってるよ」


「それは良かったですわ」


「実は──」


「それでご用件は──」



 被った。



「どうぞ、続けてくださいな」


「あ、ああ、いきなりですまないんだが、もし手紙に余りがあれば譲って貰いたいんだ」


「手紙ですか?」


「ああ」


「もしかして、ご用件はそれだけなのですか?」


「あ、ああ」


「余りならございます。お譲りするのは構いませんわ」


「助かるよ」


「ただし、ひとつだけ条件がございます」


「何だ?」


「ワタクシも関わることになるのです。誰宛てのどんな内容なのか。お教え願えますかしら」



 さっき赤竜に忠告されたばっかりだしな。


 ここで普通に話すのはマズい。



「……無理なお願いでしたか?」


「フゥ」



 壁から離れ、椅子を持って、至近へと移動する。



「えっと、あの」


「他に聞かれたくない話なんでな。少しの間、我慢してくれ」






「もう、何をされるのかと、焦ってしまいましたわ」


「おい、声は抑えてくれ」


「あら、ゴメンなさい」


「他言無用に頼む」


「ええ。しかし、先の命令はそういうことでしたのね」


「──おいまさか、オマエも行くのか?」


「ワタクシだけではありませんわ。正規の騎士は全員参加でしてよ」



 城の連中は除外されてるものと、勝手に思っていた。


 何せ、黒竜の訓練を終えてはいない連中なのだ。


 連れて行ったところで、どうしろというのだろうか。



「いいか、くれぐれも気を付けろよ」


「前にも申しましたでしょう? 騎士の職務を果たしますわ」



 アホか俺は。


 最悪の場合、もう次に会うこともできないんだぞ。


 爺さんに怪物のことを伝えさせたのがマズかったのか。


 ならばこれは、俺の浅はかな行動が招いた結果。


 これから生じる犠牲は全て、俺の責任か。



「どうにか生き延びてくれ。頼む」


「アナタも参加なさるのでしょう? ご自分の心配をなさいませ」



 せめて彼女たちだけでも。


 助けなくては。


 生還させなくては。






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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