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災禍の獣と骸の竜  作者: nauji
八章 四周目 災禍の獣
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67 赤竜

 魔獣を回収し終え、再び水門前に集合した。


 ざっと見た感じ、100人前後は居そうだ。



「んじゃまあ~、改めて国境警備の内容について説明しておこうかね~」



 それは最初にやるべきじゃないだろうか。


 いやまあ、いいけどさ。



「南側に関しては、ぶっちゃけると、門と橋の保全がおもだね~。後はまあ、王国の監視と牽制ってとこかな~」


「隊長、言葉が過ぎます」


「え~、そうかな~? じゃあ、どう言えばいいんだろ~?」


「橋を通行する帝国民や王国民の安全と、川の監視でしょう」


「おや~? それだと、門や橋は壊れても構わないのかな~?」


「人命が最優先です。物は後からでも直せます」


「ってことらしいよ~」



 そんな緩くて大丈夫なのかよ。


 まず思い起こされるのは、幾度も繰り返された川岸での出来事。


 赤竜は川での異変をいち早く察知し、魔獣を迅速に討伐してみせた。


 だから、発言以上にしっかりこなしてはいるのだろう。


 きっと、多分、恐らくは。



「やっぱりさ~、北側のほうが大変だし危険だと思うんだよね~。水門の保全に加えて、魔族領の監視と間引きだからね~」


「間引きについての優先度の説明が必要かと」


「おっと、そうだね~。優先度の高いほうから順に、魔族、成体、幼生体だよ~」



 ……ん? 魔族が一番高いのか?



「質問してもいいか?」


「お~、やる気があるのはいいことだね~。何が聞きたいのかな~?」


「魔族が優先される理由は何なんだ?」


「これってぶっちゃけて大丈夫なヤツかな~? どう思う~?」


「……まあ、仕方がないことかと」


「じゃあ言っちゃおうか~。王国ってさ~、魔獣を優先してるから、魔族をほぼ野放しにしてるわけなんだよね~」



 そう言えばそうだな。


 魔獣に関しては結構な金が支払われてはいるが、魔族に関しては聞いた覚えがない。


 未だに見たこともないしな。


 確か、北区の戦士団が、獣人を魔族に渡してたとかいう、とんでもない真似を仕出かしてもいたはずだが。



「魔族を根絶できれば、少なくとも亜人による魔獣の増加は防げるわけだから、帝国はそっちを優先してるってわけだね~」



 へぇ、帝国がそんなことをしていたなんで、今まで知らなかったな。


 騎士の仕事内容ぐらい、騎士学校で習っても良さそうなもんだが。


 正規の騎士になれるのは、1学年で30人程度。


 学年全体の1割にも満たない。


 殆どの者が帝都で一般の暮らしを送るわけで。


 そのために職業訓練なんかもあったぐらいだ。


 騎士の仕事は、騎士になってからじゃないと学ばせないってことなのかね。



「魔族は基本、渓谷みたいな目につかない場所に棲みついてるから、ただ歩き回ってるだけじゃあ、見つけられないから注意してね~」



 獣人のことを思えば、魔族の掃討には大賛成したいところ。


 だが時期が時期だ。


 怪物の活動が迫る今、魔獣の数をこそ減らしておきたい。


 魔族は他の連中に任せて、俺は魔獣を優先させてもらおう。






 好き勝手に行動させてはもらえないらしい。


 北壁ほくへきに近い場所は新人が、赤竜などの実力者は一番奥側を担当するようだ。


 こうして外から北壁ほくへきを眺めている状況は、どうにも奇妙な感覚だ。


 あれほど恐れていた場所に、今、こうして立っているなんて。


 内側から壁を見ていたころは、魔獣と積極的に戦うなんて、想像だにしていなかった。


 周囲には多くの騎士たち。


 それでも、かつてのように仲間とは思えない。


 仲間と呼べるのは、アイツらだけ。


 もう、新たに作ることもない。


 馴れ合うために、こうしてこの場に立っているわけではない。


 戦うためにこそ、立っているのだから。






 魔獣との遭遇は、日に一度あるかないか。


 何だったら、取り合うようにして、騎士が魔獣へと群がってゆく。


 戦う機会には、あまり恵まれない。


 通常の幼生体はたおせた。


 だが、キメラ型だったらどうだ?


 成体だったなら?


 もっと強くならないと。


 刻限はどんどんと迫ってくる。


 頼みとするのは魔術。


 あんな時間の掛かる単発では、幾らもたおせはしない。


 より戦闘向きの改良が必要だ。


 後、もう一つ。


 東区では、白竜を魔術で止めきれなかった。


 抑止の力。


 これも備えておきたい。






 今、滞在しているのは、門に隣接した騎士専用の宿泊施設。


 騎士の多くが国境警備に回されている。


 とは言え、丸一日は勤めきれない。


 城と同様、昼夜二交代制で四組に分かれており、隔週勤務となっていた。


 最初、白竜を見かけなかったが、どうやら赤竜と組が分けられていたらしい。


 それも当然と言えば当然のこと。


 他に比肩し得る者などいはしまい。


 時間を見つけては、白竜や赤竜に訓練を頼む。


 白竜はともかく、赤竜もすんなりと快諾してくれた。


 両者共に、成体よりもなお速い。


 接近は一瞬。


 視認など叶わない。


 回避など言わずもがな。


 容易く一撃を見舞われてしまう。


 悲しいかな、力量差が開き過ぎている。



「終わり?」


「いいや、まだまだ」



 それでも。



「まだやるのかな~?」


「ああ」



 そうだとしても。



「終わり?」


「まだやれる」



 しがみ付いてでも、噛み付いてでも。



「もう終いにしといたら~? 明日に響くよ~?」


「もう一度、頼む」



 追い縋る。



「終わり?」


「まだ、だ」



 諦めたりはしない。



「しっかし、タフだね~。こっちが疲れてきちゃうよ~」


「次、を……」



 決して、決して。






「どうにも分からないな~」


「何がだよ」



 訓練の合間、赤竜がそんなことを言いだした。



「少年の頑張り具合ときたら、常軌を逸しているとしか思えないよ~」


「そうか?」


「そうだよ~。何がそうさせるのさ~?」


「別に。ただもっと強くなりたいってだけだ」



 他者を頼みとせずに済むだけの強さを。


 今回こそは、俺も戦えるように。



「確かにそれはそうなんだろうけどね~。それだけじゃあないんだろ~?」


「何だよ、今日はやけに絡むな」


「気になることがあると、眠れないたちなんだよ~」


「何だそりゃ」


「日を追うごとに、焦りが増してるよね~」


「どうにも敵わないもんでね」


「そっか~、まだ信用してはもらえてないのかな~。悲しいな~」


「もういいだろ。そろそろ訓練に戻ろうぜ」


「最近さ~、帝国も王国も、動きがちょっとおかしいんだよね~」


「急に何の話だよ」


「ズバリ聞こうか。何をどこまで知ってる?」



 口調や声色が変わった。


 以前にも、こんなことがあったよな。



「いいのか? いつもの喋り方を忘れちまってるみたいだぜ」


「ああいう振る舞いも必要なのさ。他の者と共にあろうとするなら、なおのことね」


わざとああしてるってことか」


「まあね。この身に宿る力は強過ぎるんだよ。味方が恐怖を抱いてしまうほどにね。だからああして、少しでも無害さをよそおう必要がある」



 無害、ねぇ。


 黒竜にしろ白竜にしろ、他からは慕われている感じだったが。



「それで、俺が何を知ってるって?」


「妙な動きがちらつき始めたのは、丁度少年が留学してきた頃合いだ。同時期に発生する異常っていうのは、大抵同じ原因だったりするんだよ」



 留学だと?


 当時、赤竜とは面識らしい面識は無い。


 そんな以前から、俺のことを把握してたってのか?


 それとも単に、留学自体が珍しかっただけか?



「異常? どんな異常だよ」


「魔獣が水門を通過して川まで侵入したこと……っと、これはドクターの仕業だったか」


「あ? 爺さんの仕業だと?」



 繰り返しの起点。


 西区の川岸での騒動。


 あれが、爺さんが仕組んだことだったってのか?


 だが、理由は何だ?


 俺……なわけが無いよな。


 まだ知り合ってすらいないころだ。



「やっぱ今のは無しで。いやでも、ドクターの動きが活発になったのも事実か。以降、色々と動き回っていたみたいだし」


「おい待て、どういうことだ⁉ さっきのを詳しく説明しろよ」


「そんなに気になるのかい?」


「当り前だ! 俺も巻き込まれたんだぞ!」


「おや? 少年もあの場に居合わせてたのかい? これは、いよいよ以て偶然とは言い難いね」


「知ってることを聞かせろ!」


「なら、交換条件といこうじゃないか。少年の知っていることを教えてくれるなら、例の一件について、知ってる限りのことを教えてあげよう」


「チッ。で、何が知りたいって?」


「全部さ」


「あん?」


「だから全部だよ。単身、帝国に乗り込んでまで、いったい何を企んでいるのか。何を知ったのか。これから何が起こるのか」


「交換条件にしては、随分とこっちが過多みたいだが」


「ほう、つまりはそれだけ、抱えている情報が多いわけだね」



 コイツ……。


 抜けてるんだか、鋭いんだか、どっちなんだ。



「昔っから勘はイイほうなんだよ。その勘が告げてるんだ。少年に話を聞くようにってね」


「寝付きが悪いってのは嘘だったわけか」


「最近、寝付きが悪いっていうのは本当のことだよ。胸騒ぎって言うのかな。どうにも嫌な予感がするんだ」



 どうだかな。


 怪物の出現までには、後1年以上もある。


 日食以外に、予兆やら兆候やらなんて起きた覚えがない。


 もっとも、その予感とやらは、怪物に対してってわけではないのかもしれないが。


 赤竜には借りがある。


 川岸、決戦、卒業試験。


 幾度も助けられた。


 その借りを、これで少しでも返せるのなら。



「長い話になるぜ? それこそ、明日に差し支えるってぐらいにな。それでも構わないのか?」


「もちろんだとも。きっとこれで、色々なことが分かるはずなんだ」


「ならそうだな……最初は、俺が死んだところから始めるか」






「──そうか」


「おいおい、あれだけ話させておいて、感想はそんだけかよ」


「いや、すまない。何せ、想定以上の情報量だったんだ。整理に相応の時間が必要になる」


「今度はそっちの番だ。爺さんの話を聞かせてくれ」


「そうだったね。とは言っても、語れることは、そう多くはないんだ」


「交換条件だったろ」


「ドクターは、必要とあらば奪い、不要と断じれば排除も辞さない。そんな彼が、魔女を危険視している。あわよくば、始末しようとするほどにね」



 魔獣に局長を襲わせるつもりだったってわけか?


 けどそんな都合よく動くわけが。


 ……いや、そうでもないのか?


 魔術師を狙う習性を利用して。



「あの日は、ドクターから監視を言い渡されていた。要するに、魔獣の後始末をしろってことだったんだろう。けれども、魔女は魔獣よりも強かった」



 局長は幼生体を氷漬けにしただけだった。


 成体をたおしたのは他でもない、赤竜本人だ。



「周囲には子供がたくさん居た。その子供を守ろうとする姿は、まるで母親のように見えたんだ」


「……なあ、アンタは自分の母親のこと」


「残念ながら、覚えてはいないね。ただ、どうして死んだのかは知っていたよ。ドクターたちの話からの類推だったけどね」


「そう、なのか」


「帝国は歪だ。もうどうしようもないほどに。白銀はくぎんにしたって、ドクターたちを止めることは叶わなかった」


「怪物をたおした後、竜の骸を処分するつもりだ。もう被害者は出させない」


「そんな真似、皇帝陛下がお許しになるはずない」


「騎士に成ろうが俺は俺だ。従う義務も義理もないね」


「強いんだね。羨ましい」


「アンタが俺をか? バカ言うなよ」


「ジブンには真似できそうにもない。こうして事実を知ってなお、ね」


「これは俺の因縁だ。俺が始末をつけるさ」


黒鉄くろがね白銀はくぎんを敵に回してもかい?」



 そうか。


 そうなっちまうわけか。



「おっかないな」


「それでも諦めないと?」


「ああ」


「……これは覚悟の決め時かな」


「何か言ったか?」


「いいや、何でもないさ。今日得られた情報の余剰分は、必ず何らかの形で返そう。そうだな、事を起こす際は声を掛けてくれ。協力しよう」


「そうかい。ま、当てにしないでおくさ」






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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