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災禍の獣と骸の竜  作者: nauji
八章 四周目 災禍の獣
69/97

58 光明

 結局、竜の死骸探しは中断することにした。


 城外との見当こそつけたものの、その大きさが不明とあっては、もう見付けようがない。


 何せ、ありとあらゆる物が怪しく見えてしまう。


 壁、柱、床、調度品に至るまで。


 骨の一欠片単位ならば、容易く隠せてしまうからだ。


 確実に在処を知っているであろう人物ならば、心当たりがあり過ぎる。


 よって、城に於いてすべきことが限定された。


 強くなること。


 これに尽きるわけだ。






 魔術に関しては、念話からの派生を模索中。


 とはいえ現状では、理論の構築が限界だ。


 実践するには魔獣でないと意味が無い。


 まさか黒竜に対して試していくわけにもいかないしな。


 正攻法で勝たなければ、条件を充たしたとは言い難い。


 防御を突破する方法が必ず存在する。


 参考にできそうな情報と言えば、実際に魔獣をたおしてみせた光景そのもの。


 前回の決戦時。


 局長は魔術で以て、赤竜は槍や格闘で以て、一撃でたおしてみせた。


 今回ならば卒業試験。


 やはり赤竜が槍で以て、一瞬で3体をたおしてみせた。


 他には、成体が幼生体を喰ったり圧し潰したりもしていたか。


 参考……参考ねぇ。


 局長と赤竜に共通していたのは、いずれも頭部の破壊という点。


 最小限の動作による最大効率。


 即ち一撃必殺。


 そのまま真似るとすれば、頭を攻撃しろってことになるわけだが。


 既に試し終えてもいる。


 魔獣の弱点は二箇所。


 頭部と魔石。


 後者ならば、より具体的には、魔石の摘出になるわけで。


 流石にこれが条件達成になるとも思えない。


 課題は防御の突破。


 であれば、注目すべきは攻撃箇所ではなく、攻撃方法なのだろうか。


 魔術も槍も格闘も、攻撃は一度きり。


 ううむ、分からん。






 訓練は俺だけが行っているわけではない。


 もちろん、黒竜との戦闘だけが訓練でもない。


 騎士同士の模擬戦や、地味な体作りも訓練には含まれている。


 適度に休憩を取りつつ、何とはなしに他の騎士の様子を眺める。


 と、ふとした疑問が浮かんできた。


 それは人数について。


 今の今まで気にも留めていなかったが、これにも意味があったりするのだろうか。


 騎士同士の模擬戦は、必ずではないものの一対一の場合が殆どだ。


 だが一方で、黒竜との戦闘時は、必ず複数人で挑んでいる。


 普通に考えれば、黒竜が強敵だからだろう。


 そう、普通に考えるならば。


 複数人で同時に挑めるということ。


 それはつまり、複数人で条件を充たすことが可能なわけだ。


 ……ん?


 いやまあ、それはそうだよな。


 1人よりも2人で同時に攻撃したほうが、より威力は増す。


 ……んんん?


 ならなんで、連中は合格できていないんだ?


 協力してもなお、威力が不足してるってことなのか?


 待て待て、よく考えろ。


 必ず複数人で挑んでいるということは、それで合格した者がいるからなのでは?


 しかし、訓練に参加している騎士は数十人、全組合わせれば百人以上。


 幾らなんでも、合格しなさ過ぎだろう。


 単に協力するだけでは、条件を充たし得ない?


 一番多いのは二人、最大で五人ってところか。


 戦法は一点集中の同時攻撃。


 二人組はともかくとして、五人組で合格できないのは何故だ?


 単純計算で、攻撃力ば5倍になるはず。


 それで合格し得ないのだから、条件は威力ではないのか。


 やっぱり分からん。






 ようやく俺の番が回ってきた。



「光明は見出せたか?」


「サッパリだ」


「そうか」



 短い遣り取りを終え、挑みかかる。


 殴る──威力は散らされる。


 掌底──威力は散らされる。


 蹴り──威力は散らされる。


 いつもの感覚。


 僅かも通じていない。


 どうやったら突破できるのか。


 限界まで手数を増やしてみる。


 殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る。


 掌底掌底掌底掌底掌底掌底掌底掌底掌底掌底掌底掌底掌底掌底掌底掌底掌底掌底。


 蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り蹴り。


 何れも無効。


 抵抗する素振りも見せやしない。


 嫌な想像が頭をよぎる。


 もしかしたら。


 怪物が現れるまで、このままではないのか、と。


 頭も使った、体も動かした。


 何が足りてないんだ。


 先輩たちは、少女は、どうやって突破してみせたんだ。


 分からない。






 停滞が続く。


 せっつくように、爺さんが部屋を訪れたりもした。


 合格する見込みが無いなら調査を優先させる、と。


 焦燥ばかりが募る。


 どれだけ考えても答えはでない。


 どれだけ挑んでも通用しない。


 誰も合格できないままに、もうすぐ1年が過ぎようとしていた。






 そんなある日のこと。


 いつものように、戦闘を眺めていた。


 攻撃の瞬間。


 それは、ほんの僅かなズレ。


 同時には及ばぬ連撃。


 黒竜がよろめいてみせた。


 周囲がざわついたのが分かる。


 こんな光景は初めて見た。


 防御を突破した?


 だが、どうやって?


 同時攻撃は失敗していた。


 ほんの一瞬だが、タイミングがズレていた。


 連撃なら通用する?


 いやまさか。


 そんなことぐらい、既に飽きるほど試し終えた。


 今までのと今のとで、いったい何が違うのか。


 この日、俺が騎士に成って以来、初めての合格者が出た。






 何度も何度も、あの瞬間を繰り返し思い出す。


 同時攻撃がズレて生じた二連撃。


 要点は3つ。


 同一箇所への攻撃、相応の威力、タイミングのズレ。


 理屈は不明だが、やるべきことは分かった。


 後は実践あるのみ。



「光明は見出せたか?」


「まあな」


「ならば結構」



 まずは片手で拳打を二連撃。


 これでは無理だ。


 あのタイミングを再現できないし、二撃目の威力が激減してしまう。


 次いで左右交互に拳打。


 これも無理だ。


 威力は保てるが、軌道が重なる所為でタイミングを再現できない。


 蹴りは当然却下。


 腕よりも振りが遅れる。


 ──ならば、これでどうか。


 左右の掌を僅かに浮かせて重ねる。


 繰り出すのは、掌底による二連突き。


 これならば、振り直しは不要な上、威力も損なわないで済む。


 が、黒竜はよろめきもしない。



「フッ、中々考えてはいるな」



 威力が足りないのか、タイミングが合っていないのか。


 何度も何度も試す。



「何故独りに拘る? 誰かと組めば、そう難しいことではないだろう」



 微動だにせず、そんなことを言ってきた。


 どうやら方法は間違っていないらしい。



「それじゃあ意味がないんでね。必要なのは他者を頼みとせずに済む強さだ」


「騎士向きの気質ではないな」


「アンタはどうなんだよ。赤竜ならどうだ」


「なるほど確かに、さかしらに言えた立場ではないな。無粋な物言いだった。存分に試すがいい」


「言われなくてもそうしてるっての!」



 一撃目が弱過ぎるのか?


 二撃目が遅過ぎるのか?


 左右の掌の位置を入れ替えてみる。


 それでも結果は変わらない。


 試す試す試す試す試す試す試す試す試す試す試す試す試す試す試す試す試す試す。


 息が切れ、腕が上がらなくなる。



「精進しろ」



 終わり際、申し訳程度に、そんな一言が投げかけられた。






 ちらほらと、合格者が出始めた。


 焦燥が増す。



「随分と怖い顔をしておいでですわね」



 ノックも無しに、部屋に入ってきていた。



「何か用か?」


「最近、根を詰め過ぎではありませんか?」


「どうだかな」


「会話するときぐらい、ワタクシを見てくださっても良いのではありませんこと」



 仕方なく視線を動かす。



「そんなツラするな。要らん心配だ」


「心配にもなりますわよ。普通に会話を交わしたのが、どれだけ前のことかお分かりになりまして?」


「仲を深めるために、此処に来たわけじゃあない。強くなりに来たんだ」


「ワタクシは邪魔でしかありませんの?」


「そうじゃない」



 慣れない環境にあって、誰とも会話できないってのは辛いもんだ。


 彼女たちの存在は有難い。


 感謝もしている。



「……そう遠くないうちに、大規模な戦闘が起こる」


「そんなまさか。王国との戦争が起こるとでも仰るおつもり? 王国ではそんな兆候があるんですの⁉」


「違う、違うんだ」



 教えてどうする?


 信じてもらえるはずがない。



「もう時間が無い。それまでに強くならないとダメなんだ」


「確か、学校でも強くなりたいと仰ってましたわね。もしかして、あのころからずっと?」


「死にたくないなら戦場には行くな」


「そういうわけには参りませんわ。ワタクシも既に騎士たる身。命惜しさに逃げ隠れなどいたしません」


「……そうか」



 立派なもんだ。


 誰かのために命を懸けられるってわけか。


 俺はどうだかな。


 少なくとも、見知らぬ他人のためにってのは無理だろう。


 仲間たち、マザーや子供たち、先生、局長、副局長。


 そこにコイツらを加えてもいい。


 そう思えるぐらいには、もう馴れ合っちまってるしな。


 だが、今回はどんな風になるか予想もつかない。


 戦力は増すが、その分、人も増える。


 無事生き延びられる保証はどこにもない。



「アナタも守って差し上げますわ」


「バカなこと言わないでくれ」


「失礼ですわね。決して冗談などではありませんわよ」



 ベッドが軋む。



「何をそんなに不安に思っていらっしゃるの? こうすれば、その不安を少しでも拭い去れるのかしら」



 吐息が掛かる。


 匂い、体温。


 否応なく性欲が込み上げてくる。


 イイ女だ。


 顔も体付きも性格も。



「我慢する必要などありませんわ。この身を存分に──」



 違う、違うんだ。


 こんなこと、望んでやしない。


 引き剥がすように、ベッドから立ち上がる。



「出てってくれ」


「……ワタクシではダメなんですの?」


「頼む」


「そう、ですのね。分かりましたわ」



 出て行ったのを確認し、鍵をかける。


 このまま此処に居てはダメだ。


 遠からず、欲望に抗えなくなる。


 そうなる前に。


 黒竜を打倒する。






 幾度目かの挑戦を経て、合格を果たした。






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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