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災禍の獣と骸の竜  作者: nauji
八章 四周目 災禍の獣
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57 城内探索

 城勤めの騎士の仕事は警備と巡回。


 日勤と夜勤の2交代制で4組に分かれており、一週間ごとに、日勤、休み、夜勤、休みと切り替わってゆく。


 訓練には、休みに該当する者が参加しているわけだ。


 そう、通常であれば。


 俺だけ通常勤務から外されていた。


 つまりはずっと休み。


 どうやら爺さんの指示らしい。


 調査に向かう都合上、城勤めの仕事よりも訓練に従事させろ、という理由のようだ。


 これに関しては、俺にとっても正直有難い。


 時間は限られている。


 余分な作業は省き、朝から晩まで訓練漬け。






 黒竜は本人曰く、防御に優れるとのこと。


 それこそ、成体の攻撃を防いでみせるほどに。


 到底信じ難いことではあるのだが。


 この訓練を終えるための条件は2つ。


 彼に攻撃を通すことと、彼の攻撃に耐えること。


 既に防御に於いては条件を充たしていると言われた。


 普通は防具ありきでのことらしいのだが。


 ともあれ、必然的に課題となったのは攻撃力の不足について。


 訓練の日々が続く。


 幾度も黒竜との戦闘を重ねた。






「何故、武器を使わない」


「あ? いきなり何だよ?」


「普通ならばそうする」


「そうか?」


「当然の思考だ。他の者を見ろ。誰一人として素手などおらん」



 ふーむ。


 言われてみれば確かに。


 王立学院、戦士団、魔術局、騎士学校と、いずれに於いても武器は使ってこなかった。


 精々が、武器ではないものの盾ぐらい。



「アンタだって素手だろ」


「それも当然のこと。分からんか?」


「さてな。生憎と興味が無いもんでね」


「フッ、正直な物言いだ。理由は単純明快。武器を使えば相手が死ぬ」


「ああそうかい」



 聞いて損した。



「オマエも同じ理由なのか?」


「単に武器が不得手ってだけだ。それに、いざってときに武器を持っているとは限らないだろ」


「至言だな。その覚悟は称賛に値する」


「いちいち大げさなんだよ」


「だがそれも、相手に通用しなければ無意味」


「言われなくても分かってる」


「ならば結構。休憩は終いだ」






 叩いて、殴って、突いて、蹴って。


 そのどれもが通用しない。


 硬い、というのとは違う。


 威力が散らされている、そんな感覚。


 他の連中にしたってそうだ。


 剣だろうが槍だろうが、コイツに通用した試しがないのだ。


 俺が来てからは、未だ突破した者はいない。


 とはいえ、方法は必ず存在する。


 銀髪の少女(しか)り。


 他の卒業生にしたってそう。


 この場に居ないということはつまり、突破してみせたということに他なるまい。


 攻撃方法なのか、攻撃箇所なのか。


 単純に真似できるようなモノであれば、次々と突破してみせるはず。


 基本的には立っているだけ。


 目やら股やら、特定の急所への攻撃のみを回避。


 他は避けもせず食らってみせる。


 これらの動作の違いに意味はあるのか。


 恐らくはある。


 突破してみせた全員が、急所狙いを成功させたとは考え辛い。


 想定しているのは成体の討伐。


 キメラ型であれば、分かり易い急所を備えているとは限らない。


 ならば方法は、どのような相手にも通用する汎用的なモノ。


 ここまでは合ってるはずなんだが。


 今日もまた、正解には至れなかった。






 訓練が終われば、自室にて休憩。


 などと呆けてはいられない。


 ただでさえ、警備や巡回から外されているのだ。


 城内は未だに知らない場所のほうが多い。


 知りたいのは他でもない。


 城内にあるはずの、竜の死骸。


 止むことのないあの声をどうにかできれば。


 そして、この国が死骸に対して、いったい何をしているのかも気になるところ。


 ひたすらに消滅を願う竜。


 死してなお果たされぬ願い。


 ある意味で、似たような考えを抱きもする。


 いつまで繰り返し続けるのか。


 怪物をたおして、大事な人たちを喪わずに済んだとして。


 それでもなお、繰り返しが続くとしたなら。


 今はまだいい。


 何も果たせてはいない。


 けどいつか、全てがどうでも良くなってしまいそうで恐ろしい。


 似たような造りの廊下を歩き続ける。


 自由に出入りできる部屋には、警備の騎士は居ない。


 逆を言えば、騎士の警備している部屋こそが怪しい。


 精神魔術に相手の思考を読み取るモノがあれば便利だったのだが。


 あるいは、便利過ぎるが故に、実現されてはいないのか。


 扉越しでは、中に何があるかなど、分かるはずもない。


 聞けば答えてくれる場合もあるにはあるが、大抵は退散させられるのがオチ。


 接近すれば干渉があるかとも思ったが、それもない。


 幾日もかけて、ある程度の構造を把握はできた。


 階層ごと立ち入りを禁じられていたのは、皇帝の居室がある上層階のみ。


 見落としはないはずなんだが……。






「お、ようやく来たね」


「いつもいつも、どうしてこうも遅いのですか」



 食堂に顔を出すなり、随分な言われようだ。



「散歩だ。気を抜くとまだ迷いそうになるんでね」


「へぇ~、女性の部屋には迷わず辿り着けるのにかい?」


「な、ななな……そうなのですか⁉」


「キャー、誰の部屋に通ってるのー?」


「作り話に騙されるな」


「おや? 騎士の間じゃもっぱらの噂だよ。いっつも誰かの部屋を探し回ってるってね」


「それはそれで、さっきの話と噛み合ってないだろ」



 なおもやかましい連中に構わず、食事を取りに向かう。


 用意されている料理の中から、個々人が好きな物を好きなだけ取って食べるという、何とも贅沢な方式だ。


 取り敢えず、いつものパンと肉と野菜を盛り付け、席へと戻る。



「何かさー、いっつも同じ物食べてないー?」


「いいだろ別に。問題あるか?」


「ほほぅ、つまりいつも観察していたわけか」


「ちがッ⁉ 変なこと言わないでよね、もう!」


「でもさでもさ、食事を楽しんでないのって、キミぐらいじゃないかな」



 食事は文句なしに美味い。


 ただまあ、俺にはどうにも贅沢過ぎる。


 養護院を思い出すと、マザーや子供たちにこそ、味わってほしいと思ってしまう。



「誰に強制されているわけでもありません。食事は好きに取れば良いことでしょう」


「庇うねぇ~」


「あまり騒いでは他の方々の迷惑になりますわ。ご自重なさい」


「皆揃ってお喋りできる時間なんて、お風呂とか自室ぐらいなんだし、少しぐらいはいいじゃん」


「おっと、浴室内での光景を想像してしまったね? いけない子だ」


「いちいち絡むな」



 勤務に訓練にと、疲れているだろうに随分と元気なもんだ。


 仲間といたころは、もしかしたらこんな雰囲気だったのだろうか。


 もう随分と昔のことだ。


 どころか、俺以外に覚えている者もいやしない。



「それで、本当のところはどうなのです?」


「…………あ? 俺に聞いてるのか?」


「ええ」


「で、何がどうしたって?」


「ですから、いつも遅れる理由についてです」


「いやだから、散歩だって言っただろ」


「本当に?」


「ああ」


「本当の本当に?」


くどいぞ。何がそんなに不審なんだよ」


「いえその……女性の部屋を云々と、先程仰っていたものでしたので」


「あんなもん、いちいち信じるな」


「アハハハハハ、ゴメンゴメン。あれはほんの冗談さ。残念ながら、誘っても来てはくれなかったしね」


「おぉー、大胆発言」


「部屋に連れ込んで何をするつもりだったのかしら。キャー」


「オホン! では改めてお尋ねしますわよ。城内を訪ね歩いている真意は何ですの?」



 いやにしつこいな。


 散歩ってのは、まるっきり信じちゃいないらしい。



「俺は勤務から外されてるからな。何処に入れて、何処に入れないかを確認してるだけだ」


「で、でしたら、ワタクシが案内して差し上げても構いませんわよ」


「おぉー、これまた大胆発言。グイグイ押すねぇー」


「お勧めは何といっても庭園だね。人目を遮ってくれるよ」


「デートだデート。いいな~、誘われたいな~。チラッ」



 うるせえよ。


 だがまあ、悪くない提案かもしれない。


 俺よりも滞在期間は長いわけだし。


 まだ知らない場所ってのが、無いとも限らない。


 既に噂になってるらしいからな。


 これ以上単独で行動し続けて、怪しまれるのも好ましくない。



「なら今度、付き合ってくれよ」


「「え」」



 何故だか、女共が同じ反応を示してみせた。



「……よろしいんですの?」


「そっちの都合に合わせる。できるだけ詳しく案内を頼みたい」


「こ、これは、もしかしてもしかするかも⁉」


「先を越されてしまったね」


「えがったえがった」


「ただの散歩だ。何だったら他の連中も──」


「その必要はありませんわ!」


「お、おお、そうか」


「確かに承りました。明日……いえ、明後日にいたしましょう………………やった」






 残念ながら、新たな発見は無かった。



「……まさか、本当にただの案内を頼まれるとは思ってもみませんでしたわ」


「だからそう言っておいただろうが」


「何かをお探しなのでしょう? 教えてはいただけないのですか?」


「いやまあ……何をってのは言えないんだ。悪いな」


「そう、ですか」


「部屋の中は分からないんだったよな?」


「知らされている部屋はあります。ですが、そうでない部屋もありますわね」


「そうか」



 周知されている存在ではないだろう。


 ただ、他に比べて明らかに警備が厳重という場所も無かった。



「お探しのモノは、どの程度の大きさなのでしょう。それによって部屋の見当を付けられたりはしませんか?」


「大きさ……」



 そういや、どれぐらいの大きさがあるものなのだろうか。


 死骸なんだし、元の形を保ってるとも限らない。


 なら、どんな部屋だろうと入りそうなものだ。


 ……いや待て。


 おかしい。


 どういうことだ?


 城の中では干渉されず、城の外では干渉されているならば。


 どうやって、城の中から外へと干渉しているのだろう。


 魔獣を建材とした城内に、竜の干渉は及ばない。


 それはつまり──。


 城外からの干渉を防ぐため。


 まさか、死骸は城外にあるのか?


 だが何処に?



「──もう、ワタクシはほったらかしですのね」






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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