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災禍の獣と骸の竜  作者: nauji
八章 四周目 災禍の獣
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55 騎士学校卒業

 つつがなく卒業式が終わり、王国から来賓として出席していた局長と言葉を交わす。



「卒業おめでとう。そのうえ首席でなんて。見知らぬ土地で独り、よく頑張りましたね」


「ありがとうございます」


「王国としても、そしてもちろんワタシ個人としても、誇らしい限りです。今後、交換留学が活発に行われる切っ掛けにもなることでしょう」



 もしも本心での発言なのだとしたら、割と不安である。


 補足しておいたほうが良さそうだ。


 他の耳目を考慮し、口頭での指摘は避けておくか。



「後進たちの一助となれたのであれば幸いです。しかしながら、学院とは制度の違いもありますし、人選には十分な配慮が必要かと思われます」



 ≪念話テレパシー



 精神魔術の中級。



『局長、卒業試験は幼生体との実戦です。余程の実力者でない限りは、実施は控えるべきかと』



 すかさず念話で本心を伝えておく。



「……なるほど。実際に体験したアナタの意見は貴重ですからね。できれば詳しくレポートとして纏めて──」


「ゴホン。ご歓談中のところ失礼しますじゃ、宮廷魔術師殿」



 爺さんが何の用だ?



「……いえ、構いません。何かご用でしょうか、ドクター?」


「序列上位の卒業生は、急ぎ城へと出立せねばならぬ身ゆえ、どうか、お話は手短に願います」


「お言葉を返すようですが、この者は王国民です。帰国もさせず、帝国に帰属させようなどとは、まさかいたしませんわよね」



 局長?


 事前に騎士に成ることは了承済みのはず。


 だってのに、今更何を言い出してるんだ?



「これは異なことを仰いますな。騎士学校の卒業生は、全員が帝都の居住権を得ることを失念されておられるようじゃ」


「権利と義務は同義ではないでしょう」


「王国民が帝国に仕えられるんじゃ。光栄に思うことこそあれ、いったい何を不満に思うことがあろうか」


「既に貴国から留学した生徒は帰国させております。だと言うのに、我が国の者のみを強制的に徴兵するおつもりですか?」


「ちと言葉が過ぎるのう。王立学院がどのような進路を用意しておるのかは存ぜぬが、騎士学校に於いては明々白々。すべからく帝国に尽力すること。よもや、知らぬとは仰るまいな?」



 結局、その後も険悪な雰囲気のまま、城へと移動することになった。


 去り際、局長から密やかに何かを手渡される。






 この手紙は、人目のある場所では読まないように。


 また、読み終えたら必ず処分してください。


 副局長を供とできなかったため、このような手段での伝達となりました。


 現状、魔石の集積に努めるため、北区や東区に於ける魔獣討伐の依頼を継続して要請しています。


 加えて、戦力の拡充のため、2案を実行中です。


 1つ目は戦士の育成。


 戦士団の方をお招きし、学院の卒業生でもある衛兵や学院の生徒への鍛錬を。


 2つ目は魔術師の増強。


 初等部で卒業してしまった者を対象に、中級魔術の習得を。


 魔術局の局員に対しては、上級魔術の習得に努めてもらっています。


 万端とまではいきませんが、それでも準備は整いつつあります。


 ですからどうか、帝国での無茶な行動は控えてください。


 万が一の場合は、許可を得ずとも無理矢理に帰国して構いません。


 副局長共々、アナタの無事を心より願っております。






 宿の一室にて、手紙を読み終える。


 準備が進んでいることは喜ばしい限り。


 だがしかし、局長は生徒まで動員するつもりなのか?


 それでは意味が無い。


 折角距離を置いたというのに、かつての仲間が巻き込まれてしまう。


 あの惨劇を避けるべく、今もこうして行動しているというのに。


 ただ怪物をたおせれば良いわけではないのだ。


 大事な人たちが無事でなければ、意味が無い。


 最善の結果を得られるまで、この繰り返しを続ける?


 必ず次があるかも分からないのにか?


 いや、そもそもが無理な話だ。


 先生は常に最前線で戦ってもいたのだろう。


 マザーに関しては、もうずっと何もできてやしない。


 安否の確認すら怠ってる始末。


 仲間たちはどうだ。


 獣人の子供はどうなった。


 局長や副局長を、次も守れるのか。


 騎士学校で知り合った連中はどうする。


 全員を安全な場所に避難させておくなど不可能だ。


 果たして、あの戦場で全員を守り切れるのか。


 頭の中がグチャグチャになってゆく。


 ああクソッ。


 どうすれば上手くいくんだよ。






 馬車に揺られつつ、窓の外をぼうっと眺める。



「随分と浮かない表情じゃな」


「……別に」


「何ぞ、故郷が恋しくでもなったか。あの魔女めが。余計な真似をしおってからに」


「そういうわけじゃない」


「ならば良いのじゃがな。これからは帝国民として、より一層尽力してもらうぞい」


「これ以上何をしろって? 調査は終わったんだろ」


「戯け。終わったのは帝国領だけじゃ。城である程度の教育を終えたら、王国領、エルフ領、獣人領、魔族領と、順に調査を進めねばなるまいて」



 そういやそっちもあったな。


 ええっと確か、エルフ領に関しちゃ、何か思いついたことがあったはずなんだが。



「嬢は既に城での教育を終え、他の任に就いておるしな。呼び戻すにせよ、時間が必要じゃ」


「その教育ってのは、具体的にどれぐらい掛かるもんなんだ?」


「つまるところ、単なる訓練じゃでな。一定以上の強さを備えておれば、不要ですらある」


「業務とかを教わるってわけじゃないのかよ」


「無論それもある。じゃが、城に於ける騎士の業務なぞ、警備以外にないでの」



 訓練ね。


 それはまあいい。


 もっと強くなれるなら、それに越したことはないしな。



「指導するのは騎士最強と名高い黒鉄くろがねじゃでな。卒業試験のように生温くはないぞい。精々覚悟しておくことじゃ」



 黒鉄くろがねってのは確か、黒竜のことだったよな。



「覚悟ってのは、どういう意味だよ?」


「試験に際して、事前に成体を間引きしておるからのう。今度は、その間引きする側が相手というわけじゃて」



 ……ああなるほど。


 卒業試験が幼生体の討伐ってのは、そういう仕込みがあったってわけか。



「正規兵ともなれば、成体如きに後れを取るようでは務まらん」


「へぇ……そいつは願ったり叶ったりだ」


「よう抜かしおるわ。赤銅しゃくどうめが駆け付けなんだら、全滅しておったと聞き及んでおるがのう。間引きしたはずの成体を、よくもまあ集めおってからに。備えておいて正解じゃったわい」



 しゃくどう?


 話の流れからして、赤竜のことか?



「なら、赤竜は爺さんが手配したってわけか?」


「左様。貴重な御子みこをみすみす失うのは避けたいからのう」


「そうか。なら一応礼を言っておくべきか。お蔭で助かった」


「良い心掛けじゃな。いずれは国境警備の任に就くこともあろう。その際は、其方そちが成体を相手取る番じゃて」



 騎士は成体も相手取れるだけの強さってわけか。


 まあ流石に、単独ってことではないんだろうが。



「……やはり妙じゃな」


「どうかしたのか?」


「もう城まで程近いというに、頭痛はせんのか?」



 そういや、無意識に遮断を使ったかもしれない。



「俺が魔術師なのを忘れたのか? 対策ぐらい講じるさ」


「干渉を防げるのか⁉ どうやっておるんじゃ⁉ 詳しく説明せんか!」


「おい、詰め寄るな、気色悪い!」


「何じゃと、この無礼者めが! いやいや、そんなことはどうでも良い。さぁ、早う聞かせい!」



 ……これはマズったか?


 念話を知られたくはない。


 遮断だけを上手いこと説明しないとな。






「……ううむ、魔術も中々に侮れんわい。もそっと交換留学生を増やすべきかもしれんのう」


「魔術の資質が無ければ、魔術は使えないんだぞ?」


「そのような初歩的なことなぞ、言われんでも分かっとるわい。別段、こちらが用意する必要も無し。向こうが魔術師を寄越せば事足りるでな」


「おい、魔術師を実験にでも使おうって話なら、見過ごせないぞ」


其方そちがか? 如何にしてみせる?」


「実験云々は否定しないんだな。そうかいそうかい、そいつは残念だ」



 遮断を維持したまま、他の魔術を使うってのもキツイんだがな。



「──ドクター、間も無く到着します。下車のご用意を」


「うむ」



 箱馬車の外、御者ぎょしゃだか騎士だかから声が掛かった。


 チッ、タイミングが悪過ぎる。


 これでは、暗示を掛けるにも時間が──。



「ほれ、どうした。何もせんで良いのか?」



 このジジイ。


 素早く頭を掴み魔術を行使。



 ≪睡眠スリープ


 ≪暗示インフュージョン



 精神魔術の初級と中級。


 連続して発動する。


 遮断が弱まり、頭痛が生じ始める。


 城まではもうすぐ。


 今は耐えろ。



「魔術への興味を失え。魔術師へ一切の干渉をするな」



 馬車が停止する前に、爺さんを叩き起こす。



「──うがッ⁉ な、何じゃいったい⁉」


「よう爺さん、もうすぐ城に着くらしいぜ」






 またこれかよ。


 いつだか訪れた、広い浴室、いや浴場か?


 前回とは違って、今回はこちらの人数も多い。


 城へと連れて来られたのは、俺だけではなく、序列上位の卒業生が30名余り。



「お召し物を──」


「世話なら俺以外の奴に頼む」



 状況に理解の追い付いていない連中を尻目に、早々に服を脱いで湯に浸かる。


 正式に騎士になるための式典だか謁見だかが、この後にあるらしい。


 こういう行事ってのは苦手だ。


 さっさと済ませるに限る。






 前回とは違って、謁見の間では多くの人が待機していた。


 想像以上に、ちゃんとした式だったらしい。


 流石に緊張をいられる。


 見覚えの無いオッサンが、何やら長い演説だかを続けているのを、顔を伏せ、跪きながら聞き流す。



「──では陛下。新たに騎士に叙されたこの者たちへ、お言葉を賜れますでしょうか」


「相分かった。余への拝謁を許す。面を上げよ」



 同期の連中が顔を上げるのを横目で確認し、少し遅れて顔を上げた。


 壇上の椅子に腰かけていたのは、ゆったりとした豪奢な服に身を包んだ金髪の若い男。


 金髪ってのは珍しい。


 いつだったか、見かけた覚えがあったような。



「よくよく目に焼き付けておくがいい。これより生涯を懸けて尽くす主の姿をな」



 これが皇帝か。


 確かに、余人には無い妙な迫力がある。



「……どういうわけだ。余への言葉が未だ聞こえてこぬようだが」


「何をしておるか! 陛下に平伏し、御礼おんれいせぬか!」



 やれやれ、面倒なことだ。


 派兵させるにあたり、皇帝を操るのが最も効率的。


 それには、手前に控えている黒竜の存在が厄介に過ぎる。


 敵対はしたくない。


 これからの訓練で、どういう人物なのかを見極めるとしよう。






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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