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災禍の獣と骸の竜  作者: nauji
七章 四周目 騎士学校
59/97

50 試験再開

 明日から学校が再開される。


 そんな最中、またしても爺さんに呼び出された。



其方そち、治癒魔術師の1人と知り合いじゃったのか?」


「……は?」


「夜中に何度も会っておったそうじゃな。何ぞ、やましいことでもあるのかのう」



 おいおい、監視でも付いてんのかよ。


 この場合、俺か副局長、どちらが監視されてたかは不明だが。


 どちらにせよ、油断も隙もあったもんじゃないな。


 素直に話すのはまずあり得ないとして、何をどう言ったもんか。



「随分と悪趣味な真似をしてるな」


「趣味じゃと? これはのう、管理と言うんじゃ」



 管理だあ?


 いったい何様のつもりだ。



「どうした? 答えられんのか?」


「知り合いかどうか、爺さんに何の関係があるんだよ」


「どうにも自分の置かれておる立場というものが、分かっておらんようじゃのう」


「あ?」


「今更、王国に帰れるなどと、勘違いしてはおらぬか? 其方そちは終生、帝国のために尽くさねばならん」


「何だよそれ。いつそんなことが決まったんだよ」


「陛下にお言葉を賜った時点からじゃ」



 ……アホくさ。


 真面目に聞いて損したぜ。



「話は終わったか? なら、もう戻るぜ」


「戯け! まだ問いに答えておらんじゃろうが!」


「しつこいな。俺が誰と何をしてようが、俺の勝手だろ」


其方そちにそんな権利など、ありゃせんわい」



 そうかいそうかい。


 答えてやる気が完全に消え失せたよ。


 周囲の気配を探る。


 扉の外に2人、両脇の部屋に3人ずつ、ってとこか。


 どうやら少女は居ないらしい。


 なら、まとめてやっとくか。



「いい加減、頭に来てるんだが」


「だから何じゃ。聞くべきことを聞けるまで、部屋から出られると思うでない」



 そんなことはないさ。


 範囲は廊下と両隣の部屋を含めた横方向に限定。



「言うておくが、もし妙な真似を──」



 ≪昏睡レザージー



 精神魔術の中級。


 すぐさまバタバタと何かが倒れる音が連続する。


 少し待ってみたが、続く物音は聞こえてこない。


 眠っている老人へと近づく。



 ≪暗示インフュージョン



 精神魔術の中級。



「今日の出来事の一切を忘れろ。それを疑問にも思うな」



 何事も、節度ってものが大切なんだぜ、爺さん。


 さてと、今の内に、監視の件を念話で副局長へ伝えておくべきかね。






「えーそれでは、二度とあのような事故を起こさぬよう、十分に──」



 講堂に全校生徒が集められ、新しい校長の挨拶が行われている。


 これまた細身のスーツ姿の眼鏡を掛けた男。


 一見する限り、今度のは随分とまともそう。


 脅威も感じられない。


 ともあれ、中断されていた試験が再開される。


 治癒魔術師により、殆どの生徒は回復したらしい。


 念の為にと、試験が終了するまでは、滞在するよう頼まれているとのこと。


 残っている試験は大別して2種類。


 1年生の序列決めと、学内の序列決め。


 前者は途中からだし、後者は各学年の序列上位者のみの参加。


 まあ、何事も無ければ、今日中には終わることだろう。






 所変わって闘技場。


 まさしく消化試合を終え、昼を前にして、1年生の序列決めは終了した。


 何というか、相手が勝手にビビり散らかしていた感じはしたが。


 午後からは面倒なことこの上ない試合が待っている。


 それと言うのも、5年生は序列戦は今回が最後となるらしく、気合の入りようが違うのだそうだ。


 銀髪の少女は当然として、あの両盾の奴も中々に厄介な相手だった。


 他の連中に関しても、前回以上に抵抗してみせるかもしれない。


 無理して相手に合わせようとはせず、魔術でサクッと終わらせたほうがいいのか。






 混雑する食堂の隅にて、手早く食事を済ませてゆく。


 未だに、何とも場違いな感じが拭えない。


 自分が学生という実感が湧かない。


 もう何度、学生なんてやっているんだか。


 かつてのように振舞うことは、もうできまい。


 此処に仲間は居ない。


 守るべき者は居ないのだ。



「──向かい、失礼しますよ」


「ああ、構わないよ…………ん?」


「こんにちは。先程は見事な戦いぶりでしたね」


「アンタは……」



 今朝ぶりに見る新任の校長、その人だった。



「戦闘に関しては素人同然ですが、それでも格の違いというものを見せられた気がします」


「大げさだな」


「そうでしょうか」


「……と言うと?」


「いえ、少し疑問を抱いたもので。こうして話を聞いてみたくなった次第です」


「で、何が聞きたいんだよ」


「実力差が歴然ともなれば、手加減も容易いことでしょう。先程の試合でも、怪我人を一人たりとも出してはいませんでしたしね」



 いったい、何の話が始まったんだ?


 話半分に、食事を再開する。



「にも拘わらず、直近の試験にて、大勢の怪我人を出したというのが、ね。どうにも信じられなかった」


「あんなもん、試験のていを成してなかったからな」


「そのようですね。聞くところによると、観覧していた生徒が押し寄せたんだとか」


「ああ」


「ですが、怪我をしたのは襲われた側ではなく、襲った側のみ。不運にも前校長も巻き込まれたようではありましたが」


「つまり?」


「彼ら彼女らに怪我をさせる必要はありましたか? そうせずとも、事態を収拾できたのではありませんか?」


「俺が全員を相手取ったわけじゃない」


「でしたね。どういうわけか、互いに交戦したのだと。そう、ただ一人を除いて」


「──フゥ、その話、まだ続くのか? もう食い終わったから行くぜ」


「最後に一つだけ」



 眼鏡越しの鋭い視線に射すくめられ、移動しかけた足が止まる。



「力ある者は、その力をどう揮うかという責任を常に意識すべきと考えます。午後からの試験も、どうか不要な怪我の無いように」



 応えることはせず、歩みを再開させる。


 何故だか、無性に心が乱された。






 チッ、体の反応が鈍い。


 入学時にも戦った、剣と盾を使う女子が相手。


 学内序列の殆どを5年生が占める中、銀髪の少女以外の女子であり、4年生という実力者。


 とはいえ、脅威足り得ない。


 速度も力も、到底通用するモノではないのだ。


 以前と同じように、早々に気絶させて終わりにできる。


 そのはずだった。


 力量はそれほど変わってはいない。


 それは確かだ。


 唯一、明らかに違うのは、その気迫。


 気圧されている。


 足は前ではなく後ろへ。



「バカにしているってわけ⁉ ちゃんと戦いなさい!」



 この闘志、この熱意が。


 どうにも遠く、ひたすらに眩しい。



「何で防御してばっかりなの⁉ 攻撃してきなさいよ!」



 容姿は僅かも似てなどいない。


 声だって違う。


 口調だけは、近しいかもしれない。


 かつての仲間を、彼女を思い起こさせる。


 戦闘訓練では、終ぞ勝てた試しが無かった。


 強かった。


 その強さを、羨ましくも思っていた。



「──ッ⁉ 何が可笑しいのよ⁉」



 だというのに。


 訳も分からないまま、死なせてしまった。


 今の力があれば、助けられたのだろうか。


 それとも、まだまだ足りてやしないのか。


 あんな結末、迎えさせやしない。


 足を止める。



「やっとその気になったってわけ?」



 ああ、確かに覚悟が足りてなかった。


 こんな試験、どうだっていいと思ってもいた。


 懸命に努力している者を、負かすことが躊躇われた。


 さっき食堂で言われたことを、存外に気にしていたのかもしれない。



「……ったく、どうかしてる。アイツなはずもないのに」


「さあ、戦いなさい! 手加減なんてしたら、許さないんだから!」



 強くならないとダメなんだ。


 もっと強く。


 もっともっともっともっともっともっともっともっともっと。


 誰かを頼らずに済むように。


 俺が強くならないと。



「仕切り直しだ。遠慮なくやらせてもらう」


「望むところよ!」



 盾を捨て、両手で剣を振り下ろしてくる。


 酷く遅い。


 防ぐことも、躱すことも、弾くことすらも可能。


 勝てる。


 いとも容易く。


 だが、本当に想定すべきは、人ではなく魔獣。


 魔獣の攻撃を喰らったのは二度。


 いずれも体が破壊された。


 攻撃を受けてはダメなのだ。


 必ず躱す必要がある。


 揮われた一撃を横へ移動し躱す。


 と、剣が地面で跳ね返るようにして、追尾してみせた。


 魔獣は硬い。


 金属を破壊してみせるのだから、金属よりも硬いのだろう。


 ならば、金属ぐらいは打倒してみせねば、話になるまい。


 下から迫りくる剣に対し、拳で応じる。


 狙いは剣の腹。


 思いきり殴りつける。



「キャッ⁉」



 両の手から剣が吹き飛んでゆく。


 どうやら、砕くには至らなかったらしい。


 互いに素手のまま、対峙する。



「まだ勝負はついてないわ」


「だな」


「降参なんてしないんだからね」



 この気の強さときたら。


 どうにも懐かしい人物を思い出させてくれる。



「ああ、分かってるさ」






 通路を進み、控室へと戻る。



「残念です。助言は聞き入れてもらえなかったようですね」


「悪いな。相手を気遣ってやれるほど、俺は強くないらしい」


「謙遜を。十分に強いですとも。騎士ですら、敵うかも怪しいほどに」


「いいや。必要なのは誰かに勝る力じゃあない。魔獣をたおせるに足る力なんだ」


「つまり、皆とは目指すところが違うと」


「別に。ただ、覚悟が決まったってだけさ」



 僅かも時間を無駄にはしていられない。


 あらゆるを利用し、強くなってやる。



「力も思想も、この学校には相応しくないのかもしれませんね」



 生徒にだって、容赦は不要。


 いずれ戦場に立たせるなら、加減してやったところで意味が無い。


 むしろ、殴り飛ばしてこそやるべきだった。


 どうせ嫌われてるしな。


 卒業まで4年と半年。


 精々、嫌われてやるとしよう。






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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