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災禍の獣と骸の竜  作者: nauji
七章 四周目 騎士学校
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48 休校

 あの後、試験は当然の如く、中断を余儀なくされた。


 負傷者が多数に及ぶため、予定を前倒しにして休校とし、生徒の回復を待ってから試験を再開するそうだ。


 そんなわけで、事態を聞きつけた爺さんに呼び出しを喰らった。



「盛大にやらかしおったな」


「おいおい、責任を問うべき相手が違うんじゃないか?」


「抜かせ。奇跡的に死者こそ出なんだが、怪我人は百人以上おるんじゃぞ。その中には、校長も含まれておる始末じゃ」


「そいつは災難だったな」


「しらばっくれるでない。目撃者の証言からして、其方そちの仕業であることなど明白じゃわい」


「いやいや、どう考えても校長の責任だろ。野郎が生徒を巻き込んだ張本人だ。あの場に居合わせた生徒なら、それも目撃してるはずだぜ」


其方そちに言われんでも分かっとるわい。陛下のご不快を買うのは、最早避け得ぬ事態にまで及んでおる。何せ、王国の治癒魔術師を頼らねばならぬのじゃ」


「普通に試験をやってさえいれば、あんなことにはならなかっただろうさ」


「序列上位の者が一名、重傷とも聞き及んでおるが? 大規模な乱闘があったとはいえ、その辺の生徒に後れを取るとも思えん。何ぞ申し開きはあるか?」


「そいつは気の毒にな。日頃の行いでも悪かったんだろうさ」


「……フゥ、もうよい、黙っとれ」



 呼び出しといてそれかよ。


 我ながら上手く収拾をつけたつもりだったんだがな。


 不幸中の幸いだったのは、試験直後の銀髪少女が、あの場に居合わせなかったことに尽きる。


 もし彼女に参戦されていたら、無事では済まなかったに違いあるまい。



「当初の予定とは、大分狂いが生じておる。明日にも調査に向かうぞい」


「俺は別に今日でも構わないがな」


「我輩とて、できることならそうしておるわい。其方そちらの所為で、後任人事やらの事後処理をせねばならんのじゃ」


「校長が代わるのか?」


「当然じゃ。責任とは立場ある者が取るのが道理。加えて、此度の事態は当人の過失じゃからのう」



 そいつは結構なことだ。


 これでもう、余計なちょっかいを掛けられずに済む。



「これ以上、余計な真似をされては敵わん」


「ハハハ」


「笑いごとでは無いわい」


「いやなに、丁度同じようなことを考えてたんで、ついな」


「気楽なもんじゃな。もう下がって構わん。明日の準備でもしておれ。朝食を終えたころに迎えを寄越すでな」


「へいへい」


「おっと、そうじゃった。ついでに嬢へも伝えておくように頼むぞい」


「あ? なら一緒に呼び出せば良かっただろ」


「叱責を受けるべきは其方そちのみじゃ。呼び出すには値せぬ」


「俺も被害者だっての」


「ともかく、任せたぞい。我輩は誰ぞの所為で忙しい身ゆえな」


「ああそうかい」



 取り巻き連中が居ると、まず間違いなく面倒事になるだろう。


 できれば、行きたくはないんだがな。


 休校中だし、邪魔者は帰省しててくれると助かるね。






 妙なもので、同じ造りのはずなのに、別学年の寮というだけで、雰囲気が違う。


 またも悪目立ちし過ぎた所為か、帰省しなかった生徒たちが、俺を見るなり踵を返してゆく。


 まあ、それはいい。


 周囲の様子に構わず、管理人室で少女の部屋を尋ねる。



「アナタ、例の1年生よね。お姉様に何の御用かしら」


「あ?」



 すんなり教えてもらったと思いきや、遠巻きにしていた生徒の幾人かが、詰め寄ってきた。


 全員女。


 いちいち顔まで覚えてないが、言動からして、例の取り巻き連中なのだろう。



「例のってのが何かは知らないが、1年なのは間違いないね。んじゃ」


「コイツ!」


「1年のくせに生意気よ!」


「待ちなさい。まだ話は終わってないわ」


「……何だよ。アンタらに用事は無いんだが」


「お姉様のお部屋を訪ねるおつもり?」


「だったら?」


「お姉様のお部屋は不可侵。何人も立ち入ることおろか、中を窺うことさえ許されないわ。さっさと自分の寮へ戻りなさい」


「そうよそうよ!」


「帰れ! 帰れ!」



 やれやれだ。


 さっそく厄介なのに絡まれたってわけか。


 だから来たくなかったんだが。



「伝言を頼まれてるだけだ。部屋に入るつもりも、中を見るつもりもない」



 相手は女。


 試験はあんな騒ぎになったわけだが、積極的に事を構えたくはない。



「伝言ですって? いいわ、なら代わりに伝えておいてあげるから、内容を教えて頂戴な」



 さて、どうしたものか。


 言うとおりに伝えるかも怪しい。


 が、内容自体が、明日から出掛けるってなもんだ。


 言えば余計に騒ぎ出すに違いあるまい。



「遠慮しとくよ」


「はあぁ? アナタ、自分の立場ってものが分かってないわけ?」


「立場がどうしたって?」


「あれだけの騒ぎを起こしておいて、よくもまあ、平然と在籍してられるわね」


「試験の件を言ってるのか? なら、俺は被害者筆頭のはずなんだが」


「ふざけないで!」



 いやいや、ふざけてはいないんだが。


 ま、どうせ何を言っても納得などしないのか。



「先輩も同級生も、大勢が怪我したのよ! それを──絶対に許さない!」


「そうかい。どう思うかはアンタの勝手だ。好きにしたらいいさ」


「アンタさぁ、空気読みなさいよね」


「ホントよ、どういう神経してるわけ?」



 こんな子供が騎士になるってわけか。


 ならいずれ、俺が戦場へ駆り出すことになるんだよな。


 今此処で、騎士を諦めさせてやることが、優しさってやつなのかね。



「怪我ぐらいで動揺するなら、騎士には向いてないんじゃないか?」


「何ですって!」


「そんな調子で魔獣と戦えるのか? 本当に覚悟ができてるのか?」


「何よコイツ、頭おかしいんじゃないの」


「1年のくせに、何様のつもりなわけ」


「いざ戦場に立って後悔するぐらいなら、今の内に考え直すことだな」



 それ以上は構わず、背を向ける。



「あ、コラ、待ちなさい!」


「勝手に話を終わらせてるんじゃないわよ!」



 脚力に任せて、一気に引き離す。






 コンコン。


 ……中からの反応は無い。


 コンコン。


 ……まさか、あれだけ苦労して、不在だったりしないよな。



「おい、居ないのか? 爺さんからの伝言が──」



 と、そこまで言いかけて、ふと思い至る。


 ここでも命令待ちか?



「あー、頼む。居るなら返事してくれ」


「いる」



 やっぱりか。


 先程の件もあるし、このまま扉越しに用件を伝えてしまおう。



「明日の朝食後、調査に向かうから準備しとけって爺さんが言ってたぜ」


「何の準備?」


「あ? それはまあ、着替えでいいんじゃないか」


「了解」


「用件はそれだけだ。じゃあ、また明日な」


「ん」



 建物伝いに、声や足音が近づいてきている。


 中々に執念深い連中のようだ。


 遭遇する前に、さっさと退散するに限る。






 翌朝、寮の前に馬車が何台も連なっていた。



「おいおい、また随分と多いな」


「今回の調査は帝都じゃからな。人避けの人員も兼ねておる」


「帝都って、此処もそうだよな」


「左様。今回は其方そちの感応範囲を正確に測ることが主な目的じゃでな。と、要らぬ衆目を集めておるようじゃな。さっさと乗り込め。道すがら説明するぞい」


「分かった」


「荷物はこちらへどうぞ」


「ん、ああ、お願いします」



 手荷物を騎士に預け、爺さんに続いて、箱馬車へと乗り込む。


 箱馬車はこの一台のみ。


 他はほろ馬車ばかりだ。


 馬車に荷物を積み終えたのか、ゆっくりと動き出した。



「さてと、何処まで話したんじゃったか」


「範囲を測るとか何とか」


「そうそう、そうじゃったな。首飾りを外した状態に於ける感応範囲を測り、その結果を元にして、帝都内を調査してゆく」


「そんな近場にあるもんかね」


「まあ、恐らくは無いじゃろう。本格的な調査を開始するのは、また半年後じゃな」


「半年後?」


「もう失念しおったのか? 試験後の休校期間を使うんじゃから、当然じゃろう」


「そういや、まだやるんだったか」


「惚けるでない。今回の試験ですら、まだ終わってはおらんのじゃ。今度は余計な手間を増やすでないぞ」


「何もされなければな」



 俺は極めて模範的な生徒と言っていい。


 話す相手がいないから、私語の類いは一切ない。


 勉強に於いては、帝国の歴史以外なら、復習しているようなもの。


 実技もまあ、体力を除けば他の追随を許さないほどだ。


 本来であれば、これほど悪目立ちすることも無かったはず。


 これも全て、例の校長こそが端を発している。



「なまじ強いことが、なおたちが悪いのう」



 俺が強い、ねぇ。


 ハッ、皮肉もいいとこだ。


 繰り返しの影響が無ければ、ただの凡人に過ぎない。


 今にしたって、必要なだけの強さが得られてるとは言い難い。


 怪物は言うに及ばず、魔獣にだって通用するかどうか。


 ただの一度だって、討伐してみせたことはない。


 幼生体ぐらいなら、たおせる程度の力はあったりするのか?



「城勤めともなれば、黒鉄くろがねが性根を叩き直してもくれるじゃろうがな」


「くろがね? 誰だよそいつは」


「覚えておらんか? 謁見の間にて、嬢と一緒におった騎士じゃ」


「アイツが黒竜じゃないのか?」


「違わん。単に呼び方が異なっておるだけじゃ」



 何だよ、ややこしい呼び方しやがって。


 アイツも赤竜と同程度の強さを有しているはず。


 城勤めになれば、接触する機会もおのずと増えるはずだよな。



「皇帝の護衛なんだよな」


「戯け! 皇帝陛下、もしくは、陛下とお呼びせんか!」


「悪かったって。そうカッかするなよ」


「全く、これじゃから最近の若いもんは……」


「確か、試験の序列が上なら、城に行けるんだったよな?」


「騎士に叙されると、まずは城勤めとなる。そこである程度の教育を受け、他の任務に就くのじゃ」


「まだ何か習う必要があるのかよ」


「そうに決まっとるじゃろうが。其方そちのおった王国の学院とて、5年で終いというわけではなかろうに」



 そういや、初等部は5年制だったか。


 騎士学校も5年制だし、何か関係あるのかね。



「そうでもない。進級せず辞める奴だって少なくない」


「……妙なことを言いおるな。其方そちが在籍しておった期間は、そう長くはないはずじゃがのう」


「何かおかしいか? 聞いた話を、そのまま言っただけだ」



 おっと、余計なことまで喋り過ぎたか。


 この爺さんが信用に足る人物かは、判断がつきかねるしな。


 局長たちみたく、俺の事情を伝えるのは、どうにも躊躇われる。



「まあよい。そろそろ居住区に入る頃合いか。首飾りは外しておくようにな」


「ああ、分かった」



 頭痛が酷くなるようなら、迷わず遮断を使っておこう。


 前のようにはなりたくないしな。






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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