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災禍の獣と骸の竜  作者: nauji
七章 四周目 騎士学校
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47 前期試験

 入学時の印象がマズかったのだろう。


 騎士学校での生活が始まり、しばらく経過したわけだが、それはもう見事なまでに孤立しまくっていた。


 誰も彼もが一切関わろうとしやしない。


 とはいえ、だ。


 実年齢というのか、繰り返しを通じて精神年齢は加算され続けているわけで。


 今更、親子以上も歳の離れた連中と、友人関係を築こうとも思わない。


 一方で、例の少女はと言えば。


 心配は杞憂に過ぎなかった。


 友人と呼べるのかは多少疑問の余地はあるものの、多くの者に慕われている様子。


 何だったら崇拝されているとさえ言えるほどに。


 最早恒例となった、眼前で繰り広げられる日常風景。


 彼女を中心として、群衆が形成されていた。






「お姉様がお通りになります。道をお開けなさい」


「次の授業は校庭で演習ですね、お姉様ぁ~。お着替え、お手伝いします~」


「ちょっとアナタ、お世話役は当番制なのをお忘れになって? でしゃばるのも大概になさい」


「お姉様に話しかけるなど、恐れ多いにもほどがありますわ。ご自重なさって」


「我々はただ、お姉様にご奉仕するのみ。お言葉を賜ろうなどと、思うことすらおこがましい」


「ですです。抜け駆け禁止」


「だってぇ~」


「やれやれ。どうにもやり方が過剰に思えるけどね」


「お姉様の歩みを妨げるなど、あってはなりません。さあ、お退きなさい」


「男子! お姉様に視線を向けたら承知しませんよ!」



 んな理不尽な。


 とまあこんな具合に、親衛隊とやらが常に周囲を固めている状態だった。


 食堂など、生徒の集まり易い場では、さらにその数を増してみせる。


 彼女は貴重な戦力。


 是非とも協力関係を形成しておきたい。


 とは思うのだが、話し掛けることはおろか、接近することもままならず。


 無為な時間だけが過ぎてゆく。






 半年ほどが過ぎたころ。


 とある一室へと呼び出された。



「久方ぶりじゃな、二人共。何ぞ問題を起こしたりはしておらんじゃろうな?」


「問題無い」


「右に同じく」


「結構結構。どうやら、しもの校長も、余計な真似はしておらんようじゃな」



 そういや、最初こそアレだったが、もう顔も見せなくなったな。


 頻繁に見たいような奴ではないが。



「呼び出したのは他でもない、例の調査についての予定が決まったのでな。休校期間に合わせ、最初の調査に向かうぞい」


「ん? 学校が休みの期間があるのか?」


「何故に生徒の其方そちが知らぬのじゃ」



 いやまあ、話を聞けるような相手も居ないもんでね。



「もうすぐ定期試験の時期じゃ。その後、半月ほどが休みとなる」


「ふーん」



 試験がどうとかってのは、ちらほらと耳にはしていたな。



「呑気なもんじゃな。油断しておると怪我では済まんぞい」


「たかが試験で、何で怪我することになるんだよ」


「王国の学院ではどうだったか知らんが、此処で言う試験とは、すなわち実戦じゃ」


「あ?」


其方そちが此処へ来た初日を覚えとらんのか? アレと似たようなもんじゃ」


「おいおい、またやんのかよ」


「むしろ、アレのほうが異例じゃったんじゃ。試験は年に2回。半年後にも行われるわい」


「あんなもんで何を試験するってんだか」


「重要なのは試験で決定される序列のほうじゃ。最終学年では、その序列に従い騎士に叙されることになるからのう」



 へぇ、そんな仕組みがあったのか。



「ちなみに、現在の序列1位は、そこな嬢じゃでな」


「そりゃあそうだろうよ」



 コイツよりも強い生徒なんざ、そうそういて堪るかっての。



「先々のことも考えると、其方そちも騎士となったほうが、何かと都合が良かろう」


「王国出身なんだぞ? 留学してるだけだってのに、帝国の騎士になれるのかよ?」


「王国が帝国の意向に逆らえると思うとるのか?」



 帝国から独立したのが王国なわけだが。


 未だに力関係は変わっていないらしい。


 しっかし、帝国騎士ねぇ。


 色々と面倒臭そうなんだが。


 ま、考えようによっちゃ、事を起こす際に都合が良いとも言えるか。



「学内1位は不動のものじゃが、以前の結果からして、2位ぐらいにはなれるじゃろ」


「まさかとは思うが、全生徒と戦わされるわけじゃないだろうな」


「一から十まで、説明させるつもりか? そこらの教師にでも尋ねれば良かろう」


「そうかい。そりゃあ親切にどうも」


「とはいえ、目的は試験の後にこそあるんじゃ。油断して怪我などするでないぞ」



 だったら試験を免除してくれ。






 それから数日後。


 例の闘技場で、試験とやらが開始された。


 武闘祭だか、闘技祭だか、勝手な呼び名で会話が交わされている。


 まずは学年別での対戦が実施されるらしく、最上級生から順に試合が消化されてゆく。


 流石に総当たりではなく、トーナメント形式のようだ。


 序列ってのは、そのトーナメントの上位者になるわけか。


 今、勝ち残ってるのは、入学時に戦った顔ぶれが目立つ。


 1年の俺相手に、5年の生徒をぶつけていたとは。


 あの気色悪い校長は、相当な鬼畜野郎に違いあるまい。


 そういえば、野郎を見かけないな。


 この試験には携わってはいないのか。


 居ないなら居ないほうが楽でいい。


 結局、1日がかりで5年生の試合が終了した。


 この分だと、後4日は掛かるわけか。


 敷地が余ってるんだから、増設すればいいものを。






 2年生の試合。


 これはもう、予定調和に過ぎない。


 少女が危うげなく勝ち上がり、見事学年1位となった。


 ただ、圧倒的過ぎたために、他の学年とは違って時間が余る。


 というわけで、前倒しで1年の試験が開始される運びとなった。






「ようやく……ようやくこの日を迎えることができたわ」


「あ? 何が始まったんだ?」



 試合開始の合図を待っていると、何処からか嫌気のさす声が響いてきた。



「さあ覚悟なさい。前回のように、引き分けなど許さないわよ」


「……何だよ、居たのかよ」



 大して時間をかけずに、声の主を捉える。


 例によってドピンク頭をした、気色の悪い校長。



「爺さんの言いつけを守らなくていいのか?」


「黙らっしゃい! これはれっきとした授業の一環。誰に見咎められることも、ありはしないわ」


「そうか?」


「そうなのよ! さあ、ワタクシの可愛い生徒たち! 必ずや息の根を止めてみせて頂戴!」



 オマエの所為で、対戦相手が随分と委縮してるみたいなんだが。


 こっからでも、震えているのが分かるぞ。


 大体、同学年相手に、負けるわけないだろ。



「あらあら、どうしたのかしら? そんなに震えてしまって。え? 気分が優れないですって? まあ、それは大変! すぐに医務室へ向かいなさい。けど困ったわね。これでは試験にならないわ」



 ……何だ?


 この展開、対戦相手もグルってオチか?



「折角の試験が不戦敗だなんて、可哀想過ぎるわよね。ワタクシの心優しい生徒たち。彼の代わりに誰か立候補してくれないかしら?」



 はあぁ⁉


 んなアホな。



「では、僭越ながら自分が」


「まあまあ、素晴らしい生徒だわ。きっと勝ってみせて頂戴ね」


「御意に」



 何処ぞで見たバカが、颯爽と飛び降りてきた。



「また会ったな小僧」


「……どうやら前回のじゃ、加減が過ぎたらしいな」


「半年間、鍛えに鍛え抜いた剣の冴え。存分に馳走してやろう」



 入学試験でのした双剣使い。


 相変わらずの呼び方をしてきやがって。


 全く以て懲りてないらしい。



「さあ、準備はいいかしら? そろそろ始めるわよ? じゃあ皆、やっておしまいなさい!」



 あ? 皆だと?


 何を言って──。


 するとどうしたことか、生徒が次々と壁を飛び降りてくる。


 しかも各々、その手に武器を持って、だ。



「ハッ! どうだ、この数には敵うまい!」



 おいおい、全員がグルかよ⁉


 双剣を避けつつ、周囲を確認する。


 数十どころじゃない。


 百にも届く生徒が、俺を狙い殺到してくる。



「ほれほれどうした! 逃げ場なんぞありはしないぞ!」



 ……ああそうかい。


 そっちがその気なら、俺も手加減する必要は無いわけだ。


 騎士学校に来たからって、魔術の鍛錬を疎かにはしてないんだぜ?


 範囲指定は俺を中心とした横方向の楕円形。


 飛び降りてきた連中全員を対象として定める。



「やれやれだ。どうにも理解が及んでない連中ばっかりだな」


「ハッ、理解が及んでないのは、小僧のほうだろうが!」


「いいや、違うね。魔術師相手に数を頼みにしてるってのが、どうにも間が抜けてるって話さ」


「はあぁ? 何を言って──」



 ≪狂乱ヒステリア



 精神魔術の中級。


 さあ見ろ、周囲に居る誰も彼もが敵だ。


 どうそそのかされたかは知らないが、殺そうとしてきたのはオマエらのほうだ。


 精々死なない程度に殺し合ってろ。


 さてと、他はともかく、コイツは何度も小僧と呼んできやがったよな。


 もう見掛けずに済むよう、念入りに壊しておくとしようか。






 寸劇は一転、惨劇へと切り替わる。


 皆、狂ったように喚き散らし、お互いを傷付けあっている。



「な、な、な……これは、いったい……?」


「不思議か?」


「ひいぃッ⁉ いつの間に⁉」



 随分と人数を減らした闘技場の観覧席。


 見間違えるはずもない野郎へと迫る。



「あ、アナタの仕業なの⁉」


「さあて、どうだかね」


「ち、近づかないで! だ、誰か、助けに来て頂戴!」


「おいおいどうした? 何をそんなに怖がってるんだ?」


「や、やっぱり思ったとおりだったわ。ようやく本性をあらわしたわね! あの方の弟子というのも嘘だったのでしょう!」


「弟子? 局長がどうしたって?」


「あの方も、その怪しげな力で操ったんでしょう! そうに決まってるわ!」



 何を言ってるんだコイツは。



「おっと」



 以前に見かけた厳つい護衛が掴みかかってきたのを、寸でのところで躱す。


 さらに足を払ってやり、下への案内も忘れない。


 そのまま闘技場の舞台へと落ちてゆく。


 さて、護衛は2人いたはず。


 もう1人は何処だ?



「どうしてこう、役立たずばっかりなの⁉」


「その筆頭が言う台詞かね」


「キャッ⁉」



 触るのも遠慮したいところだが、グッと堪えておく。



「オマエ、やり過ぎだぜ」


「汚らわしい手で触れないで! さっさと放しなさい!」



 ドピンクの髪を掴み上げ、周囲をゆっくりと巡らす。



「お、やっともう1人も現れてくれたか」


「何をぼさっとしてるの! 早く助けなさい!」



 2人分ぐらい、残りの魔力でも何とかなりそうか。


 ドピンク頭の横に手を伸ばす。


 親指を校長に、人差し指を護衛へと向ける。



「さあ、可愛い生徒たちが下でお待ちかねだぜ」


「止めて! 放して!」



 ≪セット Α《アルファ》・Ε《エプシロン》≫


 ≪指人形フィンガー・ドールズ



 精神魔術の中級。


 親指と人差し指が光を宿したのを確認し、髪から手を放す。



「下へ落ちろ。生徒と遊んでやれ」


「「はい」」



 この様子じゃあ、今日の試験は中止かね。


 休みが待ち遠しくて堪らないぜ。






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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