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災禍の獣と骸の竜  作者: nauji
七章 四周目 騎士学校
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46 命令

 城から十分に離れ、頭痛が治まってきたところで、ようやく頭が働き出す。


 騎士学校に到着するまでは3日ほどか。


 それでも無為に過ごすわけにもいかない。


 爺さんの相手もそこそこに、得られた情報の整理に努める。


 まず何といっても、竜という存在が大きい。


 極少数の人族の異常なまでの強さ。


 それは、人族の祖たる竜の因子によるものだと云う。


 この国に於ける行動についても、その竜に影響されることになる。


 御子みこという、竜の意思を受け取ることができる存在。


 どうやら、俺がそうらしい。


 今のところ、頭痛をもたらすだけの、厄介な代物でしかないのだが。


 一介の生徒よりかは、できることも増える……と思いたい。


 少なくとも、城へ行く機会はありそうだ。


 もれなく頭痛を伴うのが、何とも厄介に過ぎるが。


 まあ、それはともかくとして、怪物をたおすためには、竜の力はかなり重要になるだろう。


 もっとよく理解しておきたいところ。


 加えて、幾つか疑問が生じてもいる。


 初代皇帝、竜と呼ばれる騎士、御子みこ、そして俺。


 初代皇帝は、武力と御子みこの感応、両方の力を有していたように思われる。


 しかしどういうわけか、現在では、その二つは別モノとなっているような話しぶりだった。


 そこでややこしいのが、俺の状態なわけで。


 前回までは持ち得なかった力を、今回は明らかに有している。


 赤竜のように圧倒的なモノではないが、それでも、騎士学校の生徒ぐらいは軽くあしらえるほど。


 この状態は、初代皇帝に近しいように思えてならない。


 後はこの、繰り返す状況に関して。


 当初は怪物の影響にも思えたが、今となっては竜が怪しくも思えてくる。


 頭の中に重く響き渡る声。


 川岸で意識を取り戻す間際に聞いたのは、まさしくあの声だった。


 御子みこに共通の現象なのか、それとも、俺だけに起きているのか。


 竜の仕業だとすれば、望みを叶えることで、この繰り返しから解放されるかもしれない。


 既に死んでいるとされる竜。


 残っているのは骸だけのようだが。


 そんな状態で滅せよとは、死骸を処分しろということなのか。


 城の何処かに安置されているであろうその死骸に、念話を試みることができたなら。


 色々と判明するかもしれない。


 次に城を訪れたとき、捜索してみるべきだろう。






 道中、3泊を挟んでから、ようやく騎士学校へと戻ってくることができた。


 どうやら城へ向かう際は、2日ほど寝入っていたようだ。


 強制的な睡眠は、魔力の枯渇による影響。


 あの時使ったのは、念話と遮断のみ。


 念話で思いっきり魔力を使ったことが原因だったのか。


 それとも、あの声が聞こえた時点で、無理矢理に念話を使用させられていたのか。


 遮断で治まったことからも、念話に近しい何かなのは、まず間違いあるまい。


 今度、城に近づく場合は、忘れずに遮断を使っておこう。



「──何をしておる、さっさと降りてこんか」


「ああ、分かってるって」



 最初見たときは、城のようだと思った校舎も、実際に帝国の城を間近で見た今となっては、小さく見えるのだから不思議なものだ。



「まずは校長に会うとするかのう。2人共、付いて参れ」


「命令?」


「そうじゃ」


「了解」



 銀髪の少女も一緒なわけか。


 そういや俺の荷物って、あの後どうなったのだろうか。


 マザーが用意してくれた物だって入ってたわけだしな。


 もし処分でもされてようものなら、あの気持ち悪い野郎を、とっくりと後悔させてやる。






 部屋の主の見た目に反して、部屋は案外まともだった。


 過度な調度品の類いも見当たらず、実利重視といった様式。


 俺たちが座り、校長は直立不動で応対している。



「陛下より勅命を賜っておる。2人は我輩の預かりとさせてもらう」


「なッ⁉ そのような勝手を──」


「まさかとは思うが、否やはあるまいな? ん?」


「くッ」


「返事が聞こえなんだが?」


「……承知いたしました」


「以降、一切の手出しは禁ずる。もし違えることがあらばどうなるか、分かっていような?」


「は、はい。勿論でございます」


「うむ。外へと連れ出す機会も増えよう。それ以外は、普通の生徒として教育せい。よいな、普通の生徒として、じゃぞ」


「お任せください」


「そうそう、忘れるところじゃった」


「まだ何かございましたでしょうか」


「我輩の部屋を用意せい。此処に滞在する機会も増えるじゃろうしな。言うまでもないが、寮とは別でな」


「すぐにご用意いたします。それまでの間は、貴賓室をご自由にお使いください」


「頼むぞい」



 力関係は、爺さんのほうが上らしいな。


 遣り取りが一段落したところを見計らって声をかけることにする。



「なあ、俺の荷物はどうなってる?」


「……寮の部屋へと運ばせてあるわ」


「そうか。ならいいんだ」



 流石に処分するような真似はしていなかったか。


 息を吐きつつ、魔術の準備を解く。



「時間を無為にするものあれじゃでな。嬢や、学内を案内してやるがよかろう」


「命令?」


「まあそうじゃな。護衛をしつつ、最後は寮に連れてゆくようにな」


「了解」


「うおッ⁉」



 ったく、何て力してやがる。


 隣に座っていたところを、首根っこを掴まれ強制的に立ち上がらされてしまった。



「これ、あまり乱暴に扱うでないわい。用をなさずに壊れてしまうじゃろうが」


「間違った?」


「もそっと加減をせい」



 絶対にコイツ、理解してないだろ!


 引きずられるようにして、部屋から連れ出されてゆく。


 と、何故だか扉を再び開け放し、部屋へと入り直した。



「校長室」


「あ、ああ、そうらしいな」


「ん。次」



 物凄く疲れそうな予感がする。






「な、なあ、いい加減、手を離してくれよ。歩き辛いんだが」


「命令?」


「いや、そういうわけじゃないが」


「そう」



 相変わらず、首根っこを掴まれたままの移動をいられる。


 コイツ、命令じゃないと聞かないのか?



「なら命令だ。手を離せ」


「了解」


「うおっと」



 移動はそのままに、手だけを離された。


 あー、既に首が痛い。



「っておい、待てっての! 置いてくなよ!」



 何から何まで命令しないとダメなのかよ⁉


 慌てて後を追い駆ける。


 歩くだけでも、常人よりも速いから大変だ。


 反射神経やら膂力りょりょくやらは増したようだが、体力だけは適応外らしい。


 すぐにも息が切れてくる。



「ハァッ、ハァッ、も、もう少し、ゆっくり歩いてくれ」


「命令?」


「ああ、そうだよ」


「了解」



 ようやく普通ぐらいまで速度が落ちた。


 この手のかかりよう、今まで会った誰よりも上だな。


 下手に力が強い分、子供よりもたちが悪い。



「階段」


「だろうな。見れば分かる」


「ん。次……廊下」


「あー、いや、何かの部屋だけ教えてくれればいいんだ。その間の経路とかは省いてくれ」


「命令?」


「そうだ」


「了解」



 やれやれだ。






 その後も、授業中の教室やら、使用中の更衣室やらと、容赦の無い案内が繰り広げられた。


 改めて実感させられたが、学院よりも数倍は広い。


 ある程度は校舎毎に施設が分かれてもいるが、如何せん数が多過ぎる。


 もう、校長室に戻るれるかも怪しいほどだ。



「闘技場」


「此処か。なあ、これって普段は何に使ってるんだ?」


「め──」


「命令だよ。つーか、この遣り取りが面倒臭過ぎるだろ。そうだな……今後、”頼む”と付けた場合は命令だと思ってくれ」


「それも命令?」


「ああ、頼む」


「了解」



 しばらく沈黙が続く。


 待てども、肝心の説明がされない。



「あーコホン。この施設の説明を頼む」


「ん。戦う場所」


「…………まさか、今ので説明は終わったのか?」


「次」


「へいへい」



 不器用過ぎる案内も、どうやら次が最後のようだ。



「寮」


「此処がそうなのか。随分とデカいな」



 寮だけで、学院ほどの規模がありそうだ。


 自分の部屋を忘れないようにしないとな。



「どうすればいい?」


「……何がだ?」



 珍しく向こうから話しかけられたから、戸惑ってしまった。



「次の命令」


「案内は寮までだったろ。なら、もう自由にしていいと思うぞ」



 部屋が何処かは、管理人に尋ねれば分かるだろうしな。



「自由……」



 コイツ、普段はどうやって生活してるんだよ。


 指示待ちして、ずっと何処かで立ち尽くしてそうなんだが。



「何も思いつかないなら、自分の部屋に戻ったらどうだ? とにかく、普段どおりに生活しとけよ」


「命令?」


「……フゥーッ、頼む」


「了解」


「っと、忘れてた。案内、ありがとうな」


「ん」



 どう考えても、普通じゃあない。


 アイツも赤竜と同じく、特別な騎士のはず。


 アレはアレで、妙な口調ではあったが、割と勝手に振舞ってはいた。


 何か、面倒な事情がありそうだ。


 せめて、友人でもいてくれればいいんだがな。






 まさかの個室。


 どうやら、生徒全員がそうらしい。


 学年毎に建物自体が分けられているらしく、卒業まで同じ部屋を使うそうだ。


 つまり、今年1年生の建物が、来年は2年生の建物という扱いに変わるだけで、利用している生徒に影響は無いわけだ。


 中々に良い仕組みだ。


 まあ、何百人居るかも分からないから、毎年引越しなどという手間を省いただけかもしれないが。


 ともあれ、紆余曲折はあったが、どうにか当面の寝床は確保できた。


 此処を拠点として、色々と行動しなくてはならない。


 この学校に於いてすべきこと。


 何と言っても、銀髪の少女を味方に引き入れることに尽きるだろう。


 後はまあ、どれだけ自分が強くなれるかってとこかね。


 今回こそは、怪物をたおしてみせる。






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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